スマートスピーカーのスキル開発による視覚障害者のプログラミング教育プログラムの構築 鶴見昌代1),宮城愛美2) 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科1),障害者高等教育研究支援センター2) キーワード:音声アシスタント(AIアシスタント)スマートスピーカー(AIスピーカー),音声ユーザーインタフェース(VUI),プログラミング教育,視覚障,害者 1.はじめに 近年,スマートスピーカーが急速に普及している。スマートスピーカーは,音声アシスタント(AIアシスタント)機能をもつスピーカーであり,AIスピーカーとも呼ばれる。音声でのやりとりをベースとするため,日常的にコミュニケーションを音声に頼ることの多い視覚障害者にはなじみやすく,視覚障害者の特性を生かす可能性のあるデバイスであると考えられる。スマートスピーカーは,プログラミングを通して,専用のアプリケーションソフト(アクションやアプリなどとも呼ばれるが,以下ではスキルと呼ぶ)を開発することもできる。ユーザーとして製品を使用するのみならず,スキルの開発において,日常的に音声を活用する視覚障害者が,他の者より有利に活躍できる可能性が期待される。スマートスピーカーのスキル開発においては,理系的なプログラミングスキルだけでなく,適切な対話モデルの設計のための文系的な素養も必要であり,チームとして開発すればコミュニケーションスキル等も要求されるため,キャリア教育の一環としての効果を果たすことも考えられる。 本研究では,スマートスピーカーのスキル開発を通して,視覚障害者のプログラミング教育プログラムの構築を目指す。このことにより,視覚障害者のさらなる職域開発も目指す。 2.実施内容 2.1 予備調査 視覚障害のある情報系の学生 2名に協力を仰ぎ,スマートスピーカーを開発・販売する Amazon社からの情報提供を得て,学生自身がスキル開発を実施する試みを行った。予備調査により,視覚障害者がスキル開発できる見通しを得た。その後,このうちの 1名が単独でスキルを開発し,Alexaスキルアワード 2018ファイナリスト賞を得[1,2],Amazon社のブログにも掲載された[3]。この学生は,他にも複数のスキルを単独で開発して,一般公開しており,スキル開発環境に一定のアクセシビリティがあると確認された[4]。 また,予備調査の中で,鶴見は Alexa第一回 Alexaスキルアワード公式ハッカソン東京でアイディアソン 1位となり,グループでスキル開発した結果,企業賞であるTwilio賞を得た。 2.2 授業における実施 鶴見と宮城の一部の授業において,スキル開発をプログラミング教育として実施した[5]。スキル開発はコマンドラインによる開発環境とGUIベースの開発環境があるが,GUIベースの開発環境の場合,弱視者でも難しい場合があることが判明した。 2.3 サイトワールド 2018におけるデモ 視覚障害者が多数集まるサイトワールドにおいて,筑波技術大学の出展の一つとして,筑波技術大学保健科学部の大学公開委員会のバックアップのもと,視覚障害のある情報系の学生 4名の協力を得て,スマートスピーカーの利便性と視覚障害者による開発についてのデモンストレーションを実施し,大きな反響を得た[6]。 2.4 チームによる開発 プログラミング教育の基盤構築の参考にするため,プログラミングスキルや視覚障害の状況が異なる情報系の大学生 4名に 2週間程度でチームによるスキル開発を実施させた[7,8]。Skypeによるグループ通話やチャットでディスカッションを行い,Dropboxでファイル共有をすることとし,スキル開発の内容や役割分担等は学生が自由に決めた。この結果,視覚障害者への理解を深めるスキルが開発でき,開発者が集まるJAWS DAYS 2019に発表申し込みしたところ,多数の申し込みの中から採択され,講演した[9,10]。講演について,Twitterなどでも,視覚障害者のプログラミングに関する可能性を感じた,などの反響があった。公開したスライドは閲覧数が既に 630を超えている(2019年 2月27日公開,2019年 4月22日時点)[9]。開発したスキルは一般公開され [11],Alexa音声ゲームトップページにも掲載された[12]。 3.おわりに スマートスピーカーにおける追加拡張機能を視覚障害者が開発できることが確認された。さらに,視覚障害のある学生らがスキルを開発し,その成果を公表することで,視覚障害者の可能性を多くの開発者に知ってもらうことができ,情報系分野で視覚障害者が活躍できる可能性が広がったと考えられる。また,この研究成果により,科学研究費補助金基盤研究(C)の獲得と公益財団法人電気通信普及財団研究調査助成の獲得につながった。今後はこれらの助成金を活用し,さらに研究を進めていく予定である。 謝辞 予備調査およびチームでのスキル開発にご参加いただいた学生の皆様に感謝いたします。 本研究の一部は,筑波技術大学研究倫理審査(承認番号H30-10)の承諾を得て行いました。 参照文献 [1]杉崎信清,ハノイの塔トレーニングスキル,Alexaスキルアワード 2018ファイナリスト賞,2018-9-29 [2]鶴見昌代,宮城愛美,「本学学生がAlexaスキルアワード 2018でファイナリスト賞を受賞」 (cited 2019-4-22) https://www.tsukuba-tech.ac.jp/activity/ activity_2018/vi_2018101101.html [3] Alexa Blogs,「スキル開発者インタビュー:筑波技術大学の杉崎信清さん」,(cited 2019-4-22)  https://developer.amazon.com/ja/blogs/alexa/ post/2baada85-424d-4de3-b95d-143549ae8d5f/ developer-interview-sugisakisan [4]宮城愛美,鶴見昌代,スマートスピーカーの機能開発における視覚障害者に対するアクセシビリティ.日本教育工学会研究報告集 ;2018-10-14(東海).18(4);p.129-132. [5]鶴見昌代,スマートスピーカーのスキル開発を通した教育プログラム構築の試み,未来の先生展 2018,20189-16(東京).(ポスター発表) [6]鶴見昌代,宮城愛美,視覚障害者によるスマートスピーカー活用の可能性(サイトワールド 2018出展報告),筑波技術大学テクノレポート. 26 (2);p.74-79 [7]宮城愛美,鶴見昌代,スマートスピーカーを用いたチームによるプログラミング学習の実践,第 60回弱視教育研究全国大会報告集; 2019-1-28(大阪). [8]鶴見昌代,宮城愛美,スマートスピーカーを用いたチーム・プログラミングの実践 -視覚障害者のためのプログラミング教育を見据えて -,電子情報通信学会技術研究報告(福祉情報工学),2019-3-8(つくば). 118(491);p.7-10 [9]筑波技術大学 Alexa開発チーム(杉崎信清,大塚勇哉,金田はる菜,中村友海,鶴見昌代,宮城愛美),視覚障害学生のチームによるAlexaスキル開発―スマートスピーカーでワクワクしよう ― ,JAWS DAYS 2019,2019-2-23(東京) (cited 2019-4-22) http://www.cs.k.tsukubatech.ac.jp/labo/tsurumi/SmartSpeaker/ JAWSDAYS2019.html [10]鶴見昌代,宮城愛美,「情報システム学科の学生チームが JAWS DAYS 2019で登壇」(cited 20194-22) https://www.tsukuba-tech.ac.jp/activity/ vi_2019031201.html [11]筑波技術大学スマートスピーカーアプリ開発チーム(杉崎信清,大塚勇哉,金田はる菜,中村友海),Audio Labyrinth~脱出ゲーム~ , (cited 2019-4-22) https://www.amazon.co.jp/dp/B07P5SDFN8/ [12] Alexa音声ゲーム,(cited 2019-4-22) https:// developer.amazon.com/ja/alexa-skills-kit/gaming