視覚障害者を対象とした教育支援システムの開発 岡本 健 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 キーワード:eラーニング, LMS,アクセシビリティ,情報保障 現在,大学をはじめとする高等教育機関では,eラーニングの一つとしてLMS(Learning Management System, 学習管理システム)が広く利用されている。例えば大学 ICT推進協議会からは,2015年度において,全学でLMSを導入している大学の割合は,国立大学,公立大学,私立大学の順にそれぞれ,89.9%,63.2%,50%と報告されている[1]。これらの教育機関において一般的に使用されているLMSは,画面上に多くのフレームやアイコンが配置されており,晴眼者が利用する場合は直感的でわかりやすいインターフェースになっている。一方で視覚障害学生に対しては,このような恩恵を受けることができず,逆に現在主流となっているデザインやインターフェースの方向性が逆にアクセシビリティをより困難なものにしている。 例えば,主要なLMSの一つであるMoodleの場合,一般的な設定で運用した際,Webページのレイアウトデザインは 1列目にナビゲーション,2列目にトピック,3列目に最新ニュースというように 3分割されたブロックから構成される。さらに画面レイアウトが多段というように複雑なインターフェースになっているため,弱視学生は,見え方に応じて画面の拡大・縮小を繰り返す必要がある。また全盲学生は,キーボードのみで所定のリンクページをたどる必要があり,操作している場所の特定や構造把握が難しい。 本研究では,これらの問題点を解決するため,視覚障害学生に適した eラーニングや LMS構築のために求められる条件や評価項目に関する要件の整備を行った。また,教育 Webシステムの構築といった取り組みにより,教育支援システムの開発を推し進めた。これによりパソコンの習熟度が高くなくても容易に使用できる新しい LMSのシステム環境の提供を目指した。 著者はこれまでの成果 [2,4]や今回の取り組みにより,視覚障害学生が LMSを利用時において高いアクセシビリティを得るための評価項目として,4つの指標を取り上げた。 1. スクリーンリーダの可用性:LMSに記載されているコンテンツは原則として,すべてスクリーンリーダ(音声読み上げソフト)によって話すことができる仕様になっていること。 2. キーボードの可用性:LMSはキーボードや点字キーボード(6点入力キーボード)に対応していること。LMSの中には,Java Plug-inや Flashを使用しており,画面操作はマウスのみとなっている場合があるが,マウスポインタを使用しない全盲学生にとって適切ではない。 3. 表やグラフに対する配慮:表やグラフ,画像など,視覚に依存するコンテンツについては,htmlの alt属性により代替文字列を用意する(スクリーンリーダが alt属性を読み上げる)ことはもちろん,表ならばエクセル形式,グラフならばエーデル形式というように,適宜アクセシビリティの高いファイルを別途設置しておく。 4. 単一または少ないフレーム:LMSが複数のフレームで構成されている場合,視覚障害学生は,現在読み上げている箇所が Web全体のどの位置にいるか,状況把握が非常に難しくなる。 上記以外にも,点字ディスプレイが利用できるといったマルチモーダル・インタフェースの活用可能性などがあげられる。 LMSのアクセシビリティに関する実証実験として,これまでに筆者は eラーニングツールのまなびシート[5]に対し,新たな機能を付加するというアプローチで新しい LMSツールを試作した。また,Moodleに対しても,設定パラメータの変更やプラグインを組み込む等の方法により,同様の取り組みを行っている。 試作ツールの作成にあたっては,前述の評価項目で求められる要件をクリアし,かつユニバーサルデザインについても視野に入れた仕様になるよう留意した。 これらのツールは,前述の指標に対して高い評価が得られることを目指している。特にスクリーンリーダによる読み上げ能力やキーボード対応については,これまでの実証実験により弱視や全盲の学生に対し,高いアクセシビリティをもつことを確認した。これらの成果については,研究会やシンポジウム等を用いて適宜報告する予定である。 参照文献 [1]大学 ICT推進協議会:高等教育機関における ICTの利活用に関する調査研究 結果報告書,2016 [2]岡本健,坂尻正次,三宅輝久,石塚和重,野口栄太郎,大越教夫:視覚に障害をもつ医療系学生を対象としたeラーニング教材の作成,第 76回全国大会,2H5, pp.4-515~ 4-516,情報処理学会,2014. [3]岡本健,金堀利洋,飯塚潤一:視覚に障害のある学生を対象とした LMSの基盤構築,第 80回全国大会,1G-5, pp.4-449~4-450, 情報処理学会,2018. [4]岡本健,大西淳児,関田巖:講演会の参加に適した盲ろう者向け情報保障ツールの基盤構築,第 81回全国大会,5J-4, pp.4-343~4-344, 情報処理学会,2019.s [5]まなびシート,http://anzas.net/manabi/