視覚障害学生に対するオンライン動画(YouTube LIVE)を用いた授業効果 松井 康 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 理学療法学専攻 キーワード:視覚障害者,オンライン授業 成果の概要 我が国では,平成 25年 6月,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(「障害者差別解消法」)が制定され,平成 28年 4月1日から施行された。障害者差別解消法には,合理的配慮の提供が明記されており,教育現場においても合理的配慮は必要であると考えられる。 本学における視覚障害学生は,個人により障害の性質や程度が大きく異なる。視覚障害学生の中には,授業中,教員の様子や板書,そして授業資料を大型モニターやプロジェクター等を用いて表示した際の確認が,可能な学生もいれば,難しい学生もおり,個人差が大きい状態である。板書やスライドなどを見るのが難しい学生にとっては,配付資料や教員が話をする音声情報のみに依存することになり,多くの情報を伝わりにくい側面がある。また,教員の話を一度聞き逃すと,その授業中にもう一度聞き直すのが難しいという現状がある。この問題を解決するために,オンライン動画を用いた授業の実施を提言したい。オンライン動画を用いた授業を行った場合,一度聞き逃した教員の話である音声情報をリアルタイムで聞き直すことができ,学生個々において自由に操作できる利点があり,視覚障害学生にとって非常に有用であると考えられる。 本事業は,視覚障害者に対するオンライン授業の効果を検討することを目的として実施した。 対象は,弱視学生である本学理学療法学専攻の 4年次の学生 8名とした。対象とする授業は,国家試験模擬試験の解説授業とした。国家試験模擬試験の解説授業の内,3回を通常の対面式の授業,もう3回をオンライン動画による授業と,した。オンライン動画による授業の実施方法は,教員がノートPCを用いてオンライン動画用に授業の動画撮影をおこない,撮影した動画は,OBS Studioを使用し,オンライン回線に接続した状態で,リアルタイムで Youtube LIVEにアップロードされるようにした。授業の受け方は,各学生が PC,タブレットなどの端末の中から,個々人が使用しやすい端末を使用した。それぞれの端末は,学内 LANネットワークに接続してもらった状態で,YouTube LIVEにアクセスして,視聴することとした。オンライン動画による授業の効果を検討するために,対象者の視覚情報(視力,視野,その他各種視覚障害に関する情報)を収集した。授業終了後,2種類の授業に関するアンケート調査を実施し,オンライン動画による授業の評価をおこなった。 通常授業とオンライン授業を比較したところ,「授業はトラブルなく受けることができたか」という項目で 4名低い点数をつけており,その他の項目で,「授業方法は良いと感じたか」「授業方法は理解を深めやすい方法であったか」「授業を受,けた後,復習を行いやすいと感じたか」の項目では,差が見られなかった。また,自由記載の項目では,オンライン授業において「聞き逃した箇所の再生ができるのは便利だと思った。」という記載があった。 本事業の結果より,視覚障害者において,オンライン授業は,トラブルなく受けることができるかどうかが課題として挙げられたが,通常授業と同等の効果が得られる可能性がアンケート結果より示唆された。また,視覚障害者にとって授業内容を聞くと言うことの重要度は高いが,聞き直しができることが便利というコメントもあったことより,オンライン授業が視覚障害者にとって有用となりうる可能性があると考えられる。