視覚障害者の頚部痛に着目した机上動作の特徴とQOLに関する調査 中村直子1),柳 久子2) 筑波技術大学 保健科学部 保健学科1),筑波大学 医学医療系2) キーワード:弱視,視野障害,頚部痛,傾斜角,頚椎 1.背景 近年,高齢者における眼疾患患者の増加や再生医療による角膜移植などが注目されており,眼疾患の症状や治療などの一次医療や障害補償に関して多くの研究が報告されている。しかし,視覚障害が身体に及ぼす二次障害など,視機能以外の身体各部への影響についての報告は非常に少ない。 私は日々視覚に障害のある方と関わる中で,彼らの中に頚部に痛みを訴える人が多いことに気づいた。そこで視覚障害者は頚椎の障害が多いのか否か,どのような二次障害を併発しやすいのか調べたが,国内外でこれに関する報告はほとんどされておらず,弱視者は健常者と比べバランスが悪い(Tomomitsu,2013),視力が悪いほど QOLが低値となる(Awamy,2009; Fujita,2003)などわずかな発表があるのみであった。そこで本研究では弱視者の頭頚部肢位に着目し,動作の特徴や痛みの有無を調査・報告してきた。今回は本研究の結果の一部について報告する。 2.目的 視力・視野障害のある方の頚部痛に着目し,頚の痛みが机上動作時の頭頚部傾斜角や,目と文字の距離,QOL等にどのような影響があるか調査する。 3.対象 対象者は 18~ 40歳代の男女で,墨字から情報を得ている視覚障害者とし,以下 2群に分けた。1)弱視群:良眼矯正視力 0.3未満のもの,視野障害群の基準を満たさないもの。2)視野障害群:両眼による視野の 1/2以上が欠損しているもの,弱視の合併を含む。 4.測定方法 A.机上動作の設定 以下1)~6)を使用して書字・読字を行った。1つの姿勢は 3分間行い最後の 30秒を測定した。1)視覚補助具なし(眼鏡・コンタクトレンズのみ使用),2)拡大読書器使用,3)ノートPC操作,4)デスクトップ PC操作,5)タブレット端末操作,6)携帯電話操作。 B.測定内容 1)各姿勢における外眼角と文字との距離,及び頭部・頚椎の傾斜角を測定(図1)。レーザー距離傾斜計DISSTO TMC300, Leica Geogystems社製を使用。2)主観的な姿勢の困難さを聴取。各姿勢の困難さを継続可能時間で表したオリジナルのスケール「姿勢のしづらさ0~ 6段階」を作成し(図1),口頭にて聴取。 3)基本情報の確認。事前に対象者の視覚障害の種類や程度,QOL,筋骨格系の痛みの有無などを自記式質問紙にて調査。痛みの頻度については,常に痛い,週〇日程度,月〇日程度などの頻度を確認し,1年間に何日分痛みがあるかを 100日あたりに換算した。 図1 姿勢のしづらさ(左)距離・傾斜角の測定方法(右) 5.結果 視野障害群に主に先天性疾患の網膜色素変性症の方が多かったため,先天性・進行性の項目で群間に有意差が見られた(表 1)。頭痛・頚部痛・腰痛については半数以上の人に痛みがあったが,2群間に有意差はなかった(表 2)。頚部痛の頻度と頭頚部肢位についてはいくつかの作業で有意差がみられ,ノートPCのタイピング作業においては弱視群で正の相関が,視野障害群では負の相関がみられた(表 3)。主観的尺度の姿勢のしづらさは,頚部痛との関係は見られなかった(表 4)。頚部痛の頻度とSF36については体の痛みなどの身体的側面の一部の項目に関係がみられた(表5)。 表1 対象者の特性 表2 痛みについての自記式質問紙調査結果 表3 頚部痛の頻度と頭部~頚椎傾斜角および眼と文字の距離との単相関 表4 頚部痛の頻度と姿勢のしづらさとの単相関 表5 頚部痛頻度とSF36(QOL)との単相関 6.考察 弱視群では常に頚部痛がある人ほど,ノートPC入力において頭頚部の前傾が少なくなるよう,文字の拡大率を上げて作業している可能性が考えられ,逆に視野障害群で頚部痛の頻度が高い人は,文字はあまり拡大せず,頭頚部を前傾させた姿勢で入力する可能性が考えられた。このように頭頚部肢位は 2群で違いがみられたが,主観的なしづらさは頚部痛とはあまり関係がみられなかった。なお本研究はサンプルサイズの小さい横断研究であり,ホーソン効果が否定できない。 7.成果報告 第 16回日本ロービジョン学会学術総会,第 25回視覚障害リハビリテーション研究発表大会,筑波技術大学テクノレポート2016,2017にて報告した。 8.謝辞 本研究は JSPS科研費 24700586,および筑波技術大学教育研究等高度化推進事業の助成を受けたものです。