パーキンソン病患者に対する下肢陽圧免荷陽圧運動による機能改善効果の研究 三浦美佐1),白岩伸子2),木村典子3) 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 理学療法学専攻1),鍼灸学専攻2),附属東西医学統合医療センター3) キーワード:パーキンソン病患者,下肢陽圧免荷歩行,すくみ足,筋電図 1.研究背景 一般にパーキンソン病患者(以下 PD)は最近の調査によると,人口 10万人当たり約 100~ 150 人の有病率で全国では約 12万人程度で,有病者に占める高齢者の割合は増加し続けている(平成 23年厚生労働省調査)。その臨床症状は,振戦,固縮,無動,進行期の姿勢反射障害の 4主徴であり,医学的治療はもっぱら投薬,リハビリを中心に行われ,難治性の疾患に対しては脳深部刺激療法など手術治療が行われることもあるが,根治は困難とされている(日本神経学会ガイドライン2011)。なかでもPDの歩行障害が ADLや QOLの低下に関与しているとされている。一方,転倒リスクが少ない環境において,すくみ足や小刻み歩行が減少するとされている。また,下肢陽圧式空圧免荷トレッドミル(lower body positive pressure,以下LBPP)は,若年者や整形外科疾患を持つ高齢者などを対象に,上体を支えて下肢にかかる体重を軽減することで,筋力や運動耐容能に有効かどうか検討する先行研究が報告されているが,PD患者の歩行障害に対する研究はまだ少ない .そこで,PDに対し,安全かつ不快感を伴わない下肢陽圧免荷陽圧運動を行い,その結果を解析し,通常の運動療法と比較して身体機能向上に最も効果的な条件を設定する事を本研究の目的とした。 2.研究方法 研究方法は前向き介入研究とし,対象者のすくみ足の程度をアンケート調査(FOG-Q), 筋電計による筋固縮の評価を検討すると共に,歩行速度と歩数について検討した。 2.1 対象について 40歳以上の PD患者の中で,歩行障害がある者のうち3か月以上 ADLに変化のない2症例(68歳男性(H-Y Ⅲ度),62歳男性(H-Y Ⅳ度) に,8週間 LBPPによるリハビリテーション介入を実施した。 2.2 LBPPの運動方法について コンプレッサーから空気が流入し,丁度器機の中が風船の中身のように,体を上方に挙上する圧力が発生する。これにより,体重の免荷が可能となり(2.0kPaで 15~20㎏の免荷),関節に過度な負担がかからず歩行可能となる。具体的には,それぞれの被験者に不快に感じない強度である,運動療法は Borg指数 11~13で週に 1回 6分間実施し,8週間継続した。 (図) 下肢陽圧免荷トレッドミル装置「てらすウオーカー」(昭和電機(株),大阪) 2.3 介入前後でトーヌス筋電計による筋固縮評価,10m直線歩行および10m往復歩行, FOG-Qの変化を検討した。 3.結果 本研究成果の詳細は現在学術誌にて発表する予定であるため,以下に要旨のみを記す。8週間の介入中は,薬剤の使用状況に変化はなく,安全に実施可能であった。LBPPでの 8週介入後,筋トーヌス筋電計では上肢(肘関節)より下肢(足関節)で筋固縮の改善傾向がみられた。また,10m直線および往復歩行では,LBPP後に H-Y Ⅳ度症例で歩幅や歩行速度の改善傾向があった。LBPP前後で,FOGQの明らかな改善は認めなかった。 4.考察 本研究では,H-Y Ⅲ度1例,Ⅳ度1例の PD患者2症例において,PDの諸症状である歩行障害や筋固縮に対するLBPP運動療法の効果を検討した。 少数例の検討ではあるが,まず筋トーヌス筋電計測定では,LBPP介入の 8週後,肘関節では明らかな変化は認めず,足関節で筋固縮の改善傾向が認められた。 また,歩幅,歩行速度は,H-Y Ⅲ度より立位・歩行障害が顕著なⅣ度症例において,LBPP後に改善傾向が見られたことが特徴的であった。これらのことより,PD進行期においては,転倒リスクを除くことで歩容が改善する可能性が示唆された。すくみ足のスケールであるFOGQは, H-YⅢ度よりⅣ度症例において明らかに高値で,PDの歩行障害評価として適切と思われたが,LBPP後の改善は明らかではなかった。 今後は,さらに LBPP介入例を増やし,また非介入例との比較検討も行っていくことが必要と考えられた。 参照文献 [1]三浦美佐,平山暁,大和田滋ら.下肢陽圧免荷歩行が高齢運動器障害者の身体諸機能に与える影響の検討の研究.筑波技術大学テクノレポート 25(1), 106-107, 2017-20 [2]岡田洋平,矢倉一,高取克彦ら.パーキンソン病患者に対する部分免荷装置を用いた床上歩行練習の影響 .理学療法学 37(2),91-95,2010. [3] M Miura, N Ohkoshi , M Kohzuki, Y Ogawa, H Kinoshita, S Matsushita,T Sakuma, Y Matsui, O Ito. Effects of ergometer exercise in an upright position on autonomic nervous activity in patients with Parkinson’s disease. NTUT Education of Disabilities 14, 23-25, 2016.三浦美佐.パーキンソン病患者に対する自転車運動での身体機能改善効果の臨床試験.筑波技術大学テクノレポート 23(1), 193-193, 2015-12.