文脈追従型字幕提示の評価 永盛祐介 筑波技術大学 産業技術学部 総合デザイン学科 キーワード:字幕,Eラーニング,アイトラッカー,唾液アミラーゼ濃度計測,ストレス 1.背景と目的 本研究ではPCのモニタで活用する自習型Eラーニングシステムを前提とし,講義者の映像とスライドの他に,どのような情報が,どのような位置に,どのような見た目で存在すれば聴覚障害学生が内容を理解し,ストレスを感じずに学習できるかを探っているところである。本稿では通常型字幕と文脈依存型字幕の比較実験を行った結果を報告する。被験者に複数パターンの字幕表現を呈示し,その際の学習効果測定のための質問紙調査に加え,ストレスは学習の動機と関連付いているという考えに基づき,唾液中アミラーゼ計測(ストレス計測)と注視点計測を用いて評価した。これらによって得られた知見を元に,聴覚障害学生のための自習型Eラーニングシステムの最適な画面構成を設計することが目的である。 2.実験の方法 聴覚障害学生に特化した自習用Eラーニングを設計するために,通常型字幕と文脈依存型字幕の比較実験を行った。通常型字幕は画面下部に字幕が表示される,一般的な字幕表示である。対して文脈依存型字幕は本研究が提案する字幕の表示方法の一案である。これは状況に合わせて字幕の表示位置が変化する字幕である。たとえば話者が喋っているときは話者の顔の横に字幕を表示する。また,図1はスケッチを指導する動画の例であるが「,ここ,これ,それ,あれ」などの指示語により注目させたい箇所がある場合は,その箇所に字幕を表示させている。 図1 右:通所型字幕 左:文脈依存型字幕。 このような通常型字幕と文脈依存型字幕の双方を被験 者に呈示しその差異を検討した。具体的な手順は次の通りである。 1.注視点計測装置内蔵モニタの調整(3分)2.唾液アミラーゼ濃度の計測(1分)3.Eラーニング映像A視聴(5分)4.唾液アミラーゼ濃度の計測(1分)5.休憩(任意時間)6.唾液アミラーゼ濃度の計測(1分)7.Eラーニング映像B視聴(5分)8.唾液アミラーゼ濃度の計測(1分)9.アンケート回答(3分) Eラーニング映像AとBは通常型字幕と文脈依存型字幕がランダムな順番に呈示される。アンケートの内容は以下の通りである。 ●ビデオを見る際に,内容の理解に役に立った順に順位を付けて下さい。(□音声 □字幕 □手話 □表情)●いずれの字幕呈示方法が理解しやすかったですか?(□通常型字幕 □文脈依存型字幕)●いずれの字幕呈示方法がより読みやすかったですか?(□通常型字幕 □文脈依存型字幕)注視点計測にはTobii社製注視点計測装置T60を用い,アミラーゼ計測にはニプロ製唾液アミラーゼモニターを使用した。 4.結果と考察 27名の聴覚障害学生に対し,従来型字幕と文脈依存型字幕双方を呈示し比較を行った。2種類の字幕の映像それぞれを見る前後の唾液アミラーゼ濃度を比較し,変化の度合いを対応のあるt検定で比較したところ,有意差は認められなかった。この結果はストレスには差が無いことを示していると同時に,映像時間が短時間だったためにストレスに差が発現しなかった可能性を示唆している。注視点の座標データから映像閲覧時の総移動ピクセル数を求め,対応のあるt検定で比較したところ,従来型字幕と比べて文 脈依存型字幕は,有意に注視点移動量が少なかった。(p < 0.05)文脈依存型字幕によって適切な注視点誘導が実現されていると考えられる。内容の理解に役に立った情報をSpearmanの順位相関係数で比較したところ,[字幕 > 手話 = 音声 > 表情]となった。(手話VS音声以外は p < 0.01)字幕が最重要であることが理解できる。理解度と読みやすさの主観評価に有意差は認められなかった。文脈依存型字幕のメリットは感じられなかったという結果ではあるが,逆説的に捉えると違和感を伴わず受け入れられてい ると考えることも出来る。今後,実験デザイン改善と同時に被験者を増やし,より詳細な検討をしていきたい。 5.関連する学会発表 永盛祐介,西岡仁也,中島瑞季.聴覚障害学生のための自習用Eラーニングシステムの評価.第9回日本感性工学会春季大会概要集(USB);2014-3-22(北海道大学). 2014.