透析患者に対する下肢電気刺激療法と運動療法による運動耐容能改善効果の比較対象臨床試験の研究 三浦美佐 筑波技術大学 保健科学部 保健学科理学療法学専攻 キーワード:血液透析,運動療法,下肢電気刺激,運動耐容能 成果の概要 わが国の身体障害者に占める内部障害者の増加が著しく,なかでも腎臓機能障害者は内部障害者の中で第2位の患者数を示している。腎臓機能障害者の代表格は慢性腎不全透析患者であるが,2011年の透析人口全体ではついに30万人を突破し,国民400人に1人の割合にまで高まった。しかもその予備軍は更に多い。しかし,近年の血液透析療法の進歩はめざましく,長期間の生存が可能になってきた。その一方で,透析患者のADL自立度は,脳血管疾患患者より比較的保たれているとはいえ,透析患者の運動耐容能自体は心不全患者やCOPD患者の運動耐容能と同程度まで低下している。また運動習慣のない透析患者や運動耐容能の低い透析患者の生命予後は不良であることが判明し,透析療法には至らない保存期慢性腎不全患者においても状況は同様である。今回,患者に不快感を与えない微弱な電気刺激や運動療法を腎不全患者に適用して,それらの臨床的有効性を検証したので,以下に報告する。運動療法は,運動負荷試験にて心電図異常がないことを確認,嫌気性代謝閾値(AT)を計測し,このATレベルで自転車エルゴメーターを図1のように,週1〜2回30分間施行した。電気刺激療法は,図2のように10Hzの微弱電流を下肢に痛み閾値以下の強度で通電した。 図1 透析中の運動例 図2 透析中の電気刺激例 症例数は15例で,運動療法群5例,電気刺激群5例,対照群(通常の血液透析治療)18例とした。性別は, 男性12例,女性3例で,年齢71±9歳,身長161.5±6.9,体重(ドライウエイト)60±14.4sであった。18例に2型糖尿病,26例に高血圧を認め,全例が4年以上の透析歴を有していた。介入前の心臓自律神経活動の計測では,交感神経活動の過活動と副交感神経活動低下が認められ,日常生活の活動量も,年齢平均値よりも50パーセント以上低下していた。介入前と介入90日後の前後比較では,大腿四頭筋力では運動療法群70.0→84.0,電気刺激群で45.0→52.3N改善が認められたが,対照群に変化は認められなかった。心臓自律神経活動の変化でも,交感神経活動の低下が認められたが,電気刺激群で副交感神経活動がより活性化されていた。これらの成果は,第20回心臓リハビリテーション学会および,第8回国際リハビリテーション医学会議(ISPRM 2014)で発表予定であり,データの1部分は英語原著論文Proceedings of the 7th World Congress of the International Society of Physical and Rehabilitation Medicineにすでに掲載されている。また非透析日に,慢性腎不全の代表格である,糖尿病性腎症(CKDステージ5)と慢性糸球体腎炎(ステージ2)に週1日,30分間のATレベルでの有酸素運動を実施した結果でも,介入前後に交感神経活動の抑制および,持続性交感神経活動の抑制が認められた。しかし,週1 日の運動では,CKDステージ5の患者の運動耐容能は改善できなかった。したがって,運動の頻度や運動への参加部位が多ければ多いほど,筋力や運動耐容能は改善しうる可能性が示唆されたが,週1日の有酸素運動でも,交感神経活動に影響を与えうると考えられる。この成果は,第4回日本腎臓リハビリテーション学会にて発表予定である。本研究の限界は,対象者数が少ないこと,比較的若年 層が対象であったため,増加している高齢透析者に対して対応可能かどうか,安全面で検討されていないこと,介入期間が短いこと,があげられる。今後は,対象数を増やし,運動リスクがより高い高齢透析者で,長期の介入を行い,効果を検討する必要があると考えられる。