障害当事者が直接参加可能なUD環境評価システムの開発と評価 鈴木拓弥 筑波技術大学 産業技術学部 総合デザイン学科 要旨:ユニバーサルデザイン(以下UD)情報を扱った地図情報サービスは,提供している情報や,ユーザー参加の形態などについて様々なサービスが存在している。多くは障害当事者不在のまま開発と運用がなされ,十分に当事者性や主体性を反映しているとは言い難い。システムの受容性は障害当事者の評価に応じるべきであり,特に環境評価においては,当事者自身がデータの入力者・作成者となるべきである。本研究では,過去に開発した環境評価のためのデータベースシステム,および直接データを現場で作成することができる携帯デバイス上のアプリケーションを用い,障害当事者自身によって多数のUD環境情報をフィールド上で登録し,システムの評価を実施した。キーワード:ユニバーサルデザイン,データベース,当事者性,現場性 1.はじめに 平成16年度より,つくば市と本学はUD推進事業を連携しておこない,UD基本方針策定,つくば市職員UD研修やイベントUDチェックシステムの開発など,職員の意識向上とUD推進の具体的方策を進めてきた[1][2][3][4]。しかし,これまでの事業では官学の連携に留まり,UDによるまちづくりの基本方針である市民参加や障害当事者の参加が十分に行われてこなかった。そこで市民や事業者が直接利用できる枠組みとして,平成21年度に「イベントユニバーサルデザインチェックシステム[5]」を開発,平成22年度から23年度にかけて,障害当事者が直接参加できる「つくば市ユニバーサルデザインマップ[6]」や「つくば市民参加のユニバーサルデザインワークショップの実践と得られたUD知見の蓄積・活用のためのデータベースの開発」を実施,平成24年度に「当事者入力とデータベースとの即時連携を可能にするユニバーサルデザインワークショップのデータ入力アプリケーションの開発[7]」を実施した。これらの活動を通じ,障害当事者や市民参加の受け皿となるシステムの開発を行い,高い成果を得た。システムは安定して動作しているが,システムの開発自体は産学官連携の仕組みを作ったにすぎず,実際のUD環境評価やシステムの活用は十分ではなかった。 2.UD環境情報の登録 本研究では昨年度までに開発したUD環境評価システム を用いて現場性の高いUD環境情報の登録を行った。調査は筑波技術大学産業技術学部の学生5名,市外の協力者1名に依頼した。5名の学生にはつくば市内において担当区域を設定,約3時間,単独で10〜15箇所のUD情報の登録を実施してもらった。調査は各学生各自が所持しているスマートフォンを用い,昨年度開発したアプリケーションをインストールして利用し,UD情報を登録した。事前にアプリケーションのインストールなどの簡単な説明は行ったが,アプリケーションの利用方法については各自の習得に任せ,特別な配慮は行っていない。5名の内,3名がAndroidデバイスを利用し,残り二名がiOSデバイスを利用した。デバイス間で画像の取り扱いに僅かな差異があるが,各デバイスにおけるソフトウェアの機能は全く同一のものとした。 3.システムの評価 UD環境情報の登録後,本システムの評価を実施した。評価はアンケート形式による主観的な調査を実施した。得られた回答は以下の通りである。・ロード時間が長い。データの受信に失敗することもあった。・画像を読み込む時や,画面遷移時などに待たされる時がある。・特定の場所で投稿に失敗を繰り返す時があった。・投稿ボタンを押した後,送信されているのか認識できないため,送信中を示すマークの表示がほしい。 ・携帯デバイス上のアプリケーションから写真データのアップロードが上手くいかなかったため,PC上から登録した。以上のように,回答の多くは携帯デバイス上のアプリケーションのレスポンスに関するもが多かった。 4.システムの改善 アンケート結果を受け,システムの拡張とインタフェースを改良した.UD環境情報に関する改善要求は無かったため,システムの基本設計は変更していない。システムの改良は,携帯デバイス上のアプリケーション,データベースサーバ,Webアプリケーションのそれぞれについて実施した。携帯デバイス上のアプリケーションのレスポンスの悪さについては,データベースとデバイス間でやりとりされる写真データを最適化し,通信量を減少させた。これにより写真データのやりとりを伴うページのレスポンスが大幅に改善された(図1)。 図1 写真データを伴う編集画面の例 従来のつくばUDマップは,サーバサイド側プログラムにコーディングルールが存在せず,不要なデータを含んだ通信や,処理の冗長性が見られた為,著名なフレームワーク を導入し,コーディングルールを明確にした上で,上記問題への対応を行った。フレームワーク導入によって,レスポンスが改善しただけでなく,オリジナルコーディング部分が減り,プログラムの可読性が改善され,運用・保守時に,機能追加・問題修正部分の切り分けが容易となった。 5.まとめ 本研究を通じ,システムの評価とフィードバックを実施,障害当事者がより利用しやすいシステムとして改良することができた。システムは既に公開しており,今回の調査とは別に,利用者から以下の改善要求が寄せられた。今後,普及を目指す中で,改善や機能追加を行っていきたいと考えている。・現在地から近い情報だけを優先的に表示する機能・障害特性に応じた提供情報の優先機能など,コンシェルジュ的な機能また,今まではつくば市に限定して運用していたが,システム自体は全国の情報を扱うことができるため,今後は他の市町村のUD環境情報などを積極的に登録,活用していきたいと考えている。 参考文献 [1] 山脇博紀・生田目美紀,つくば市職員UD研修の実践とアンケートによる研修の評価,第3回国際ユニヴァーサルデザイン会議 2010 in はままつ[2] 山脇博紀,つくば市職員のためのユニバーサルデザイン研修,第10回国際シンポジウム(筑波技術大学)[3] 山脇博紀・生田目美紀・長島一道・桜庭晶子・伊藤三千代,疑似体験の意義と課題〜つくば市職員ユニバーサルデザイン研修におけるケース研究から〜;福祉のまちづくり学会2010[4] 鈴木拓弥・山脇博紀・生田目美紀,つくば市イベント・ユニバーサル・デザインの実践報告;福祉のまちづくり学会2010[5] 鈴木拓弥,山脇博紀,井上征矢,生田目美紀;イベントユニバーサルデザインチェックシステム;日本デザイン学会[6] 鈴木拓弥,山脇博紀,生田目美紀;つくば市ユニバーサルデザインマップ;日本デザイン学会[7] 鈴木拓弥,山脇博紀;当事者入力とデータベースとの即時連携を可能にするユニバーサルデザインワークショップのデータ入力アプリケーションの開発;筑波技術大学テクノレポート Vol.21 (2) : p.120-121