按摩療法のエビデンス構築：視覚に障害のあるマッサージ師の職域拡大を視野に入れて
殿山	希
筑波技術大学　保健科学部　保健学科　鍼灸学専攻
キーワード：按摩マッサージ，がんサバイバー，パーキンソン病，職域開拓
１．成果の概要 
按摩マッサージ療法の臨床的効果の検討を目的に，平成22年度文部科学省科学研究費補助金基盤研究C（22〜26年度）『按摩マッサージ療法のエビデンスに基づいた職域の開拓：緩和ケアチームへの参入』の流れの中で，がんサバイバー（がんを発症して医学的標準治療を行った後，３年を経過したが再発していないがん生存者）やパーキンソン病患者に対して按摩マッサージ療法の有効性を検討している。平成25年度も臨床研究を継続した。
１．１　がんサバイバーに対する継続的按摩療法の有効性　　	の検証
１．１．１　背景
2025〜29年の日本のがん将来予測では，がん死亡数・罹患数ともに男性では2015年以降増加傾向は緩やかとなるが，女性はそれまでと同様の割合で増加し続ける。[1]女性では，罹患数の増加の大きな部位としては，口腔・咽頭，腎・尿路，子宮体部，肺，すい臓，子宮頚部のがんの増加が続くことが予想された。[1]一方，早期発見とがんの治療の進歩が近年がん患者の予後を改善したことで，がん有病数の増加は明白であり，社会におけるがん治療，ケアのあり方を再検討する必要性が生じている。[1]がんサバイバーは，治療終了後も再発や死への不安を恒常的に抱えており，心身ともに非常にストレスフルな状況にあることが知られている。[2-4]また，女性では，乳房，子宮，甲状腺，卵巣がんで若年の有病数が多く，[1]がんとともに生きる時間が長いことから，特に心身のケアが必要であると考えられる。按摩マッサージ治療は施術者と患者が1対1で長い施術時間を共有する＝患者の心身に向き合うという特徴がある。施術者の技術を通して，身体的な改善に貢献することは基より，施術者との時間から患者の「気づき」があり，精神・心理面での効果が期待される。また，これらの心身の改善
から健康関連QOLを高めることが考えられる。そこで，婦人科がん克服後のがんサバイバーを対象に按摩マッサージ療法の有効性の検証を目的に平成24年10月より２年間の研究期間を設けてランダム化比較試験を実施している。予備研究から算出した必要対象数が平成21年の科研費申請時より増えたこと，さまざまな関連先行研究を検討した結果，指標とすべき項目が増え，その解析等に係る費用を求めて競争的経費を申請した。
１．１．２　研究の進捗状況
他施設共同研究者から患者紹介後，本学にてインフォームドコンセントを行い，登録後は速やかに按摩継続群，あるいは，コントロール群に割り付け，随時試験を実施している。平成25年３月31日現在の登録被験者数は29名（うち，９名は前年度登録）を数える。現在，26名が試験を終了，３名が年度をまたいで試験中である。
１．１．３　成果発表
研究デザインを学会で発表した。殿山希,	佐藤豊実,	濱野鉄太郎.	がんサバイバーに対する継続的あん摩療法の効果に関する研究（2アーム並行群間ランダム化比較試験）：試験デザイン.	第78回日本温泉気候物理医学会.	2013.5.24（大分県別府市）また，デザインペーパーを作成して投稿した。Donoyama	N,	Satoh	T,	Hamano	T.	Effects	of	Anma	massage	therapy	(Japanese	massage)	for	gynecological	cancer	survivors:	study	protocol	for	a	randomized	controlled	trial.	Trials.	2013	Jul	24;14:233.	doi	:10.1186/1745-6215-14-233.http://www.trialsjournal.com/content/14/1/233上記論文は，本学図書館リポジトリにも登録した。http://hdl.handle.net/10460/1181
１．２　パーキンソン病患者の上肢機能・下肢機能・身体的　　		自覚症状への按摩マッサージ療法の効果の検討
１．２．１　実施内容と成果発表
平成23・24年度に大学院生とともにパーキンソン病患者に対して按摩マッサージを行い，データの集積を行った。平成25年度には，そのデータを用いて以下のことを行った。�@データクリーニングと統計解析のやり直し，論文作成。Donoyama	N,	Suoh	S,	Ohkoshi	N.	Effectiveness	of	Anma	massage	therapy	in	alleviating	physical	symptoms	in	outpatients	with	Parkinson's	disease:	a	before-after	study.	Complementary	Therapies	in	Clinical	Practice	accepted	on	29	Jul.	2014.�A学会発表：以下の学会発表を行った。殿山希,	周防佐知江,	大越京夫.	あん摩療法はパーキンソン病患者の身体的愁訴の軽減に有効.	第78回日本温泉気候物理医学会.	2013.5.24（大分県別府市）.周防佐知江,	殿山希,	大越京夫.	老健施設パーキンソン病患者の肩関節可動域制限に対するあん摩療法の効果.	第78回日本温泉気候物理医学会.	2013.5.24（大分県別府市）.Donoyama	N,	Suoh	S,	Ohkoshi	N.	Anma	massage	(Japanese	massage)	therapy	for	outpatients	with	Parkinson's	disease:	Effectiveness	for	various	physical	symptoms.	XX	World	Congress	on	Parkinson's	Disease	and	Related	Disorders	(Abstract	Book.	2013:p73-74).	2013(Geneva,	Switzerland).Suoh	S,	Donoyama	N,	Ohkoshi	N.	Anma	massage	(Japanese	massage)	therapy	for	patients	with	Parkinson's	disease	in	geriatric	health	services	facilities:	Effectiveness	on	limited	renge	of	motion	of	the	shoulder	joint.	XX	World	Congress	on	Parkinson's	Disease	and	Related	Disorders	(Abstract	Book.	2013:p74).	2013(Geneva,	Switzerland).
２．成果の今後における教育研究上の活用及び予想さ　  れる効果
医学の進歩と高齢社会の到来から，がんサバイバーもパーキンソン病患者もともに増加する可能性が高い。本研究を通して，これらの対象へのあん摩マッサージの医療的エビデンスが確立するならば，本学で高い学術を身に付けた視覚に障害のある有資格者に専門的ケアのスペシャリストとしての新たな道が開ける可能性が考えられる。
Fig.1  At XX World Congress of Parkinson’s disease and Related Disorders in Geneva
参考文献
[1]	国立がん研究センターがん対策情報センター．「がん・統計白書2012−データに基づくがん対策のために」.	東京，篠原出版新社．2012.[2]	Baile	WF,	Palmer	JL,	Bruera	E,	Parker	PA.	Assessment	of	palliative	care	caner	patients'	most	important	concerns.	Support	Care	Cancer	2010	Apr	17.	DOI	10.1007/s00520-010-0839-4,	Accessed	Apr	22,	2010.[3]	Kamibeppu	K,	Sato	I,	Honda	M,	et	al.	Mental	health	among	young	adult	survivors	of	childhood	cancer	and	their	siblings	including	posttraumatic	growth.	J	Cancer	Surviv	2010	Apr	16.DOI	10.1007/s11764-010-0124-z,	Accessed	Apr	22,	2010[4]	Seitz	DC,	Besier	T,	Debatin	KM,	et	al.:	Posttraumatic	stress,	depression	and	anxiety	among	adult	long-term	survivors	of	cancer	in	adolescence.	Eur	J	Cancer	2010	Apr	8.	DOI	10.1016/j.ejca.2010.03.001,	Accessed	Apr	22,	2010.