東西医学統合医療センター鍼灸外来における患者統計および有害事象の分析 福島正也 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 キーワード:鍼灸,外来統計,患者動態,有害事象,アクシデント 【背景】 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター(以下,当センター)施術部門鍼灸外来は,長年にわたり西洋医学と連携した特色ある臨床・教育・研究活動を行っており,統合医療の中で実践されている鍼灸治療で多くの実績を有する。著者はこれまでも施術部門の臨床活動実績や有害事象に関する報告 [1-6]を行ってきたが,当センターの特色ある活動実績の更なる調査とその成果の社会還元が必要と考える。 そこで,当センター施術部門鍼灸外来の患者統計・特性および有害事象を縦断的に調査・分析し,統合医療における鍼灸治療の実態を明らかにすることを目的に本調査を実施した。 【方法】 1.患者統計・特性の分析 調査は,施術部門の受付で管理する患者データベースおよび施術録(カルテ)を用いて実施した。調査対象期間は,2000年 4月1日から2014年 3月31日(15年間)とし,調査対象は,初診患者の人数,年齢,性別,居住地域,主訴等とした。主訴は,治療対象とした愁訴を“愁訴部位 ”と”愁訴(病態)の種類 ”の二要因に分類し,複数の愁訴を治療対象とした場合には各々を独立して集計した。 また,患者特性の分析のため,各患者の年代,性別,主訴,居住地区,来院年月をトランザクションとするデータのアソシエーション分析を行った。相関ルールの抽出条件は,support>0.01, confidence>0.1,lift>1.5とした。 データの集計・分析には,Microsoft Excel for Office 365および R(3.5.1),RStudio(1.1.463), Package arules (1.6-3)を用いた。 2.有害事象の分析 有害事象の分析は,当センター鍼灸外来のスタッフから提出されたインシデント・アクシデントレポートを用いて行った。調査対象期間は,記録が残っている2009年 4月~ 2017年 3月(8年間)とし,調査内容は有害事象の発生数,発生率,有害事象の内訳,発生月等とした。インシデント・アクシデントレポートの欠損データは,患者データベースおよび施術録(カルテ)を用いて可能な限り補完した。 結果は実数および平均値±標準偏差で表記した。なお,割合の算出において端数処理を行ったため,合計が100.0%にならない場合がある。 【主要な結果】 1.鍼灸外来患者の分析 1.1 患者統計 調査対象期間中の初診患者数は 7,187名で,平均年齢は 49.8±17.2歳(0-94歳)であった。年代別では 50代が 1,424名(19.8%)で最多,次いで 30代 1,338 名(18.6%),60代 1,317名(18.3%)であった。 性別は女性が 4,381人(61.0%),男性が 2,806人(39.0%)であった。 居住地域は,市内が 3,281名(45.7%),市外の茨城県内が 3,420名(47.6%),茨城県外の関東地区が 406名(5.6%),関東地区以外が 80名(1.1%)であった。 主訴の主要な部位は,腰部が 2,463例(21.1%),下肢が 1,504例(12.9%),頚肩部が 1,473例(12.6%),上肢が 617例(5.3%),肩関節が 617例(5.3%)で,上記以外が 4,985例(42.8%)であった。主訴の主要な種類(病態)は,痛みが 7,373例(63.2%)こり・張りが 1,091例(9.4%),しびれ・異常感覚が 890例(7,.6%),骨盤位[逆子]が321例(2.8%),倦怠感が 282例(2.4%)で,上記以外が 1,702例(14.6%)であった。 1.2 患者特性 アソシエーション分析の結果,46の相関ルールが抽出された。主要な相関ルールを表 1に示す。 表 1 アソシエーション分析の主な結果 2.有害事象の分析 調査対象期間中に報告された有害事象は 337件であった。有害事象の発生率(有害事象数 /総施術数)は,0.5%であった。 発生した有害事象の上位は,鍼の抜き忘れが 93件(27.6%),その他が 66件(19.6%),主訴の悪化が 50件(14.8%),一過性の気分不良が 37件(11.0%),内出血が 37件(11.0%)であった。 発生月の上位は,4月が 42件(12.5%),9月が 36件(10.7%),5月・6月が各 34件(各10.1%),8月が 32件(9.5%)であった。 【成果について】 本調査を通じ,当センター施術部門鍼灸外来の過去 15年間にわたる患者統計,患者特性,有害事象の実態の一端が明らかになった。前年度の成果に加え,マーケティング分野で用いられるデータマイニング手法であるアソシエーション分析を応用したことで,より詳細な患者特性の分析が可能になったと考える。 本邦の鍼灸臨床施設における,本調査のような縦断的な報告は見当たらず,当センターの独自性の高い活動に基づく成果といえる。 今後,有害事象についても,より詳細な分析を追加し,成果を公表していく予定である。 参照文献 [1]福島 正也,櫻庭 陽,近藤 宏,佐久間 亨,松井 康,平山暁,木下裕光.東西医学統合医療センター施術(鍼灸)部門 2013 年度患者動態調査およびインシデント・アクシデント分析.筑波技術大学テクノレポート. 2015;23(1):46-50. [2]福島 正也,櫻庭 陽,近藤 宏,佐久間 亨,松井 康,平山暁,木下裕光.東西医学統合医療センター施術(鍼灸)部門 2014 年度患者動態調査およびインシデント・アクシデント分析.筑波技術大学テクノレポート. 2016;23(2):44-49. [3]福島正也,櫻庭陽,松下昌之助.東西医学統合医療センター鍼灸外来における 2015年度インシデント・アクシデント事象調査.筑波技術大学テクノレポート. 2017;25(1):64-68. [4]福島正也,櫻庭陽,松下昌之助.東西医学統合医療センター鍼灸外来における2015年度患者動態調査.筑波技術大学テクノレポート.2017;25(1):58-63. [5]福島正也,櫻庭陽,松下昌之助.東西医学統合医療センター鍼灸外来における2016年度患者動態調査.筑波技術大学テクノレポート.2018;25(2):42-45. [6]福島正也,櫻庭陽,松下昌之助.東西医学統合医療センター鍼灸外来における 2016年度インシデント・アクシデント事象調査.筑波技術大学テクノレポート. 2018;25(2):36-41.