視覚障害者の新たな職域開拓に挑む科学的評価法を用いた伝統的手技療法の エビデンス構築―あん摩術が心身の疲労に及ぼす効果― 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 緒方 昭広 キーワード:あん摩,加速度脈波,脈波変動係数 はじめに 日本におけるあん摩・マッサージ・指圧の手技技術の中で,「あん摩」(一般にマッサージと呼称されることが多い)施術は江戸時代以前より伝統的に多くの視覚障害者の自立を支えてきた。そしてこの大きな自立手段となっている「あん摩施術」は,IT技術が長足の進歩を遂げてきた現在においてもなお視覚障害者の社会進出の大きな手段となっている。 あん摩マッサージ指圧,はり,きゅう(以下「あはき」とする)を自立手段とした視覚障害者(6割は 65才以上)は視覚障害者全体の約 50%を占める。しかし,日本のあはき師全体では2割弱に過ぎない。晴眼者ならびに無免許者の台頭によりその職場は狭められているのが現状である。国(厚生労働省)が様々な医療技術を保険適用として認可していく過程に於いて,その拠り所としているのは,それらの信頼ある研究に基づくエビデンスである。あん摩・マッサージ・指圧などの手技療法が広く国民に時代を超えて必要とされていることを鑑みると,医学的に充分な効果があると確信している。しかし,はり,きゅうのエビデンスの構築は進んでいるものの,「あん摩術」については本学を始め,特別支援学校(盲学校),あはきの専門学校で使用されている教科書にそのエビデンスの記載を見ることはほとんどない。 今回,「あん摩」術の生体作用,とくに疲労の病態と密接な関係にある自律神経機能をユメディカ社製加速度脈波測定システム (アルテッド CDNタイプ)を用いて測定し,自律神経機能について若干の成果を得たので報告する。 【対象および方法】 通所介護を利用されている 64〜93才(平均年齢 82.7 才)の内,本研究の趣旨を説明し,書面で同意の得られた 25名を対象とした。今回は,加速度脈波計でマッサージ 20〜30分を受けた前後で測定を行い,脈波変動係数より副交感神経機能指標である HF-FFTL交感神経機能指標である LF/HF-FFT,Total Power値を指標に分析した。また疲労度のアンケートは今回は,年齢的に負担が大きいと考え,指標の項目から除外した。 【結果】 マッサージ前を100%として,HF-FFTLおよび Total Power値は3倍以上に増加し,LF/HF-FFTはわずかな増加にとどまった。 【考察】 副交感神経機能指標がマッサージ後において大きく増加したことから,疲労度の減少に寄与する可能性があると考えられた。 【参考文献】 1)緒方昭広,吉川恵士,栗原勝美,東郷進,喜多嶋毅マッサージ等の手技による療法に関する研究(第2報)―手技療法と有害事象についての文献的検討― 理療教育研究,第 31巻1号 35-59. 2)緒方昭広,吉川恵士,栗原勝美,東郷進,喜多嶋毅マッサージ等の手技による療法に関する研究(第1報)―効果と有害事象についての文献的検討― 理療教育研究,第 30巻1号 71-84. 本報告書の内容は,第 67回日本自律神経学会(2014年 10月 30日,ラフレさいたま)で発表。 【今後の課題】 今回の実験を参考として,年齢層の違い,疲労度アンケートの同時実施を行い,より疲労度の改善を指標として,実験精度を高めて行く予定である。