「リハビリテーションビジネス起業論」開設のための事業者実態の調査研究 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 嶋村幸仁 キーワード:デイサービス,リハビリテーション,ビジネス,起業, 1.はじめに 現在,法律においては,「理学療法士は医師の指示の基に理学療法を行う」としているが,その就職先は, @病院,A介護保険サービス事業所,B介護老人保健施設,C医療福祉施設,D訪問看護ステーション,E障害者施設,F児童福祉施設,Gフィットネス事業所など幅広くなってきている。しかし,病院における理学療法士の雇用数は充足又は過剰気味であり,その他の施設では,患者数が少なく,理学療法士としてのやりがいや士気の低下などといった問題が発生し、雇用ギャップが生じている状況にある。 こうした中で,医師との連携により理学療法士の専門的知識を利用した新たなリハビリテーションビジネスとして注目されている在宅ケア・デイケア (障害者・老人),老人ホーム,スポーツジムなどが注目されつつあり、中には、1人の理学療法士が数件受け持ちリハビリテーションを行う事業が注目されつつある。 しかし,本学卒業生などは,視覚障害があるので訪問等の移動が難しいため,事業所(リハビリセンター)を設置し,逆に患者が訪問する形態を取り,開業することが多くなると考えられる。 このため、本研究は,理学療法士としての新たな職域拡大の一つとして起業というものが注目されつつある現状に即し,わが国では例を見ない理学療法学専攻におけるリハビリテーションビジネス起業論に関する教科を先駆的に導入することを目標とし,先行事例等の経営内容を調査研究した。 2.成果の概要 @デイサービス事業所の増加予測まず、理学療法士の起業について調査した。その数は、2012年の日本理学療法士協会に登録している会員数・施設の 0.1%程度と極めて少なく,20,309施設に対し「自営・開業」は 79施設,71,139人に対し「自営・開業」は 95人となっていた。しかし、新卒の理学療法士の増加に伴い、理学療法士の供給体制が整う中、医療用施設では需要と供給のバランスが崩れ理学療法士の活動分野は医療施設以外の分野に広がりつつあり、起業を志す理学療法士の数も急速に増加するとしている。また、起業が増えていくきっかけとしては、介護保険制度の創設によって訪問事業所、通所事業所の開設例が増えていくとしている[1]。 このことから今後は,リハビリテーションビジネス、特に、訪問介護ステーション、デイサービス事業所が全国に普及していくものと考えられる。 次に訪問調査の結果であるが、どの事業者からも 2025年に向け団塊の世代の介護が必要となり、介護人口は増大する。としており、このことからもリハビリテーションビジネスの拡大が予想でき、今後の成長分野であると考えられた。 Aデイサービス事業所の開設基準 デイサービス事業所を開設するのには、人員基準と施設基準があり、人員基準の分かれ目として定員が 10名以下と 11名以上で大きく異なることが分かった。10名以下の場合には、最低従業員数として管理者・生活相談員、介護職員、機能訓練指導員の 4名で開設可能であるが、11名以上の定員を確保する場合には、正看護師・準看護師の資格を有した看護職員の追加が必要であり、5名以上での開設基準となる。資格保有者を常勤で雇用しなくてはならず、定員決定については、起業に向けてとても重要な要素となっている。 次に、設備基準であるが、こちらは定員の数によって面積の違いはあるが、同基準となっている。必要な設備基準は、食堂・機能訓練所(利用者 1人 3u以上で兼用可)、静養室・相談室・事務室となっている。相談室は、遮蔽物・パーティションなどの設置により相談内容が他に漏洩しないような配慮があること。事務室は、事務機器と鍵付き書庫、消毒液、消火器があることとされている[2]。 Bリハビリテーション起業論開設に向けて 本調査研究から得られた結果からリハビリテーション起業論を開設するに当たり、次の項目が重要であると考えられた。ア訪問調査でPTとリハビリは技術内容が違うとの意見が多く、また、経営と技術の両方を高めていかないと顧客獲得及び維持が難しいとの意見があったため、経営関係講義と介護技術関係講義を併用することが望まれる。イ本学の特徴等から卒業後すぐに開業することよりも一度就職してからの開業も考えられることから、受講生も在学学生のみではなく、大学院院生や科目履修生による受講などが考えられ、集中講義や短期開催などでの開催を考慮することが必要と考えられる。ウ現在、保健科学部鍼灸学専攻において、「鍼灸あん摩マッサージ指圧院起業論」を開設しており、デイサービス事業所においては、理学療法士のみではなく、鍼師・灸師・あん摩マッサージ指圧師も職域拡大の一つとなっているため、別々に開催するのではなく、「起業論」として統合して開講することも視野に入れる必要が考えられる。 以上の結果を、保健科学部において「リハビリテーションビジネス起業論」の開設に生かすと共に、各種学会への発表投稿を行う予定である。 参考文献 [1]奈良勲,理学療法概論第6版,医歯薬出版, pp.194-224,2013年 [2]小山樹,小幡匡史,梅澤仁志,川副巧成,張本浩平,安部浩之,阿部勉,PT・OT・STのための完全起業マニュアル,合同会社 gene,pp.115-134,2013年