はり師,きゅう師,あん摩マッサージ指圧師の卒後研修に関する調査 筑波技術大学保健科学部東西医学統合医療センター1) 福岡県立福岡視覚特別支援学校2) 鈴鹿医療科学大学3)櫻庭 陽1),近藤 宏1),岡田富弘2),藤枝久世3)キーワード:鍼灸あん摩マッサージ指圧師, 卒後研修 T.成果の概要 1)はじめに 本研究は平成 24年度からの継続課題である。平成 24年度は,はり師,きゅう師,あん摩マッサージ指圧師(以下,あはき師)の資格取得後の研修を行っている 6施設を来訪し,研修の実際を視察すると共に卒後研修のヒアリング調査を行い,本邦におけるあはき師の卒後研修の現状を把握した。平成 25年度は,以下の二つの課題を遂行した。一つは,前年度に来訪できなかったあはき師の卒後研修を行っている施設を訪問してヒアリング調査を実施した(以下,ヒアリング調査)。もう一つは,あはき師の養成校に通う学生を対象に,卒後研修に関するアンケート調査を実施した(以下,アンケート調査)。以下,各々の結果について示す。 2)ヒアリング調査について (1) 対象と方法 あはき師の資格取得後の研修を行っている施設の中から平成 24年度は大学 2施設(内,鍼灸師養成大学は 1施設),視覚支援学校 1施設,病院 2施設,専門学校 1施設を,平成 25年度は専門学校 2施設の計 8施設を来訪し,視察及びヒアリング調査を行った(表 1)。主なヒアリング内容は,研修生の採用方法,研修期間,一週間の研修日数,年度ごとの研修生人数,研修の形式,講義等の有無,給与や研修料の有無,問題点である。表 1 調査対象施設 (2) 結果と考察 結果は平成 25年度に実施した 2施設(7と 8)について 述べる。但し,各表には参考として平成 24年度の結果もあわせて示した。はじめに採用方法は,両施設とも希望者を対象に面接を行っていた。研修期間と週間の出席日数は,施設 7は 1年で週 5日,施設 8は不問であった。施設 7で週 5日と設定しているのは,残りの 2日で生活費を得られるようにとの配慮であった。人数は各 1名であるが,今後増員する予定であった。表 2 調査結果 1 表 3 調査結果 2 次に研修の形式であるが,各施設とも卒後の有資格者の研修であるため診療中心に行われていた。これは平成 24年度に調査した施設でも同様であり,野口が述べている実践形式の研修が卒後研修の主なスタイルであるようである[1]。また,治療以外にもブースの清潔管理やタオルの洗濯などの環境維持に関する業務を義務としていた講義等は一切なく,治療現場での指導や質疑応答が研修の方式であった。給与や研修料については,施設 7で給与支払いがあるが,初任給としては少ない金額であった。実際,研修生は義務がない週の 2日を利用して,外部で資格を利用したバイトを行い生活費をまかなっていた。問題点は,施設 7では学校の施設と言うことで施術料を押さえているため,研修生が施術した分の施術料収益だけ給与分はまかなえないと言うことであった。しかし,研修生を受け入れることは教育機関としての責務であるという考えから,今後,研修生を 2名に増員したいと考えていた。 3) アンケート調査 (1) 対象と方法対象は,本邦のあはき師を養成している 1大学,および鍼灸師を養成している 6大学(計 7大学)の最終学年とした。実施期間は 2013年 12月から 2014年 2月とした。実施方法は,各施設に電話または電子メールによってアンケートの趣旨を説明し,実施のお願いをした。その後,内諾を得た施設へ書面にて依頼状とアンケートの説明文,必要数のアンケートを郵送した。各施設の教員がアンケートを実施した後,まとめて郵送によって回収した。主な内容は「患者を治療する際に養成校で習得した技術や知識で十分だと思うか」,「研修制度と免許更新制度の必要性」,「研修制度を行う場合その,@対象者,A研修実施施設,B最も学ぶべきこと」についてであり,これらを選択式によって聴取した。 (2) 結果と考察 アンケートは 189名(男性 103名,女性 64名,未回答 22名)から回収した。はじめに「患者を治療する際に養成校で習得した知識や技術で十分だと思うか?」という問いに対し,知識と技術について各々“十分だと思う”が 18名(9.5%),14名(7.4%)であり,“不十分だと思う”が 142名(75.1%),158名(83.6%),“わからない”が 27名 (14.3%)であった。未回答は各々2名(1.1%)であった(図 1)。 図 1 養成校で習得する臨床に必要な 知識(左)と技術(右)の程度つぎに,あはき師の研修制度及び免許更新制度の必要性についてであるが,各々“必要”が 145名(76.7%),92名(48.7%)であり,“不要”が 39名(20.6%),88名(46.6%)であった。未回答は各々5名(2.6%),9名(4.8%)であった(図 2)。研修制度が“必要”と回答した 145名に対し,研修制度を行う場合の@対象者,A研修実施施設,B最も学ぶべきことについて聴取した結果を図 3に示す。 図 2 研修制度(左)と免許更新制度(右)の必要性はじめに@対象者については“全ての有資格者”と“新卒者”で8割程度を占めており,各々63名(43.3%), 52名(35.9%)であった(図 3-@)。その他,“資格取得後に規定の期間を経過した者”や“既に同業に従事している者”,“開業をする者”と続いた。 図 3-@研修制度 (対象者) 次にA研修を実施する施設については“どこでもよい”が最も多く 39名(26.9%)であった。以下,“専門学校や大学の施術施設”と“治療院”が 34名(23.4%),“病院や医院の施術施設”が 28名(19.3%)と続いた (図 3-A)。 図 3-A研修制度 (実施施設) 最後にB卒後研修で最も学ぶべきことは“多様な疾患に対する治療手段(手段)”が最も多く 42名(20.9%)であった。以下,“治療に必要な知識(知識)”が 40名(27.6%),“安全な技術(安全)”が 21名(14.5%),“患者対応(接客)”が 14名(9.7%),“一連の治療のながれ(ながれ)”が 9名 (6.2%),“高い治療技術(技術)”が 8名(5.5%),“衛生管理 (衛生)”が 5名(3.4%)と続いた(図 3-B)。 図 3-B研修制度 (最も学ぶべきこと) U.成果の今後における教育研究上の活用及び予想される効果 鍼灸師の卒後研修関する報告は 1998年に水嶋が総合病院内における研修の状況を初めて報告している[2]。近年のあはき師の養成教育機関の急増で,各種学会等で資格取得後の進路や研修について取り上げられ,卒後に関する調査等も行われるなど,あはき師の資格取得後に注目されるようになった[3,4]。また,鍼灸を中心とした4団体(東洋療法学校協会,全日本鍼灸学会,全日本鍼灸マッサージ師会,日本鍼灸師会)で構成している鍼灸医療推進研究会の研修作業部会において,卒後研修実現に向けた取り組みも始まり,卒後研修と同時に免許更新制に関する意見もではじめた[5,6]。このような背景において,具体的な卒後研修を実施している機関の詳細な情報は,今後の卒後研修を制度化して行く上で重要であり,それらに関する調査は大変意味のあるものである。また,現行では卒後研修は法律上で規制に則って実施するのが難しいことから,業団体の積極的な取り組みによる独自の制度化が必要であり,そのモデルケースに関する情報が必要となるだろう。さらに,実際に卒後研修を受ける側,すなわち資格取得する者の意識やニーズに関して把握しておくことも重要である。 以上のことから,本研究成果はあん摩マッサージ指圧,はり,きゅうの業界において卒後研修に関する取り組みをする上で貴重なデータとなるだろう。さらに,数年にわたり卒後研修制度を実践している本学東西医学統合医療センターの卒後研修において,今後の卒後教育を発展・向上して行く上で対象者のニーズや他施設での具体的な研修方法の情報は非常に参考となる。今後は取得したデータを公表することとともに,卒後研修に関する調査を継続して進めてゆくことで,教育や業界へ貢献する価値ある取り組みとなるだろう。 参考文献 [1] 野口栄太郎 : 鍼灸教育への提言 体験学習のすすめ.鍼灸 Osaka. 26(2); 201-3, 2 010. [2] 水嶋丈雄 : 総合病院における鍼灸師卒後研修の試みについての 1考察. 臨床針灸. 13(2); 17-20, 1998. [3] 後藤修司, 杉田久雄, 他 : 鍼灸の問題解決に向けた「 6つの論点」を討議する !. 医道の日本. 71(1); 12-26, 2012. [4] 矢野忠, 石崎直人, 他 : 鍼灸師養成教育機関に在籍する学生の鍼灸医療に対する意識と要望等に関する調査研究 卒業学年の学生を対象とした調査(2). 医道の日本. 69 (4) : 83-91, 2010. [5] 小松秀人 : 学校教育,臨床の現場における鍼灸の現在と未来. 社会鍼灸学研究, 4; 82-9, 2010. [6] 小川卓良 : 鍼灸師の将来 卒後教育と免許更新制で全体のレベルアップを図る. 医道の日本. 69(5); 30-1, 2010.