脳性麻痺の科学的トレーニングに関する研究 ―脳性麻痺者の運動解析からとらえたトレーニング及びコーチング方法の開発 ― 筑波技術大学保健科学部保健学科理学療法学専攻石塚和重 キーワード:脳性麻痺、運動解析、ボッチャ 1. はじめに 脳性麻痺の科学的トレーニングに関する研究において、脳性麻痺者の筋力、動作速度について報告してきた。今回は重度脳性麻痺者のパラリンピック競技としてのボッチャについて報告する。ボッチャはヨーロッパが発祥とされ、重度障害者のためのパラリンピック競技である。ジャックボールという白いボールに赤・青のそれぞれ6球ずつのボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てたりして、いかに近づけるかを競います。日本に取り入れられたのは養護学校教員であった古賀稔啓(現日本ユニバーサルボッチャ協会理事長)がヨーロッパでの脳性麻痺者の国際大会(ロビンフッド大会)出席時に、ボッチャに出合い、授業に取り入れようと持ち帰ったのが最初と言われている。その後 1997年に日本ボッチャ協会が設立され、国際ルールが紹介され、全国的に広まっていくこととなった。ボッチャは個人、ペアないしは 3人 1組のチームで行うのが基本であるが、さらにパラリンピックでは、男女の区別はなく、 BC1〜BC4のクラスに別れて行われている。BC3クラスは手では投げられないクラスで障害によりボールを直接投げることができなくても、ランプス(勾配具)やヘッドポインタなどの補助具を用いての競技参加も可能である。 本研究はボッチャに関する脳性麻痺者の運動解析からとらえたトレーニング及びコーチング方法の開発について報告する。 2.研究対象と方法 対象は BC1クラス 2名、BC2クラス 2名,オープンクラス 2名合計 6名の選手を対象に検討した。BC1クラスは車いす操作不可で四肢・体幹に麻痺がある脳性麻痺者か、下肢で操作可能な脳性麻痺者(足蹴りで競技)である。 BC2クラスは車いす操作可能な脳性麻痺者である。オープンとは日本独自に規定している脳性麻痺者である。各選手は5m先のジャックボール(目標とする白いボール)に近づけるようにボールを5回投げ、投球フォ ―ムを正面及び側面からビデオカメラで撮影し、投球フォーム動作を解析した。運動解析はスイスのダートフィッシュ社が開発した動作分析などのコーチング支援およびデータ分析ソフトウェアであるダートフィッシュ・ソフトウェアを使用した。 3.結果と考察 ボッチャでの投球フォームは障害によって様々で、下手投げ(写真 1)、上手投げ(写真 2)、足蹴り(写真 3)に分かれた。これらの投球フォームについてダートフィッシュ・ソフトウェアの中のストロモーション機能を用いて投球動作分析をした(写真 4〜6)。ストロモーションとは動作の一連の流れを画面上に表すことができる。ストロモーションでの動きの確認によって選手は投球フォームを理解することができた。また、その場で確認できることが大きな特徴でトレーニングやコーチング方法に役だった。ボッチャおける投球フォームは障害の程度によって様々であるが、ボールを床に転がすという特徴により、安定したボールの転がりを得るためにも下投げのほうが有利であるとされている。安定した投球フォームを身につけるためには練習において常に姿勢と投球フォームを意識していくためには視覚的に feed backが重要であると考えている。ダートフィッシュ・ソフトウェアの活用は脳性麻痺者の動作分析をより視覚的にし、効果的なものにしていると考えられた。さらに、本研究によって国際選手を 2名輩出することができたのも大きな成果であると考えている。近年、ボッチャボールそれ自体が戦術に大きく影響されている。今後、トレーニング方法やコーチングに重要な要素として、ボッチャボールの特性自体が大きく影響してくると予想される。現在、ボッチャボールの素材や硬さや大きさの研究を進めている。 写真1投球フォーム( BC2) 写真2投球フォーム(オープン) 写真3投球フォーム( BC1) Fig1写真 1から 3は脳性麻痺者の投球フォームの代表例を示す。 写真4下手投げ( BC2)写真5オープン上手投げ 写真6足蹴り( BC1) Fig2写真 4から 6はストロモーション機能を用いた投球動作 参照文献 1) BISFedルール 2013日本語版 成果の今後の教育上の活用 ダートフィッシュ・ソフトウェアを用いた動作分析は理学療法学専攻において臨床現場での動作分析や障害者スポーツの動作分析や指導、トレーニング方法、コーチング方法の開発に有効な手段であると考える。 予想される効果視覚障害学生が臨床運動学や臨床の現場での動作分析の方法を理解することが容易になると予想される。 成果の学会発表等今後、日本障害者スポーツ学会、医療体育研究会などの学会に発表する予定である。