障害学生の自殺予防に関する検討 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 理学療法学専攻 佐々木 恵美 キーワード:自殺予防,メンタルヘルス,UPI,健康診断 1.はじめに 近年,我が国の自殺率は 20歳代で漸増しており,大学生の自殺率は徐々に増えている。かつては事故死が大学生の死因の第1位であったが,1996年から自殺が死因の第 1位である状況が続いている。このため,各大学では危機感を持って学生の自殺予防対策が検討されている。本学において学生・教職員の精神医学的対応を継続して行っているが,対応件数は平成 22年度 275件,平成 23年度 434件,平成 24年度 495件と年々増加している。幸い本学では平成 22年度以降,自殺による既遂例は認めず,昨年度は自殺企図も前年度の 10件から 5件に減じてはいるが,希死念慮を持つ学生は 9名であり,自殺予防に留意する必要がある。昨年度,精神科を受診した本学学生の疾患は,統合失調症,うつ病,パニック障害,適応障害,発達障害等であり,自殺企図や強い希死念慮を持つ例は,留年・休学生,統合失調症圏や発達障害に多かった。 以上の統計をふまえ,障害学生の自殺予防について検討および対策を行った。障害学生を対象とした構造化された精神医学的診断に基づく研究はわが国では例をみない。また,こうした統計に基づき具体的な支援を検討することは意義のあるものと考える。 2.対象と方法 保健管理センターおよび東西医学統合医療センター精神科を受診した学生を対象に,初診までの経緯,精神症状,国際分類に基づく精神医学的診断,希死念慮や自殺企図,心理的特徴,留年・休学状況,治療,転帰等について,調査を継続して行った。 メンタルヘルスや自殺予防について,フレッシュマンセミナー,精神医学等の授業を用いて視覚障害学生に心理教育を行った。希死念慮が生じやすい学年である 1年生には健康診断前にメンタルヘルスについて講義を行い,健診の場において入学時の UPIの結果による呼び出し面接を初めて実施した。 UPIの結果は, 20項目以上該当するもの,25番該当,相談希望ありと回答したもの,この全てを呼出対象とした。教職員の協力により,健診の流れの中で,他の学生に配慮しながら誘導を行い,個室で精神科医が面接を実施した。 3.結果 1) UPIの結果と教職員からの情報により,呼出対象者を選択した。その結果,春日キャンパスの新入生の半数が対象となった。教職員の協力により面接室への誘導もスムーズに行うことができ,健診時に対象者全員と面接を実施することができた。直近に講義を行っていたことで学生側の抵抗も少なかった。面接の結果を,要医療・カウンセリング,要観察,所見なしの3つに分類した。その結果,それぞれ 17%,33%,精神科的所見はないが他科受診を要する者 11%,所見なし 39%,となった。要医療となった学生のうち,すでに治療を受けている者が 67%で,残りの学生は希望によりカウンセリングの予約を行った。要観察となった学生は,対人関係や性格の悩み,睡眠の質の悪さ等が主訴であった。相談窓口について改めて情報を提供し,気軽に相談するよう伝えた。精神科的所見はないが他科の診察を要する者は,当該科の医療につなげることができた。 2)平成 25年度の調査では,全学生の約 10%,春日キャンパスの学生の 24%が本学精神科を受診した。診察回数はのべ 271件,そのうち自殺企図 1件,希死念慮などでの緊急対応 6件,希死念慮のある学生は 5人 であった。疾患別では統合失調症圏,適応障害が最も多く,ついで気分障害,パニック障害,発達障害であった。 4.考察 1 )従来から健診の診察時やメンタルヘルス関連の講義後に相談に訪れる学生は多く,学生側からみるとこうした機会は比較的相談しやすい場と思われる。昨年度まで UPIの結果を判定し数か月後に呼出面接を行っていたが,一方的に通知するため,予定が合わない,必要な学生ほど応じない,面接者の拘束時間が長い,等の問題があった。健診の場における呼出面接は学生側の抵抗が少なく,事前の講義によってメンタルヘルスの必要性を学生が認識できたこともあり,対象者全員への面接がスムーズに導入できた。また,時間的にも効率よく呼出面接を行うことができた。さらに,早期に面接が実施できたことで,より早期の対応が可能となり,効果的な介入が可能であった。このことより,事前施行した UPIその他チェックリストに基づくスクリーニング的な短時間の面接を健康診断と並行して導入することは,新入生のメンタルヘルスや自殺予防に非常に有用と思われ,今年度も実施する予定である。 2)平成 25年度の自殺企図の件数は 1件で,前年度の 5件,前々年度の 10件から大きく減少した。深刻なケースに対して,AA教員,担任,専攻長,学生支援課,保護者,保健管理センター,医療機関等が連携して対応するようになった効果も大きいと思われる。但し,希死念慮を持つ学生は 5人,緊急対応も 6回あり,今後も学生の自殺予防に引き続き留意していく必要はある。特に,留年生,休学生はメンタルヘルス対応を要するケースが多く,より手厚いケアが必要と思われた。