三次元造型機の利用による教育改善事業プロジェクト〜障害学生の専門教育用教材に適した模型製作をはじめとして 〜 筑波技術大学産業技術学部産業情報学科1)保健科学部保健学科2) 荒木勉1),中村直子2),坂本裕和2),丹野格1) キーワード:三次元造型機,拡大模型,教材作成,視覚障害,骨格標本 1.背景 筑波技術大学の産業技術学部機械工学系の設計製図・ CAD教育の分野で聴覚に障害を持つ学生に分かりやすく教材資料を提示するために模型を作成し,利用していた。近年では三次元造形機の利用により機械要素や部品,機構モデルの立体模型を製作し,視覚的に見るだけでなく体感教材として用い,教育効果を上げている。また,保健科学部では医学関連の授業の中で,人体構造を理解するための各種模型を教材として使用している。これまでの教育経験より,視覚障害のある学生にとって,市販されている原寸大模型では構造を理解することが困難なことが多い。例えば,頭蓋骨の内部構造は複雑かつ精細であり,視覚に障害がある場合,原寸大模型では視覚的認識が難しく,触れて確かめることも困難さが伴う。そこで,産業及び保健の両学部の協調事業として教員が協力し,産業技術学部の三次元造形機を用いて視覚障害学生が直接触れたり,あるいは見たりして認識できる拡大骨格模型の作成を試みた。ここに,これまでの取り組みや成果を含め,報告する。 図 1.視覚障害者には認識が難しい視神経管 2.1 外部からのデータによる拡大骨格模型の試作(平成 22年度) 本学所有の三次元造形機で製作可能な STL形式の頭蓋骨データを関係各所からご提供頂き,拡大模型の試作を行った。これは 1) 本学の 3Dスキャナはレーザーにて表面の浅い凹凸のみ読み取るため,複雑な形状をもつ頭蓋骨のスキャンが困難である。 2) 本学附属医療センターの医療用 CT/MRI装置のスライスピッチ(2o)では,精密なデータが得られない。 3) CT/MRIにより得られる DICOM形式のデータを三次元モデル造形機用の STL形式へ変換するソフトウェアを所有していない。(平成 22年度当初) 4) 特殊なデータ作成を外注する予算がない。といった事情のためであった。 2.1.1試作模型 No1の作成 (株)レキシーより,STL形式の頭蓋骨データを提供頂き,本学の三次元造型機( EDEN260)にて原寸大モデルを作成した。(図 2〜4) 模型 No.1の試作により分かったこと 1) 原寸大の頭蓋骨のサイズが,本学の造型機で作成できる最大(限界)の大きさである。拡大模型を作る場合は,頭蓋骨の中で必要な部分のみデータを取り出し(STLデータを加工し),部分的に拡大して作成する必要がある。 2) データの精度が低く,骨の薄い部分・微細な構造の部分はほとんど破れ,教材としては使用不可であった。より細かいスライスピッチの精細なデータ,およびデータ加工用のソフトウェアが必要である。 図 2. 図 3.等倍モデルを上下に切断 図 4. No.1完成 2.1.2試作模型 No2(1.7倍模型)の作成 (株)ファソテックより STL形式で頭蓋骨前下方のみ取り出してあるデータ(スライスピッチは不明)を提供頂き,三次元造型機にて 1.7倍モデルを作成した。(図 5〜7) 模型 No2の試作により分かったこと 1) 触ってみる頭蓋骨模型として理想の大きさを作ることができた。 2) 骨の薄い部分や微細な構造(神経管など)は再現できず,教材の作成には更に精度の高いデータを独自に作る必要がある。 図 5. 造型終了 図 6.洗い出し 図 7. 1.7倍模型 2.2 教材用拡大模型作成の手順・まとめ(平成 23年度)模型の試作を通して分かった点を検討し,以下の手 順で教材用の拡大模型を作成することを計画した。 @撮影用モデル(骨格模型等)を準備・作成する。工業用マイクロ CTで撮影する場合は装置に入る 3方向 20cm以下のサイズに加工する。 A東京都立産業技術センターに撮影用モデルを持参し,工業用 CT装置にてX線撮影し,DICOMデータを作成する。 BDICOM形式データを本学の Zedviewソフトウェアにて STLデータに変換する。 CSTLデータをマジックスソフト(平成 25年度〜本学所有)にて加工し,必要な部分のみを取り出す。 D本学の三次元造型機にて拡大模型を造型する。 Eプラスチック塗料にて着色し,弱視学生の見やすい色の拡大模型として仕上げる。 F教材としての効果を確かめ,それぞれ複数個作成す る。 2.3 頭蓋骨模型の精度の高いデータを作成(平成 23〜24年度) 市販の頭蓋骨模型を工業用 CT装置に入る大きさになるよう不要な部分を切断し,撮影モデルを作成した。これを東京都立産業技術研究センターに持参し,工業用のマイクロフォーカス CT装置にて X線撮影し, 0.2mmスライスピッチの DICOM形式データを作成した。これを本学の Zedviewソフトウェアにて STL形式に変換し,精度の高い頭蓋骨データを作成した。   図 8. 不要部分切断 図 9.CT装置図 10.データ作成 2.4 拡大模型を作成(平成 25年度) 2.4.1 1.7倍頭蓋骨モデル( No3)の作成 昨年度までに作成した精度の高い STLデータを用い,三次元造型機にて 1.7倍拡大頭蓋骨模型を作成した。目の中や顔の表面など骨の薄い部分が数箇所破れたものの,神経管や眼窩の形状は保たれており,教材として使用しうる拡大モデルとなった。視覚障害のある学生へ口頭によるアンケートでは,「視神経管が分かりやすくなった」,「初めて下垂体のある場所を触って確認できた」などの好評を得ている。次年度はこれを視覚障害者が見やすい色に着色し,教材としての効果を確認していく予定である。 図 11. 1.7倍拡大模型 2.4.2頚椎と腰椎の拡大模型を作成 視覚障害者には神経管や血管・構造が理解しにくい首と腰の4つの骨の拡大模型を作成した。今回は本学所有の本物の頚椎( C1, C2, C5)および腰椎( L3),4つの代表的な椎骨を持参し,東京都立産業技術研究センターにてマイクロ CTによるX線撮影を行った。得られたデータを STL形式に変換し,三次元造型機にてそれぞれ等倍・1.5倍,2倍の3種類ずつ作成した。   平成 26年度からは解剖学の授業で実際に教材として使用し,その効果を確認していく予定である。   図12. CT撮影図 13.データ作成図 14. 椎骨拡大模型 3.成果発表 本プロジェクトとしての途中経過や成果については 2011年度日本図学会や 2012年度ヒューマンサポートサイエンス学会, 2013年 Asian Forum on Graphic Science等で報告した。 4.参考文献 [1] 荒木勉.図学研究の広がり 設計・製図教育の研究.図学研究.2007;41:p.89-95 [2] 荒木勉.設計製図・ CAD教育における教育交流と ITの活用-聴覚障害を持つ学生への取り組み-.日本設計工学会研究発表講演会講演論文集. 2004;p.11-12 [3] 荒木勉,穂坂重孝.モデリングによる教育支援.日本図学会 2011年度春季大会学術講演論文集. 2011;p.55-60 [4] 中村直子,荒木勉,坂本裕和,他.視覚障害のある学生のための拡大骨格模型作成の取り組み. 2012年度ヒューマンサポートサイエンス学術講演会講演論文集.2012;p.11-14 [5] Tsutomu ARAK and Shigeo HIRANO. DEVELOPMENT OF COOPERATIVE EDUCATION AND BASIC ENGINEERING EDUCATION --AIDED BY 3D CAD AND 3D RP MODELING.Proceedings of the 2013 Asian Forum on Graphic Science.2013;p.135-142