一人暮らしを始めた聴覚障害学生に対する食事指導効果と性格・自我・ストレスとの関連に関する研究 筑波技術大学保健管理センター横田千津子 キーワード:食育,食習慣,食事記録,性格 [背景]終戦と共に生活習慣が欧米化し、日本古来の生活習慣の崩壊と共に、肥満・肥満症、2型糖尿病や脂質異常症、高血圧症といった生活習慣病が急激に増加している。どのように医学が進歩しても、生活習慣病の治療の根本である食事療法・運動療法は、患者自身の自己管理に委ねる割合が大きい[1]。一方で、基本的な食習慣は、親、特に母親からの子・孫への継承によることが大きく、親の悪しき食生活が子孫に伝搬し、これが生活習慣病発症の温床となる危険性が高い。 大学進学と共に一人暮らしを始めた学生のうち、料理の習慣や訓練が為されていない場合には、その食生活は概ね外食やできあいの総菜に頼ることと成る。食に対する正しい知識が不足している際には、自分の好物を選び続けることや、金銭的節約の為にインスタント食品を選択する頻度が高くなること等が十分に予想され、栄養のバランスの崩れから、体調不良等を惹起することが予想される。現に、本学学生にもそのような事態は生じている。昨年4月に本学に奉職後、学生の健康診断結果を悉に検討した結果、男女を問わずに経年的に体重が増加し続ける学生や、体重増加に伴い、高血圧症を発症したり、血圧のコントロールが全く為されていない学生数が多いことに驚いた。一方で、女子学生に多い現象ではあったが、体重減少と貧血の悪化をきたす者も散見された。そのうちの何人かには食事の聴き取り調査を行い、やはり、バランスのとれた食事では無く、おやつ等のジヤンクフードを中心に食べていたり、遊びにお金がかかるので、極端に食費を節約している、等々、悪しき生活習慣に基づいた体重変化であることがわかった。正しい食知識を習得する為には、食事指導が必須であるが、その効果発現には個人差が大きく、効果を阻む要因として、個々人の性格の違いや、他人から食習慣に関して干渉されることに対するストレスもあると考えられる。 [目的]本研究では、「一人暮らし開始から早い時期に、食に対する正しい知識を習得し、実践することにより、将来的な生活習慣病の発症を予防、或いは、遅延させることができる。」との仮説に基づき、産業学部新入学生の食事調査を行い、改善点を適宜指導する、その際に性格分析・エゴ(自我)分析を同時に行うことにより、下記を明らかにすることを目標とした。 1 繰り返し行う集団、及び、個人を対象とした食事指導は、繰り返し食事指導を行わなかった群と比較して、食事に対する正しい知識を習得でき、正しい食習慣を実践す「ることができるようになる。2 食習慣の改善がスムーズに行く群と、改善に抵抗する群聞には、性格特性、及び、ストレスに対する自我の対応に差がある。 [方法]平成26年度入学の本学産業技術学部l年生50名に対し、3日間の食事記録作成を依頼し、又、表1に示す自己成長エゴグラムに回答していただいた。食事記録から栄養計算を行い、又、自己成長エゴグラムを分析し、表2の5パターンに分類した。 [結果]学生の協力が得られず、食事調査は1度しか実施できず、更に、食事調査は3名(女1名)のみより回答を得た。自己成長エゴグラムは48名より回答を得た。3名の食事記録を解析すると、女1名のみがバランスの取れた良好な食事をしていた。カロリー摂取量も推定量で1700〜1900kcal/日であり、カロリー摂取の日間動揺も少なく、炭水化物・蛋白質・脂質の西日分もほぼ理想通りであった。18〜29歳女子の推定エネルギー必要量は1950kcal/日であるが[2]、これは、158cmを標準として求めたエネルギー量であることを考えると、本学生は153cmと小柄であることより、十分なカロリーを摂取していると考えられる。他の男子2名は、3食ラーメンを食べており、塩分過多で、、炭水化物と脂質に偏った食生活であると言える。 一方、自己成長エゴグラムでの性格特性では、48名のうち、CPが2名、NPが8名、Aが2名、FCが23名、ACが16名であった。 食事記録結果と自己成長エゴグラムとの関連だが、女1名はAであり、男はそれぞれFCとACであった。[結果の考察]食事記録の回答者が3名であることより、食事内容と性格を関連づけて検討する事はできなかった。又、食事調査を単回しか行えなかったので、食事指導効果と性格の関連も検討できなかった。 単回の食事調査の結果から、事実の認識や分析が得意である大人的性質を持つAの女子は、食生活も充実していることがわかった。一方、自分の気持ちを優先させやすい自由な子供的性質のFCと周りに流されやすい従順な子供酌基質を持つACが食事を共にしているかは不明であるが、健康維持・増進に及ぼす栄養の重要性の理解がなされていないことは明らかとなった。 [成果の今後における教育研究上の活用及び予想される効果]自己成長エゴグラムを用いての性格分析を行うことはできたので、性格特性と本年5月の学生健康診断での1年間の体重・血圧・血色素量等の変化率との関係を検討する。 食事調査に協力していただけなかった学生達は、食事記録が面倒!なのか、食事というプライパシーを除かれるのが嫌なのか、食事記録はしたが、単に提出するのを忘れたのか、提出場所を間違えてしまった為に、調査をできなかったのか、等々、協力しなかった理由を調査し、今後は、協力し易い食事調査を行うように、調査方法を改善することを検討したいと考える。 [成果の学会発表]本年9月に開催される第53回(平成27年度)全国大学保健管理研究集会にて発表予定である。 [文献][1]横田千津子,下地めぐみ,湯浅香織他;2型糖尿病患者の栄養指導効果に及ぼす性格特性。(第17回日本病態栄養学会学術集会)日本病態栄養学会誌.2013; 17 (Suppl)目S171. [2]日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要,http://www.mhlw.go.jp/file/04Houdouhappyou 1090 4750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka /0000041955.pdf