高齢血液透析患者に対する廃用予防についての研究 筑波技術大学保健科学部保健学科理学療法学専攻 三浦美佐 キーワード.高齢血液透析患者,運動,身体機能,各種生化学検査 成果の概要(本文,図表,参照文献等,成果の今後における教育研究上の活用及び予想される効果,成果の学会発表等を含む) わが国の・慢性血液透析患者数は、増加の一途をたどり、 2012年には約 31万人にのぼり、日本国民の 400人に1人が透析治療を受けている.この増加は、人口の高齢化、高血庄や糖尿病など腎不全に至る危険性のある疾患への罹患率の上昇、さらに、透析療法の進歩、合併症対策の進歩による延命効果に起因すると考えられる, 2020年末には 60歳以上の透析患者が、全体の 86%を占めると推計される1 (2011日本透析医学会).その一方で、透析患者の ADL自立度は、脳血管疾患患者より比較的保たれているとはいえ、透析患者の運動耐容能自体は心不全患者やCOPD患者の運動耐容能と同程度まで低下している 2 (Painter P Hemodial Int 2005; 9:218-235),また運動習慣のない透析患者や運動耐容能の低い透析患者の生命予後は不良であることが判明して 3 (Johansen KL.J Am Soc Nephrol 2007; 18: 1845-1854)、透析療法には至らない保存期慢性腎不全患者においても状況は同様である.従って、慢性腎不全を有しながらも合併症が少なく元気で、生きがいのある生活を送るための高齢慢性腎不全血液透析患者への対策が、急務となっている.一方、運動は血液透析患者においても運動耐容能、 QOL、糖や脂質代謝改善などのメリットをもたらす可能性が指摘されている. しかしながら、運動中には腎血流量や糸球体濾過量の減少、尿蛋白の増加などが生じ、それによって腎障害が憎悪する危険性も指摘され、高齢者では特にリスクは高いとされている.従って、高齢慢性腎不全血液透析患者が運動を行う場合iこは、長期的に腎機能や腎病変に対して悪影響を及ぼさないものでなければならないが、高齢慢性腎不全血液透析患者への運動の効果やメカニズム、至適な運動法・運動強度・運動時間などを明らかにした研究は殆どない.この高齢慢性腎不全血液透析患者へのリハピリテーションの普及を妨げている要因としては大きく 4つある.第一に運動療法の有効性が高齢慢性腎不全患者はもちろん、医療関係者にも十分周知されていないこと、第二に、患者自体の運動療法への意欲の乏しさ(易疲労性、アドヒアランスの低さ)、第三に高齢透析患者が運動可能な施設の少なさ、第四に、終生にわたり週3回の標準的血液透析療法を受けに医療施設に通院しなければならないうえに、非透析日に監視型運動療法を行うためにリハ施設やスポーツ施設に通うことで、自らや、介護にあたる家族の余暇時間を喪失することに対する抵抗感があることである.そこで今回、患者に低負担な運動療法を適用して、それらの臨床的有効性を検証し、患者のアドヒアランスを高めた腎臓リハの普及への足掛かりとしたので、報告する.対象は、平均年齢71.7±8.9歳の HD患者 26名で、運動群 11名、電気刺激群 5名、および対照群 10名に振り分けて、透析中に運動または電気刺激を下図のとおり実施した(図). 介入前後で、血液検査値、貧血因子、透析効率、栄養状態、血圧、身体運動機能、身体活動量測定を実施した。結果は、介入前後に運動群では収縮期血圧、 CRP、 LDL、透析効率に有意な改善が認められ、電気刺激群では透析効率と収縮期血圧のみ改善を認め、対照群では変化がなかった。運動群では上下肢筋力、運動負荷量、身体活動量が改善し、電気刺激群では下肢筋力と身体活動量が改善した。対照群には変化が認められなかった。その他のパラメーターは、全群で変化は認められなかった。これらの成果は、9th World Congress of the International Society of Physical and Rehabilitation Medicine (ISPRM),52nd ERA-EDTA Congress 第 5回日本腎臓リハビリテーション学会、第 60回透析医学会に演題採択され、本年ベルリン、ロンドン、東京で発表予定である。 参考文献 1)相澤直輝,井関邦敏:慢性腎臓病(CKD)と心血管疾患の関連-最近の考え方と治療の動向 日本の疫学データから 日本(JPN),2014 2) Asvany O, P PK, Redlich B, Hegemann I, Schlemmer S, Marx D: Understanding the infrared spectrum of bare CH5+. Science. 2005; 309: 1219-1222 3) Johansen KL: Exercise in the end-stage renal disease population. J Am Soc Nephrol. 2007; 18: 1845-1854