鍼灸及びマッサージ業の実態に関する調査研究 筑波技術大学保健科学部保健学科鍼灸学専攻 1) 明治国際医療大学 2) 東京有明医療大学 3) 藤井亮輔 1),近藤宏 1),矢野忠 2),坂井友実 3) キーワード:鍼灸,マッサージ,施術所,実態調査  成果の概要 1. 目的 あん摩、はり、きゅうを提供する施術所の営業及び経営の実態を明らかにする。 2. 方法 2. 1. 保健所名簿の作成と施術所情報の収集法 「保健所一覧」(平成24年度)を用し、47都道府県全ての保健所(494件) の名簿を作成した。次に、各保健所長宛に施術所名及び所在地の情報提供について、任意依頼または情報公開法に基づく開示請求を行った。 2. 2.標本設計 (1)標本規模: 10,000件。この規模は平成24年末における全国の施術所総数83,313件の12%に当たる。 (2)標本の抽出法:まず、H24年来統計(衛生行政報告例)で公示された47都道府県ごとの施術所数(N)の施術所総数83,313件に対する比率(r)を算出した上で、標本10, 000を同比率で案分し各都道府県に割り当てる標本数(x)とした(x=N×r) 。次に、提供された施術所情報から、@接骨院、A個人名(出張専門業者)に該当する情報を削除したn件のデータベースを都道府県ごとに作成し標本の抽出台帳とした。 3)標本の抽出法:抽出台帳に起番号をランダムに割り付けし、等間隔法でn件を層化無作為法により抽出した。 2.3. 調査票の構成及び調査期間 「個人業者用」と「法人業者用」で構成した調査票(無記名多肢選択式)を2014年3月末に郵送し同年4月18日までの投函を依頼した。郵送法で実施した。視覚障害業者には点字か電話による回答を可とした。 3. 結果 3.1. 施術所情報件数と抽出率 47都道府県下494保健所の81.8%に当たる404保健所が所管する60,386件(全施術所の72.5%)の施術所情報が開示された。この中から10,000件を抽出したので抽出率は16.6%であった。 3.2 .調査票の着信状況と回収率 10,000件のうち 2009通が返送されてきたので有効に送付された調査票は7,991件(79.9%)であった。このうち、期間内に回収された調査票は1,944件だったので回答率は24.3%であった。 3.3. 営業実態(企業形態別)と視覚障害業者の割合 回答のあった1,944件のうち営業している施術所は1,752件(90.1%)で、そのうちの1,561件(89.1%)を個人施術所が占めた(休業・廃業率は9.9%)。開設者の身体障害者手帳の所持状況を見ると、個人施術所では306人(19.7% )が、また、法人では 13人(7.0%)で、あった。 3.4. 業者の性別と年齢 個人業者全体の性別は男1,257人(80.5%)、女297人(19.0%)で、男性業者の割合が高かったがこの傾向は視覚障害業者で高い。一方、年齢は23〜92歳の幅で分布していたが平均年齢は53.9±12. 9歳(中央値55歳)であった。これを障害の有無でみると、晴眼者の 52.3±12.9 歳(中央値52歳)に対し視障者は60.3±11.0歳(中央値60歳)で高齢化の傾向が強い。 3.5. 施術所の規模 個人施術所全体の平均面積は24.1±26.5u(中央値17.2u)、待合室(n=1,251) の平均面積は11.4±14.9u(中央値9.0 u)、設置ベッド数の平均は2.4±1.8台(中央値2.0)であった。 が晴眼者より視障者に小規模化の傾向が強い。 3. 6.平成25年分の施術料収入総額(税込みベース) 個人施術所の平成25年1年分の施術料収入の総額(税込ベース)の中央値は晴眼者の400万円に対し視障者では180万円だった。これを100万円単位の階級でみると、まず、視障者では100万円以下が33.2%、200万円以下の累積率は59.2%、300万円以下(同)は76.4%で、晴眼者の16.O%、27.9%、41.1% (同順)を大きく上回っていた。 一方、301〜800までの階級と801万円以上の階級に分けて各累積率をみると、前者では晴眼者の38.5%に対し視障者は18.7%、後者では同順で20.4%と4.9%であり、視障者では経営の零細化が著しい(表 1)。 表 1. 階級別年収 −晴眼者・視障者別− 4. 考察 4.1. 本調査はサンプルサイズ及び回答数ともに類似調査として最大規模であり、層化無作為抽出法により実施したことから、結果には一定の信頼性が担保されているものと考えられる。 4.2 .廃業・休業率の 9.9%と未着施術所の割合(推計15%)の計25%が営業実態のない可能性があり、平成24年度の国の統計値83,313件を62,500件程度に下方修正する必要性が示唆された。 4.3. 視障者は男性の割合と 50歳以上の累積率が高い傾向を認めた一方、施術所の規模や施術者の雇用率の点でも晴眼者を大きく下回っており、視障業者の経営の小規模化がうかがえた。 4.4. 平成25年の年収は平均値・中央値ともに晴眼者が視障者の2.2 倍で07年に実施した調査値の2倍より拡大していた。深刻なのは視障者の約3人にI人が年収100万円以下の層にあり、300万円以下の低収入層に4分の3が集中していたことである。300万円以下の低収入層の累積率を2003年の調査値と比べると、視障者の比較では18ポイントも今回が上回っており、視障業者の経営悪化が進行している可能性を示唆する結果であった。 以上