筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センターにおける鍼灸師を対象とした卒後臨床研修制度の再評価 筑波技術大学 保健科学部 附属東西医学統合医療センター1) 福島 正也1) キーワード:鍼灸,卒後教育,卒後研修,臨床教育,臨床研修 【緒言】本学東西医学統合医療センター施術部門では,1993年から鍼灸師を対象とした卒後臨床研修制度を導入し,多くの人材を輩出してきた。 近年,鍼灸師を取り巻く社会的情勢は大きく変化している。第2回(1993年度)国家試験合格者数は,はり師2,141名,きゅう師2,153名であったが,第23回(2014年度)国家試験では,はり師3,808名(1993年度比+177.9%),きゅう師は3,773名(1993年度比+175.21%)となっており),新たに国家資格を取得する鍼灸師の数は大幅に増加している。 一方で,鍼灸を学ぶ学生を対象としたアンケート調2査)では,独立開業や施術所勤務が困難と考える理由として,“自分の技術に自信がないこと”が多く挙げられており,学校教育段階では十分な臨床能力が身に付けられていない現状が示されている。また,同調査では,約80%の学生が“卒後の臨床技術や医学知識の習得を目的とした研修”を希望しており,鍼灸師を対象とした卒後臨床研修に対する需要は大きい。 そこで本研究は,近年における東西医学統合医療センター施術部門の卒後臨床研修制度について,その現状および課題を評価することを目的とした。 【方法】本学東西医学統合医療センター施術部門において,2012年度および2013年度にレジデントコースへ入所した研修生7名(研修生A〜Gとする。2012年度:中途終了者1名を除く3名,2013年度:4名)について,研修1ヶ月目から24ヶ月目までの施術実績を集計・分析した。なお,分析対象を2012年度および2013年度の入所生のみとしたのは,研修制度の改定等により,それ以前の年度の施術実績との比較は困難なためである。 7名の研修生の内,研修1年目(1ヶ月〜12ヶ月)に週5日の臨床研修に従事したものが5名,週4日だったものが2名,研修2年目(13ヶ月〜24ヶ月)は全員が週3日の臨床研修に従事した。 また,研修期間を25ヶ月以上に延長した研修生が2名いた。 施術実績の集計対象は鍼灸施術を行った患者のみとし,受診はしたが施術を行わなかったものは除外した。また,初診患者の主訴分類では,1人の患者が複数の主訴をもつ場合は各々の主訴を独立に集計した。 なお,施術部門全体の患者動態に関する集計・分析は別に譲る。 【主な結果】 1.総施術数 研修生1人あたりの24ヶ月間の総施術数は平均865人(最小値622人,最大値1132人),月平均36人だった。 24ヶ月間の推移では, 2ヶ月目から施術数が漸増し,4ヶ月目からは月平均30人を超え,この水準が22ヶ月目まで維持されていた(4ヶ月目〜22ヶ月目の月平均43人)。13ヶ月目には月平均58人となり,ピークを示した。23ヶ月目,24ヶ月目は施術数が急減し,月平均20人を下回った(図1)。 図1 総施術数の推移 2.初診および初診扱い患者数 “初診患者”は当センター施術所で初めて鍼灸治療を受ける患者であり,“初診扱い患者”は前回の鍼灸治療から半年以上を経過した患者である。いずれも当センター診療部門(医師)の受診および施術所での詳細な医療面接と身体診察を受ける。 研修生1人あたりの24ヶ月間の初診および初診扱い患者数は平均81名(最小値56,最大値136,初診患者数が平均56名,初診扱い患者数が平均25名),月平均3名だった。 初診および初診扱い患者数の24ヶ月間の推移は, 2ヶ月目から漸増し,3ヶ月目から12ヶ月目の10ヶ月間は月平均6名の水準で推移していた。13ヶ月目から15ヶ月目にかけて急減し,15ヶ月目以降の10ヶ月間は月平均2名で推移していた(図2)。 図2 初診および初診扱い患者の推移 3.初診患者の主訴分類 391人の初診患者を研修生が担当していた。 初診患者の主訴は,症例数が多いものから順に,1)腰痛:128人,2)下肢痛:53人,3)肩こり:52人,4)頚部痛:34人,5)肩関節痛:32人,6)下肢のしびれ:23人,7)背部痛:21人,8)殿部痛:21人,9)頚肩部痛:19人,10)逆子:19人,11)頭痛:13人,12)膝関節痛:12人,13)上肢痛:12人,14)上肢のしびれ:11人,15)顔面麻痺:9人だった。 また,症例数が1〜2人の主訴が50以上みられた。 【考察】 1.総施術数について 総施術数の24ヶ月間の推移は,保健所への登録等を完了し,施術を開始する2ヶ月目から漸増し,その後,施術数を徐々に増加させながら,13ヶ月目にピークを迎える。この13ヶ月目は研修2年目の4月にあたり,年度替わりのため,研修終了者からの引き継ぎ患者が 増加することや,施術者の数が減少することが要因と考えられる。23ヶ月目,24ヶ月目には,研修終了を控えて引き継ぎを開始するため,総施術数が急減する。 24ヶ月全体を通じて,非常になだらかなカーブを描いて推移しており,安定的な施術数を維持しながら,臨床研修が実施されていると考えられた。 2.初診および初診扱い患者数 初診および初診扱い患者数の24ヶ月間の推移は,総施術数と同様に2ヶ月目から漸増し,3ヶ月目以降は安定した水準で推移する。その後,13ヶ月目から15ヶ月目にかけて患者数は急減する。これは総施術数のピークと重なっていることから,治療を担当する再診患者が増加することや,新年度に入所した研修生が施術を開始する時期にあたることが要因と考えられる。 このことから,研修1年目は初診および初診扱い患者を多く担当し,研修2年目は継続的な再診患者の治療が中心になっていることが示された。 3.初診患者の主訴分類 初診患者の主訴分類は,症例数上位の多くを整形外科関連と考えられる症状が占めていた。これは我が国における鍼灸受療患者と同様の傾向であり,当センターでの臨床研修により,就業や開業に必要とされる臨床経験を蓄積できているものと考えられる。一方で,症例数が1〜2人の主訴も50以上みられており,レアケースへの遭遇も少なくないと考えられた。 【成果】本研究を通じ,東西医学統合医療センター施術部門の卒後臨床研修について,現状と課題の一端を明らかにすることができた。今後,本研究の成果を研修制度の改善および外部への啓発活動に活用する。 【公表】学会発表および論文投稿を予定している。 【参考文献】 1)公益財団法人 東洋療法研修試験財団. 過去の受験者数(cited 2015-4-17), http://www.ahaki.or.jp/examination/examinees.html 2)矢野 忠, 石崎 直人, 藤井 亮輔, 他. 鍼灸師養成教育機関に在籍する学生の鍼灸医療に対する意識と要望等に関する調査研究 卒業学年の学生を対象とした調査(1). 医道の日本. 2010;69(3): p.96-102.