日本の教育に現代欧米の手技療法の流れを取り入れるための研究 筑波技術大学 保健科学部 保健学科       殿山 希 キーワード:手技療法教育,フランス,スイス,カナダ 1.成果の概要  日本の手技療法であるあん摩マッサージ指圧は,臨床効果についての科学的データは乏しいが,臨床現場では,病気の予防・健康管理・疾病の治療として人気が高い。欧米でも古くからさまざまな手技療法が行われてきた。海外の手技療法の発展や医療的活用状況を知ることは,日本のあん摩マッサージ指圧・視覚障害者教育のグローバル化を考える上で重要なポイントとなると考える。 1.1 フランスにおける視覚障害者へのマッサージ教育の基盤となる思想  平成23・24年度に渡仏して調査したフランスの視覚に障害のある人への手技療法教育を総括するに当たり,フランスの視覚障害者を取り巻く哲学的思想的社会的背景や教育の歴史を知る必要があると考えた。そのために, Remondiere P. R.著(2006)≪DANS LES MAINS 1906-2007≫ POUR  UNE  HISTOIRE  DE  LA FORMATION ET DE L'ENSEIGNEMENT DU MASSAGE CHEZ LES AVEUGLES : UN DEFT DES ANNEES 1900 を訳した。本資料は,フランスで視覚に障害のある人にマッサージ教育が始まった100年記念式典 Centenaire de L'Institut de Formation en Masso-Kinesitherapie Valentin Hauy (2007年1月25 〜26日パリ)のために書かれたものである。 フランス語で視覚障害者を現す単語aveugleは英語のpeople with visual impairment のような表現とは異なり,たいていの書籍などでは「盲人」と訳されている。よって,ここでもその慣例に従う。翻訳に際しては,パリ在往福井伸子氏の大きな協力を頂いた。  本資料によると, ・Furetier (1619-1688,アカデミー・フランセーズ会員, ルイ14世の庇護の下,辞書を発行)は,盲人を「貧者」, そして「手回し筝奏者」と白身の編集した辞書の中で紹介した。 ・1793年6月24曰に公布された『人間と市民の権利の宣言』には,「社会は,働ける状況にない者にはその代わりの補償を,働ける状況にある者には職の斡旋をすることにより,不幸な市民の生計を負っている」,「教育は万人に必要である。社会は,公共的理性の発展を促進しなければならない。教育を全ての市民の手に届くようにしなければならない」と明記されている。 しかし,主な理由として資金不足によりこの宣言は実施されなかった。 ・王政時代にあった慈善部署がそのまま引き継がれる形で1795年に制定された法律により,新たに慈善部署が設けられた。その慈善部署が,その後,盲人を含めた貧者の世話を請け負う事になった。 ・1848年11月4曰に公布された憲法の第13章に「社会は,生活の手段のない,また,その家族からは援助 を受けられない孤児,老人,身体障害者に救援の手を差し伸べる」と再び明記された。 1905年には,この援助は老人,身体障害者,不治の病人に向けられ, 1913年には多くの家族にも向けられた。 しかし,盲人白身には,他人からのこういった援助は快く受け入れられなかった。そして,生活保護者としての身分に常に意義を唱えた。「1905年のこの法律はあざけりである。 その手当金,その施し物,その援助,それらは我々の品位を落とす慈善である(1924年12月15日,盲人の 声,匿名)」。  生活保護者として扱われることに異議を唱え,一般の市民と同じように扱われることを求めた。 しかしながら,1881年には,職業盲人のための公的援助機関(La societe nationale dassistance pour les aveugles travailleurs) が設立され,この曖昧さを常に抱える事になる。 ・その戦いは, 1923年, Fabre F. (盲目となった医師, Valentin Hauy 協会の後援の下,1906年にマッサージ師養成学校を設立)によって新たにフランス盲人マッサージ師協会l’Association Professionnelle des Masseurs Aveugles de France が設立された再に再び見てとれる。 Fabreは,その目的の一つは,「公的慈善への訴えの自らの禁止」と明言している。  なお,医師であったFabre F.が自ら視覚障害者となった後,視覚に障害のある人のためにマッサージ師養成学校を設立するに至ったのは,当時日本で行われていた盲教育におけるあん摩指導がヒントとなった[1]。 1 . 2スイスの手技療法  スイスドイツ語圏でみた手技療法についてここでは簡単に記述する。詳細は発表論文を参照していただきたい。 1.2.1温泉ホテルでの手技療法  温泉地のホテルには,入浴施設と併設されたマッサージ施術室があった。施術の内容は,医療マッサージとして,全身マッサージと足反射区マッサージ(リフレクソロジー),リラクゼーションマッサージ(wellness Massagen)として,ストーンマッサージ・ロミロミ(ハワイ伝統マッサージ)・伝統中医学マッサージ・推拿・中国式ウェルネスという施術が行われていろとのことであった。 1.2.2医療センターでの手技療法   「病気の予防と健康の回復の両方を目的とするさまざまな現代的な治療法を提供する」とのポリシーが掲げられた医療センターは,医師2人の医療部門と,理学療法士・医療マッサージ師8人とトレーニングコンサルタント数人が働くセラピー部門で構成されていた。 manual medicine が医師の手で行われるという。セラピー部門で行われる手技療法としては, manual therapy ・ PNF ・ マッサージ  (クラシックマッサージ・マニピュレーティヴマッサ ージ・リフレクソロジー・結合織マッサージ・リンパ ドレナージュ・その他(トリガーポイント療法,鍼な ど)であった。 1 . 3米国・カナダ(北米)のマッサージ教育  執筆者の論文から日本の手技療法教育[2]と研究[3] に興味を持つたというDr. Antony Porcinoが本学を訪問し,その後研究を共同している。  北米では,500時間でマッサージ教育を行う州も多いが,日本では,あん摩マッサージ指圧師になるために約2000時間の教育がなされることに博士は驚き,特に, 4年制の国立大学で視覚障害者教育の伝統を引き継ぎながら高いレベルで手技療法教育を行っていることを評価した。また,北米では「massage」と呼ばれる療法に42種が含まれ, massageの研究論文から効果をみる場合に混乱があるとのことである。 日本の手技療法研究においても,研究リテラシーの確立が必要である。 2.成果の今後における教育研究上の活用及び予想さ れる効果  明らかになった海外の手技療法の伝統や医療的活用,視覚障害者教育との関連は本学での教育に直接的に関わり,教育の質の向上に貢献できると考える。今後もさらに調査・研究が必要である。特に, Dr. Porcinoの主導で始めた手技療法研究リテラシーの研究は本学大学院生や関連学会への貢献度が高い。 3.成果の発表  論文を作成した。 殿山希,周防佐知江,大越教夫・スイスの温泉地バー デンのマッサージ・手技療法・補完代替医療。日本温泉気候物理医学会雑誌。2014;77(4):p306-313. 4.文献 [1]ジナ・ヴェイガン。盲人の歴史:中世から現代ま で。藤原書店(東京), 2013. [2]Donoyama N, Shibasaki M. Differences in practitioners' proficiency affect the effectiveness of massage therapy on physical and psychological states. J Bodyw Mov Ther. 2010:14:p239-244. [3]Donoyama N, Satoh T, Hamano T. Effects of Anma massage therapy (Japanese massage)for gynecological cancer survivors: study protocol for a randomized controlled trial. Trials. 2013  Jul 24:14:233. doi: 10.1186/1745-6215-14-233. http://www.trialsjournal.com/content/14/1/233