公共サイン等の画像特徴量を検出する高速認識手法の開発 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科1) 日本薬科大学 薬学部 医療ビジネス薬科学科2) 巽 久行1), 村井 保之2) キーワード: 弱視,視認支援,視野画像認識,公共サイン,画像特徴量検出 1.目的 公共空間には案内や誘導,説明や規制などの情報が取得しやすいピクトグラム(絵文字,例えば非常口のマーク)に代表される公共サインが設置されているが,弱視者にも伝達されているとは言い難い。本研究は,平成25年度の競争的教育研究プロジェクト:“ピクトグラムや境界を検出するための高速認識法の開発”[1]の継続であり,特に,ピクトグラムを高速に認識するためのリアルタイム性に優れた画像特徴量を検出する手法を開発することを目的としている。 2.成果の概要 ピクトグラムは遠方からの目線に沿って発見される位置に設置するため,弱視者による視認は殆ど無理である。我々は過去に,弱視者が視線追跡装置を着けて駅周辺に設置しているピクトグラムの視認具合を調査した経験があるが,結果は殆ど視認できていなかった。本研究は,弱視者の見え方を補助する機器(聴力を補う補聴器に並行して,補助的な視認機器という意味を込めて“補視器”と呼んでいる)を開発するという目標のもとに,ピクトグラムの高速認識手法の検討を行っている。これまで試した画像認識アルゴリズムは,ブースティング法(Boosting:簡単な分類器を組み合わせて全体として強い分類器となるような認識手法),SIFT法(Scale-Invariant Feature Transform:スケールスペースを使った回転や拡大縮小に不変な特徴量による認識手法),ViPR法(Visual Pattern Recognition:予めデータベースに登録している特徴量との高速マッチング),SURF法(Speeded Up Robust Features:SIFT法の処理速度改良版,SIFTはDoG画像を作成して特徴点 を検出するが,SURFはこれをヘッセ行列で高速化している)などであり[1],特徴量を利用する手法の中で最も有望なのがSURF法であった。ここで特徴量とは,画像中の濃淡の変化が大きい特徴点を検出して,その特徴点周りの領域を,画素値や微分値により特徴ベクトルで表現したものである。図1に,SURF法による非常口ピクトグラムの検出例を示すが,認識させたい画像であるピクトグラム上に検出されている特徴点は必ずしも多くはない。 図1.SURF法によるピクトグラムの検出例 一般に認識精度は,対象画像上の特徴点が多いほどテンプレート画像(認識したい画像)と一致する要因が増加する。そこで,対象画像の特徴点抽出として,エッジ画像にして,検出される特徴点を増やす方法がある。例えば文献2では,エッジ画像と色情報を用いることによる高性能化したSURF法が提案されており,道路標識の検出(エッジ画像で標識上に検出される特徴点を増やし,色情報により標識以外の特徴点を削減する)を例に,その有効性を検討している[2]。本報告では,評価する手法が色情報に依らないように(また,計算処理が均一化されるように),グレースケール画像とエッジ画像にしたピクトグラムに対して特徴点検出を行った。以下に,実験で用いた手法の中 で,代表的な6つを示す(SIFTとSURFは除外する)。(1) ORB(Oriented FAST and Rotated BRIEF)(2) AKAZE(Accelerated KAZEFeatures)(3) FAST(Features from Accelerated Segment Test)(4)BRISK(Binary Robust Invariant Scalable Keypoints)(5)GFTT(Good Features To Track)(6)SimpleBlob(Simple Binary large object)表1に,各手法で検出した非常口ピクトグラムの特徴点数の結果を示す。また,図2および図3に,抽出結果を示す。ここで各手法はPython言語で記述し,OpenCV 3.0に実装されている場合はそれを利用した。 表1.特徴点の個数 図2.ORB・AKAZE・FASTによる特徴点抽出 図3.BRISK・GFTT・SimpleBlobによる特徴点抽出 使用したPCは,ASUS P30AD(Intel Core i5 2.80GHz,メモリ16GB,64ビットWindows 8.1)である。表1より,FAST法以外では,エッジ画像の方が,グレースケール画像より特徴点数が多い。FAST法は周囲の点の明暗情報が連続しているか否かでコーナー判定を行うので,明暗の強いグレースケール画像の方が,特徴点検出に有利であったと思われる。また,各手法の処理時間の関係は,BRISK<AKAZE<ORB<GFTT<SimpleBlob<FASTで,例えばORB法は,おおよそSIFT法の100倍,SURF法の10倍の速さであった。 3.参考文献 [1]巽,村井:“ピクトグラムや境界を検出するための高速認識法の開発”,筑波技術大学テクノレポート,Vol.22,No.2,pp.72-73,2015.3.[2]佐々木,今野,恒川:“エッジ画像と色情報を用いたSURFアルゴリズムの検討”,計測自動制御学会東北支部・第280回研究集会,No.280-4,pp.1-7,2013.5.