経絡経穴刺激によるスポーツ選手の自律神経バランスやメンタリティへの影響 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 櫻庭 陽 キーワード:スポーツ,自律神経,経絡経穴  本研究はスポーツ選手の自律神経バランスやメンタリティに対して,経絡経穴刺激が影響するのか,また その影響はポジティブなのかネガティブなのか,検討することが大きな目的である。 しかし,これらは容易 に客観化して評価できることではない。特に自律神経の変化に関しては,現在までに様々な方法で評価され ているが環境や測定の条件や設定によって多様に変化することから,その評価は現在でも難しい。 しかし, 本研究では起立負荷によって引き起こされる心拍変動の周波数解析によって捉えられる交感神経と副交感神 経の変化を用いて自律神経の評価をすることとした。この方法は,簡単に持ち運ぶことができる機器による 数分の検査で測定できることから,本研究に最適と考えた。スポーツパフォーマンスに大きな影響を及ぼす メンタリティには自律神経の影響も大きい。これらが調整できれば,スポーツにおける鍼灸の可能性を示す ことができる。  スポーツにおいて自律神経系に影響する要因は多数考えられるが,本研究では自律神経の変化とともにそ れに影響を与える要因の一つである疲労を量的に評価することとした。けじめに,スポーツによって起こる 疲労をメンタル及びフィジカルの面で評価するために,指標としてProfile of Mood States 短縮版(以下, POMS), 唾液アミラーゼおよび血中乳酸値の測定を採用した。また,パフォーマンスへの影響の参考として,ヘッド スピードの測定を行った。介入は,スポーツ選手によく用いられている円皮鍼によって実際に即した形式で 行った。  今回は様々な課題や問題点が見つかり,今後の研究に大きな示唆を与えた。本結果から得られた貴重な情 報を参考にして,今後も研究を継続していきたいと考えている。以下,実施内容とその成果について記す。  【実施内容】  ○計測機器の再選定と購入  ○計測機器の使用方法確認と調整  ○測定事項の再検討  ○質問表等の作成  ○被験者の募集と選定,日程調節  ○場所の選定と利用許可  ○実施 2014年11月30日,筑波学園ゴルフ倶楽部      対象は一般男性2名    「ラウンド前後の測定事項」    1.プロフィール(属性や生活,健康,ゴルフ等)    ・氏名,年齢,身長・体重    ・運動習慣,前日の睡眠,飲酒習慣,食欲,     喫煙の有無,既往歴・服薬,アレルギー    ・鍼の経験    ・ゴルフ歴,平均スコア,    2.疲労感のVisual Analog Scale (以下,VAS)    3. POMS    4.疲労部位調べ(日本産業疲労研究会産業疲労研究会選定)    6.唾液アミラーゼ(唾液アミラーゼモニタ,ニプロ)    7.血中乳酸値(ラクテートプロ,アークレー)    8.起立負荷試験(きりつ名人, Crosswell)    9.ヘッドスピード(M-Tracer For Golf, EPSON)    10.ゴルフスコア   「介入」   介入群:0.6mm円皮鍼(パイオネックス, SEIRIN)    ※腰部と下肢から両側の腎兪,志室,復溜,承      山を選穴した1)。 非介入群:無治療 「結果」  ラウンド前後において, VASで評価した疲労の度合いは共に上昇したが, POMS (点数が高いほど悪 い)は非介入において減少した。また,唾液アミラーゼ活性は交感神経活性を評価すると言われて いるが2),ラウンド後には共に低下していた。血中の乳酸値は運動強度と共に上昇するが,共に減少 した。起立負荷試験については,ノイズがでたため正確な数値が測定できなかった(※)。ヘッドス ピードには大きな変化はなかった。 表1 測定結果 「考察」  各測定結果を参考にして,問題点や改善点を述べる。疲労感について聴取したVASは,疲労傾向が 見られた。 しかし,フィジカルとメンタル両方の聴取が必要かもしれない。 POMS や疲労部位調べ については,疲労を反映させる結果が得られなかった。これは,ラウンドの結果(スコア)や当日 のプレーに対する満足度等の気持ちが影響するかもしれない。そういった意味でもフィジカルとメ ンタルのVASによる評価が必要かもしれない。唾液アミラーゼ活性の結果は,ラウンド前の気分の 高揚とラウンド後の安堵感などが影響しているかもしれない。血中の乳酸値については,ある一定 の運動強度が必要で有り,ゴルフのラウンドではそこまでの運動強度に至らないのかもしれない。 これら二つは本プロトコルにいては指標にとどまるが,練習場で連続試打するプロトコルなどでは 想定される変化が得られるかもしれない。起立負荷試験については,電源の確保できるクラブハウ スのホールで実施した。そのため,他のプレーヤーが行き来したりする環境であり,このことがノ イズ発生の原因かもしれない。改善策として,まずは補助電源装置を購入し,人通りの少ない静か な環境に移動して実施できろとよいかもしれない。また,テントなどを用いて個室を作り,アイマス クや耳栓などで外部環境の影響を除去する工夫が必要であろう。  本研究では実際のプレーに即した形式で行うため,ゴルフのラウンドの前後で計測を実施した。 本結果より,このプロトコルでは対象者がレ名の場合は数回のデータが,対象者を多数のプレーヤ ーとする場合は,少なくとも十数名のデータが必要となり,時間がかかると思われる。例えば,練 習場で試打する等の負荷に変更するなど,プロトコルの再考も今後,必要である。 参考文献 1)ゴルフスイングにより生じた腰部症状に対する   M-Testおよび動作分析での評価.近藤宏,櫻庭陽,   泉重樹,森山朝正.東洋医学とペインクリニック.   41(1-2), 20-30, 2011. 2)唾液マーカーでストレスを測る.山口昌樹.日本薬   理学雑誌, 129(2), 80-4, 2007.