回動ワイヤガイドを用いたワイヤ放電ミーリング加工法の開発 −電解現象を応用したクラックレス加工面の達成− 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 後藤啓光,谷貴幸 キーワード:放電加工,回動,ワイヤガイド 1.緒言 放電現象を金属材料の除去加工に利用した放電加工法は,炭素工具鋼や合金工具鋼,さらに超硬合金にいたるまで被加工物の硬度に依存することなく加工が可能である.しかしながら,放電加工では被加工物のみ ならず工具となる電極も消耗するという欠点がある. そのため,電極の形状を被加工物に転写する形彫放電 加工法では,特定形状の電極(総型電極)が複数必要となる.これに対して,創成放電加工法は,このよう な総型電極を使用せず,丸棒などの単純形状の電極を走査し,長さ方向の消耗を補正することで特定形状の 加工を実現する方法である.しかしながら,電極の消耗を完全に補正することは困難である.  一方,ワイヤ放電加工法では黄銅などの線材を走行させながら工具電極として使用することで,実質的に電極の消耗を無視することができる.  本研究では,ワイヤ放電加工法のように走行ワイヤを電極に使用し,さらにワイヤを特定形状に固定するワイヤガイドを創成放電加工の電極のように用いることで,特定形状の加工を実現するワイヤ放電ミーリン グ法を適用した1).この手法では,総型電極を用いることなく,電極の消耗を無視することができる.  本研究ではワイヤ放電ミーリング法を用い,超硬合金に対する形状加工を実施した. 2.ワイヤガイドについて 本研究では溝がある半球形状の先端を有するワイヤガイドを使用する.図1にワイヤガイドの概要を示す. ワイヤはガイド内部を通り,ガイド先端部分の溝に沿ってゆっくりと走行する.ワイヤを走行させながらガイドを回動(正逆両方向の往復円運動)させる.この状態で創成放電加工を行うことで,ボールエンドミルを使用した切削加工のような形状加工が実現できる. 図1 ワイヤガイドの概要 3.実験方法  一般的なワイヤ放電加工で使用されるテーパ加工用軟質黄銅:ABZ30,φ0.3)を用い,超硬合金(富士ダイス社製:D10)に対する形状加工を実施し,SEM(走査型電子顕微鏡)により加工面の観察を行った.なお, 使用した加工条件を 表 1に示す. 表 1 加工条件 4.実験結果 4.1超硬合金の貫通穴加工  超硬合金(厚さ 3mm) に対し貫通穴加工を行った.なお比較のため,総型電極として,黄銅を用いて同様の条件で加工を行った.加工面の様子を図4に示す.図2(a)に示すように,総型電極を使用した場合には 加工面に明瞭なマイクロクラックが生じた溶融再凝固層が観察される.一方,図2(b)に示すように,ワイヤ放電ミーリングでは,溶融再凝固層やマイクロクラックが確認されなかった.これらの加工は黄銅を電 極に用い,同条件で加工を行ったにも関わらず,加工面には大きな差異が認められた. 図2 加工面の様子 4.2 超硬合金の底付穴加工(加工面の観察)  直径 2mm のワイヤガイドを使用して設定加工深さ 9mm の底付穴加工をワイヤ放電ミーリングにより実施した.超硬合金に対して底付穴加工した時の断面の SEM 像を図3に示す.図3に示すようにワイヤ放電ミ ーリングでの加工後では二種類の表面層が観察された. 加工穴断面の上部表面層は図2(b)と同様であった. しかしながら底部では図2(a)と同様の表面状態にな っていた.  田村ら2)によって行われたワイヤ放電加工における 表面改質技術(SI Cut)では,イオン交換水中でワイヤ電極と超硬合金との間で起こる電解作用にもとづき, 加工された超硬合金に発生するクラック等の表面欠陥の除去を試みている.本研究では,加工底部では放電加工が実施されることになるため,溶融再凝固層が形成され,マイクロクラックが発生したものと考えられる.一方,側面においては放電が発生せず電解現象が生じたものと考えられる.この現象により,溶融再凝固層がコバルトの溶出や酸化よって選択的に除去され、 炭化タングステン粒子が全面に渡って存在してクラックや微小穴などの表面欠陥がなくなったものと考えら れる.  図3 超硬合金の底付穴加工面 5.成果の今後における研究上の活用および予想される効果  本研究ではワイヤ放電ミーリング法を用い,超硬合金に対する形状加工を実施した.その結果,加工面に はマイクロクラックを有する溶融再凝固層が観察される部分(底部)と,マイクロクラックが観察されない 部分(側面)とに明確に分かれていることが判明した. このようにマイクロクラックが観察されない部分は電解によって再凝固層が除去された可能性が考えられる.今後,加工状態の解明が進むことにより,超硬合金のクラックレス加工が形彫放電加工で達成される可能性があると考えられる. 6.成果の学会発表 1)後藤啓光,谷貴幸,後藤昭弘,増沢隆久,毛利尚武:回動ワイヤガイドを用いたワイヤ放電ミーリング- 第2報 加工面の表面性状について-,電気加工学会全国大会(2014)講演論文集,pp.93-94(2014) 参考文献 1)後藤啓光,谷貴幸,後藤昭弘,増沢隆久,毛利尚武:回動ワイヤガイドを用いたワイヤ放電ミーリング 加工法の開発,日本機械学会第9回生産加工・工作機械部門講演会論文集 ,pp.203-204,(2012) 2)田村武夫,金子倉之助:ワイヤ放電加工における オンザマシン表面改質技術の開発,電気加工学会誌, Vol.46,No.111,pp.14-22,(2012)