視覚障害者学生の実技指導評価の視覚化と指導上の有効性−鍼施術における押手圧力分布の検討− 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 緒方 昭広 キーワード:医療オイルマッサージ,ビデオ,テキスト化 はじめに 鍼施術は視覚障害者の有望な自立手段として,江戸 時代より職業教育が行われており,世界に類のない日本固有の発展をしてきている。また,現代に於いて, 「鍼」のイメージは,その未経験者には「痛い」とい うイメージで捉えられているのが現状である。そこにおいて,鍼操作技術の初心者や未熟な者では,相手に痛みを与えることが多く見られる。残念ながら免許を取り立ての者でも患者に苦痛を与えることが時々見られるのが現実である。これらのことは患者離れなどを引き起こす大きな要因となる。  鍼を身体に刺入する際に,学生や初心者が最も痛みを与える操作は,皮膚を通過させるときの操作(以下 「切皮」とする)である。その際に痛み(以下「切皮痛」とする)を与えることがかなりの頻度で見られる。 申請者は鍼の刺入時に使用(日本のみ)する管を固定 する「押手」の圧力分布(@周囲圧,A水平圧,B上下圧,C左右圧,D安定度)および刺手の弾入圧のパ ターンにその原因があると学生指導と臨床(鍼臨床歴 30 年余)を通して確信している。よってその原因を本研究で明らかにし,理想とする押手の圧力分布を体得し,切皮痛のない鍼刺入の方法を指導法と共に実現することが必要である。切皮痛のない鍼操作は,受ける者や患者にも安心して受療できることにつながり,患者離れ対策ともなる。本研究は,経験的に実施している鍼施術を科学的に分析することにより新たな鍼灸教育法を開発することを目的とする。  切皮痛と押手圧の圧力分布,刺手による鍼の弾入圧についての文献は,ほとんど見られない。木村らは, 無痛切皮を目指した押手圧を報告(理療の科学,第 9 巻 1 号,1982)しているが,一般の計りを使用しており,押手圧の圧力要素(@周囲圧,A水平圧,B上下圧,C 左右圧,D安定度)については,詳細には分析されてい ない。 今回の研究では,押手圧の圧力分布を解析し,より学習過程の早い段階で,切皮痛の少ないまたは切皮痛のない指導法を確立するため,以下の実験を行った。 【対象】 本研究の趣旨,計画などについて充分な説明を行い, それに同意が得られた者のみを対象とした。 @熟練者の押手圧力分布の測定 3名 A鍼灸学専攻1年修了者の押手圧力分布の測定 3名 【方法】 1.押手圧の評価:タクタイルセンサシステム(圧力分 布測定システム)を用いて,押手全体の面圧力分布を測定した。測定はベッドの高さを3段階に変えて実施し,すべて鍼管をシートの上に立て,切皮と同様に鍼管の頂点を被験者が通常行っているの切皮のようにタッピングさせた。そのときの押手の動揺を観察した。また同時に,押手の上肢の肩関節,肘関節の角度を測定した。 2.切皮痛の評価:対象者のすべてに,申請者の下腿後側の3カ所に実際の切皮を行わせ,1)痛み無し, 2)少し痛い,3)痛い の3段階で切皮痛の程度 を評価した。 3,使用する鍼:ディスポーザフル鍼灸針,ステンレス製(セイリン社製),50 mm,18 号針を用いた 【結果】 熟練者は @中指の圧が高い A手根部を付ける例と付けない例が見られた。Bいずれも3回の刺針時の切皮痛はなかった。 C肩関節,肘関節の角度は別紙 D座位の姿勢は,直立であった。 E押手の重心位置は,1例は中指の近くにあり,ベッドの高さを変えてもその位置はほとんど変化しなかったが,他の1例はベッドの高位が最適の場合は, 中央に,それより 5cm 高くした場合は,中指の知覚 に,逆に 5cm 低くした場合は,手根部に近く移動す るパターンがみられた。 F初心者は,押手の重心位置が手根部に近く,栂指に 面圧力が高い傾向が見られた。またベッドの高さによって,重心位置のバラツキが見られた。切皮痛は 3)痛いの評価の頻度が高かった。 【考察】 1,熟練者3人とも重心位置が異なる。中指近く,ベ ッドの上下で変化,ベッドの高低にかかわらず,手根部近くにある。これは,各被験者によって,押手の安定度を高めるために,重心位置が変わる者と,変化しないで一定の者があることを示唆した。また初心者への指導として,押手の重心の安定性,栂指と示指圧の 平均化が必要であることが判明した。  今後は,さらに熟練者のデータ集積を行い,熟練者の押手圧力分布および重心の移動パターン,上肢の関節角度の標準化を図り,学生のスタンダードを示し,それを元に切皮痛のない早期の鍼操作ができるように指導していきたい。 参考文献 1) 周防佐知江,成島朋美,船山庸子,池宗佐知子,佐々木健,緒方昭広,大越教夫.医療技術を学ぶ視覚障害学生に対する自主学習用教材作成の取り組み - 音声による視覚情報保障機能を有する経穴暗記カード - . 筑波技術大学テクノレポート.2013;21(1)48-52. 2) 池宗佐知子,成島朋美,東條正典,緒方昭広,佐々木健,大越教夫:過去問反復学習を取り入れた国家試験への取組とその効果の検証: 筑波技術大学テクノレポ ート Vol.20(1)Dec 57-60 3) 中野亮介,緒方昭広:視覚障害教育におけるコンピュータ支援教育システム(CAI)の開発及びその効果の検証 - 理療科教育における WEB 教材作成用ソフトの開発及び WEB 教材の実践: 筑波技術大学テクノレポ ート Vol.19(2) 17-21 4) 藤井亮輔,東条正典,長谷川尚哉,緒方昭広,殿山 希.あんま基礎実技における効果的な学習指導法の検討 - 手指圧および動作解析による検討 -   筑波技術大 学テクノレポート Vol.18(1) 34-40