心肺運動負荷による運動が脳機能及び筋代謝に及ぼす影響 −健常者と脳性麻痺者と比較してー 筑波技術大学保健科学部保健学科理学療法学専攻 石塚和重 キーワード:心肺運動負荷、Nirs、Sp02、健常者 成果(概要) 1. はじめに 近赤外分光法(Nirs)は非侵襲かつ簡便な組織酸素濃度測定法として脳、筋を対象に多くの応用が試みられている。その応用例として、1)一流運動選手と一般成人における運動後の筋酸素濃度回復速度の比較、および運動選手における高地トレーニング効果、2)運動時の筋組織酸素消費量の局所的計測などが報告されている。今回、脳循環・代謝から脳機能研究をさらに深く迫るためのApprentSp02(みかけの動脈血酸素飽和度)にも着目して、新たに筋代謝にもApprentSp02(以下Sp02)を応用した心肺運動負荷による運動が脳機能及び筋代謝に及ぼす影響について予備実験の段階であるが健常者について検討を試みた。 2. 対象と方法 対象は本学学生5名(男性2名、女性3名、平均年齢25歳)を対象とした。本測定は当大学倫理規定に基づき本人の承諾を得て進められた。方法は自転車エルゴメーターを使用した心肺運動負荷で、2分間安静状態後、2分間のウオーミングアップをし、ペダルを1分間に50〜60rpm(回転)の速度で維持した状態で、徐々に負荷をかけて漕いでいった。ペダルのスピードが維持できなくなった時点または本人が限界を感じた時点で負荷試験は終了し、5分間のクールダウンをして検査は終了する。心肺運動負荷による運動が脳機能及び筋代謝に及ぼす影響について、Spectratech OEG-Sp02で安静時、運動負荷時、運動負荷後の酸素化へモグロビン(oxy-Hb)、脱酸素化ヘモグロビン (deoxy-Hb)及びApprentSp02について測定した。(図1)測定部位は前頭部(前頭葉)と大腿直筋とし、同時計測を試みた。 図1 測定風景 3. 結果と考察 赤線部はoxy-Hb、青線部はdeoxy-Hb、緑線部はApprentSp02の変化を示している。前頭部におけるNirsの変化は全体として運動開始とともにoxy-Hbの増加,deoxy-Hbの減少がみられる。(図2,4)一方、筋において運動開始とともにoxy-Hbの低下,deoxy-Hbの増加がみられている。(図3,5)また、前頭部におけるoxy-Hbの増加はcase2の様に運動負荷終了時にピークが来ると予想されるが、case1の場合は運動負荷終了前にピークに来ているcaseもある筋においてもoxy-Hbの減少は運動負荷終了時に最大になると予想されるが、実際には最大負荷時より前段階に来ている可能性があると考えられる。運動負荷後の回復過程であるクールダウン時では前頭部のoxy-Hb は減少傾向を示し,deoxy-Hbには増加傾向がみられている。一方筋ではoxy-Hbの増加,deoxy-Hbの減少がみられる。ただし、すべての被験者が同様な傾向を示したのではなく、図6、7で示すように、運動負荷時において前頭部にoxy-Hbの減少,deoxy-Hbの増加がみられるという特徴を示したものもいる。筋についてはほぼ他の被験者と同様の結果になっている。Sp02に関しては運動負荷によって前頭部ではSp02の変化は認められなかったが、筋においては運動負荷によって筋中のSp02の増加傾向が認められた。灰田は前頭部におけるNirsの変化は全体として運動開始 とともにoxy-Hbの増加,deoxy-Hbの減少がみられ,total-Hbはあまり変化していない。一方、筋において運動開始とともにoxy-Hbの低下,deoxy-Hbの増加がみられ,total-Hbはあまり変化していない。つまり前頭部では酸素の供給がされ、筋肉で酸素が消費されていることが示されていると報告している。Nirsに関しては同様の傾向を示したが、Sp02に関しては今後さらに検討が必要となってくる。現時点では予備実験の段階であり、更に脳性麻痩者についても検討していく必要がある。 図2 前頭部のNirsとSp02(CASE1) 図3 筋のNirsとSp02(CASE1) 図4 前頭部のNirsとSp02(CASE2) 図5 筋のNirsとSp02(CASE2) 図6 前頭部のNirsとSp02(CASE3) 図7 筋のNirsとSp02(CASE3) 参考文献 1) 灰田宗孝:NIRS(信号変化の原理と臨床応用)、脳循環代謝17、1-10、2005 2) 山本克之:筋赤外線分光法を用いた筋組織酸素動態の計測、顎機能誌、J.Jpn. Soc. Stomatagnath.Funct. 12、93-99、2006 成果の今後の教育上の活用 脳性麻痺者の運動が脳機能や筋代謝にどのような影響があるのか検討することは今後、脳性麻痺児(者)のスポーツやリハビリテーションへの応用に非常に有意義な研究である。また、理学療法学を学ぶ学生に運動指標としての示唆をあたえてくれる内容でもある。更に、運動学実習において心肺負荷試験は内部障害や循環障害のリハビリテーションにも広く応用していくように活用していく。 成果の学会発表等 今後、日本障害者スポーツ学会、医療体育研究会、その他理学療法に関する学会に発表していく予定である。