計画段階に参画した障害児・者利用施設の POE(入居後施設評価)による利用者の使いこなし課程の研究 山脇博紀 筑波技術大学 産業技術学部 総合デザイン学科 キーワード:障害児,医療型障害児入所施設,建替え,POE,施設職員 1.背景 医療型障害児入所施設は,福祉型と共に障がいのある児童が入所して治療およびリハビリテーションを受ける施設型である。その設備整備基準は「医療法に規定する病院として必要な設備」とされ,多くの場合,ホスピタルモデルの病棟計画が採用される。しかし,長期に入所・療養する施設空間には急性期病棟とは異なる空間ニーズがあり,生活形成の視点で検討する必要があると思われる。高齢者の入所施設においては,生活形成の視点による病棟計画として小規模生活単位に対応したユニット型空間が提案され,建築計画の分野でも長く研究されてきた。 筆者は,医療型障害児入所施設の建替えプロジェクトへの参画機会(公募型技術提案方式で選定された設計事務所との研究受託契約)を得て,医療型障害児入所施設に対して,このようなユニット型の病棟計画を提案した。 2.目的 今回は,このようなユニット型空間を採用し建設された M医療型障害児入所施設を対象に,ユニット型空間の病棟が施設職員並びに入所児童の行動に与える影響を検証する。 図1 調査対象施設の建替え後の入所部門平面図 3.調査対象施設の概要 対象の施設は K県 M市の公立民営の医療型障害児入所施設(入所定員 35名)である。 平面計画上の特性として,①小規模グループを形成し,ユニットを構成したこと,②中廊下型病院平面構成ではなく,共用リビングを中心としたホール型平面構成としたこと,③個室率を高めたこと(19室,82.6%),④共用空間における多様な居場所の形成と⑤生活姿勢(特に平座位)に即した床デザインを施した空間の形成,が挙げられる。特に,小規模グループの形成(①)においては,厚労省が小規模グループケア加算を障害児施設にも適応させるなど,社会的な動向の先進事例となり得る施設である。 4.調査方法 建替え前施設と建替え後施設に対する継続的な POE研究として,これまでに主にケアスタッフの行動観察調査をおこなってきた(第1回調査:2014年 1月(建替え前施設)から,第7回調査:2017年 6月(建替え後施設)まで)。2018年度は,参考施設(K県 K医療型障害児入所施設)ケアスタッフへのヒヤリング調査も含め,ヒヤリング調査とユニットケアワーキンググループでの検討会を行った。 5.調査結果  調査結果を論文にまとめ,投稿予定であるため,本報告には概要のみの記載とする。 (1)ケアスタッフの滞在場所変化と空間評価 ケアスタッフの日中業務時間帯(07:00~20:00)の滞在場所は,ナースステーション等の看護拠点では 26%(第 1回調査)から漸減し 9%(第 6回調査)になり,病室では多少の増減があるものの約 15%(建替え前施設調査平均)から約 10%(建替え後施設調査平均)へと減少傾向を示し,一方で共用空間では漸増し 45%(第 1回調査)から60%(第 6回調査)へと変化した。 一方,ヒヤリング調査では,共用空間滞在率が増加しているにも関わらず,児童の見守りへの負担感が増加し,「見守れていない」「十分に寄り添えていない」との自己評価が示された。児童の居場所となり得るデイスペースを複数配置した事による「見守り対象空間の拡大」と「一望できない空間相互の位置関係」が,これの評価の要因の一つであることがケアスタッフとの検討会でも示された。 (2)二つのユニットのケア実施上の課題 建替え後の施設のケアスタッフの滞在場所の分析からは,二つのユニットの内,行動障害児ユニットへの滞在が無くなる時間が見つかった。日中ケアスタッフ数に対して,業務の重なりが混む(詳細についてここでは記述しない)と一時的に見守りが困難に陥る実態が掴めた。 これについてヒヤリングからは,ユニット間の業務状況把握および状況連絡が困難だとの指摘もあった。特に,特定のケア業務の際にその傾向が強いとの認識をケアスタッフの多くが持っており,空間と業務との関係の齟齬が課題であることが明らかになった。ユニットケアワーキンググループでの検討では,シフトと業務内容との固定的な関係への見直しや,記録業務等の間接的ケア業務の実施時間帯の修正など,いくつかの見直し案が提案され,検討された。今後の継続検討課題であることが確認された。 児童の滞在場所の多様化も認められるが,この事はケアスタッフに好意的に評価されていることが分かった。生活を支える施設として,児童の滞在場所の多様化とそれに対する(負担感の少ない)見守りの両立を目指す上で,ケア業務の見直しを伴うことが分かる。今後も,ケア業務とユニット型空間との関係性を明らかにする必要がある。 謝辞 教育研究等高度化推進事業 2018により,貴重な調査を実施することができた。また,この調査の一部を日本建築学会大会で発表することに繋がった。ここに謝意を記す。