障害学生支援に関する大学間ネットワーク形成支援事例検討─ ソーシャル・キャピタルの視点を用いた分析の試み ─ 磯田恭子1),中島亜紀子1),石野麻衣子1),萩原彩子1),白澤麻弓1),三好茂樹1),五十嵐依子1) 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者支援研究部 1) 要旨:日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)では,各地域での密な連携体制を図ることを目的とした「地域ネットワーク形成支援事業」を展開している。障害者差別解消法施行を目前に控え,今後はより身近に支援の相談ができる体制の構築が求められている。本稿では本事業を実施した4地域の事例について,それぞれの特徴をソーシャル・キャピタルの視点を活用して整理・分析を試みた。このことから,大学間ネットワーク形成のポイントとなる点が推察された。 キーワード:障害学生支援,大学間連携,ネットワーク形成,ソーシャル・キャピタル 1.はじめに 全国の高等教育機関に点在する聴覚障害学生の修学環境を整備していくために,大学等の機関間における障害学生支援担当教職員同士の情報交換と連携体制を確立していくことが求められている。平成28年4月に迫った「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下,障害者差別解消法)」[1]の施行に伴い,各大学での合理的配慮の提供は法的根拠に基づき実施されることとなる。平成24年12月に文部科学省が取りまとめた「障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)」[2]においても,関係機関が取り組むべき課題として拠点校及び大学間ネットワークの形成が短期的課題として示されている。こうした流れに先立ち,日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(以下,PEPNet-Japan)では,平成24年より「地域ネットワーク形成支援事業」に取り組んでいる。これは,全国規模の大学間ネットワークを形成しているPEPNet-Japanの23連携大学・機関を拠点として,地域ごとの障害学生支援実施大学間の連携体制の構築を目指して実施しているものである。具体的には,連携大学・機関を中心として近隣の大学との連携体制構築を後押しするために,PEPNet-Japanが開発した各種マテリアルを活用した研修会の開催を共同で実施するものである。研修会内容の協議を進める際には,大学同士の支援体制に関する情報交換とともに各大学が抱える課題を共有しながら,聴覚障害学生支援の向上に繋がる研修プログラムを構成している。あわせて大学同士の実情に合った連携可能性について協議を進め,関係性の強化を目指している。PEPNet-Japan の事業としての取り組みは1年間の期限を設けて実施するものであるが,各地域での主体的なネットワーク活動が継続されることを主眼としており,障害種に限らず全般的な情報交換ができる連携体制の構築を事業成果としている。本稿では,本事業を実施した4地域のネットワーク形成の実践内容を報告するとともに,今後の大学間ネットワークを進める際のポイントと推察される事項について,ソーシャル・キャピタルの視点を用いて整理・分析を試みる。 2.地域ネットワーク形成支援事業での実践内容 地域ネットワーク形成支援事業は,下記のスケジュールを基本に1年間に渡り実施している。 表 1 地域ネットワーク形成支援事業スケジュール 事業期間内は,PEPNet-Japan事務局が置かれている筑波技術大学が費用負担を行い(実行委員会開催に伴う旅費,研修会の講師謝金,情報保障謝金,物品購入等),主管校・実行委員協力校の負担は求めていない。事業終了後のネットワーク活動については,要請に応じてPEPNet-Japan事務局より研修会講師の紹介・内容への助言などのサポートを実施している。 3.実践内容の整理・分析にあたり 地域ネットワーク形成支援事業で実施した4地域での実践内容について,内閣府の「コミュニティ機能再生とソーシャル・キャピタルに関する研究調査報告書」(2005)[3]を引用し,ネットワーク形成段階をコミュニティ機能再生およびソーシャル・キャピタルに着目した整理・分析を進めたい。2005年4月に閣議決定した「地域再生基本方針」[4]においても,国が重点的かつ総合的な支援策を講ずる内容のうち,「地域再生のためのひとづくり・人材ネットワークづくりの促進」の項目でソーシャル・キャピタルの活性化の支援が挙げられている。このことからも,組織分析の視点としてソーシャル・キャピタルの活用に着目し,コミュニティ機能を大学間連携・ネットワーク形成プロセスと同意で検討することは有用であると考えられる。 3.1 ソーシャル・キャピタルとは 上記報告書において,ソーシャル・キャピタルの明確な定義が存在している訳ではないとしながらも,ロバート・パットナムの説が以下のように紹介されている。「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる「信頼」,「互酬性の規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴,」すなわち目に見えない人々の関係の価値であるとされている。また,ソーシャル・キャピタルの培養と市民活動の活性化には,互いに他を高めていくような関係,すなわち,「ポジティ ブ・フィードバック」の関係の可能性があると考えられるとされており,結合型と橋渡し型にタイプが分けられると述べられている。こうしたソーシャル・キャピタルの変容の条件として重要な活動要素では,以下の3点が指摘されている。・先駆性あるいは課題発見力の要素・人間関係づくりを行うリーダーシップあるいはコーディネーターの要素・コミュニケーションのための公共空間の要素本事業においては,主管校が大学間連携の必要性という課題を見出し,リーダーシップを発揮して近隣大学との連携というコミュニティ形成を進め,PEPNet-Japan事務局とともにコミュニケーション場面の形成を担っていたものと推察する。 3.2 コミュニティ機能再生プロセス コミュニティ機能の再生には,下記の特性があるのではないかとまとめられている。@ある種の危機感A危機感の共有化と活動の計画(Plan)B活動の実施,問題の緩和や課題の解決(Do)C新たな課題の発見(See)→Aへこれらの活動は持続可能なループ構造(Plan→Do →See)を有し,活動の実施ならびに新たな課題の多様化・専門化に応じ,さらに地域内外のノウハウや人材が投入できることが必要とされている。あわせて,このノウハウ・人材投入においてソーシャル・キャピタルが強く影響しているのではないかと推測されている。ここでのコミュニティは大学同士の連携という形態においても該当する概念であると考えられる。 3.3 コミュニティ機能再生活動に繋がる特性 こうした活動はすべて何かしらの「きっかけ」で始まっている。これを「コミュニティ機能再生活動に繋がるコミュニティ特性」として3つの分類がなされている。@地域に蓄積された潜在的ポテンシャルAコミュニティを覆い始めたある種の危機感B潜在的ポテンシャルが顕在化した過去の地域経験このうち,特に「潜在的ポテンシャル」に着目した上で大学間連携という機能再生・確立について検討を進めたい。 3.4 整理・分析の視点 上記のことを受け,本稿においては下記の視点を用いて各実践内容について整理・分析を行うこととする。なお,いずれの実践も聴覚障害学生支援の発展という共有課題を有していることを前提とする。 @コミュニティの危機感A潜在的ポテンシャルB危機感の共有化と活動の計画C活動の実施内容D問題の緩和や課題の解決E新たな課題の発見Fソーシャル・キャピタルを活性化する上での強み以下,4〜7ではソーシャル・キャピタルの視点を援用し,4地域での実践内容についてまとめる。 4.A地域での実践から まず,大学間のみならず地域当事者団体と共にネットワーク形成を進めた事例について整理する。 4.1 コミュニティの危機感 A地域では障害学生が在籍する大学が増えるとともに,支援体制を構築する大学も増加する中,職員レベルで気軽に支援に関する相談や意見交換ができる連携体制構築が求められていた。また,支援者養成講座の共同開催や支援学生の共有など,連絡・相談に留まらない連携のあり方についても検討課題となっていた。 4.2 潜在的ポテンシャル 同地域では数年前に15大学での連携を進めた経緯を有するが,現在は活動が途絶えている状況であった。主管校担当者は様々な大学から支援体制に関する相談対応を行っており,個々の大学の状況および担当者について把握がなされていた。 4.3 危機感の共有化と活動の計画 主管校の呼びかけにより実行委員会には近隣4大学からの協力が得られ,7回の実行委員会・情報交換を重ねた。また,実行委員会の中で聴覚障害学生が年代の異なる当事者と関わる機会を持てずにいることが,キャリア形成を具体化できない一因はないかとの課題が見出され,研修会当日の講師を同地域で活躍する聴覚障害当事者に依頼することとなった。それを受け,地方公共団体レベルの聴覚障害者団体にも実行委員会への参加を得て,大学と地域それぞれの課題について情報交換の機会を持つ好機とすることができた。 4.4 活動の実施内容 PEPNet-Japanが平成23年度に開発したプログラム[5]を活用し,聴覚障害学生を対象とした「エンパワメント研修会」を実施した。当日は8名が実行委員として協力した。また,実行委員会の中で支援技術に関する学びの機会 を得たいとの意見が多く出されたことを受け,実行委員協力校以外にも周知を行い上記研修会の他に「パソコンノートテイク勉強会」を別途開催し,参加者間の交流機会を得ることができた。 4.5 問題の緩和や課題の解決 事業実施後からメーリングリストの運用が開始され,情報交換体制が確立された。翌年には,実行委員協力校が主催するFD研修会が開催され,実行委員会メンバーも当日の企画・運営・講師として積極的協力を行なう関係性が構築されていた。 4.6 新たな課題の発見 活動を重ねる中で,聴覚障害に限らず他障害に関する情報交換の必要性も求められるようになった。それに応じてメーリングリストには大学関係者のみならず地域の就労支援団体や障害当事者も登録し,研修会の案内や様々な課題等の情報交換体制が継続されている。 4.7 ソーシャル・キャピタルを活性化する上での強み A地域では,他大学からの相談に精力的に応じてきている教員の存在が大きいものであった。その教員を中心に同地域での課題を見出し,地域性も鑑みた上で今後必要となるネットワークの目的を明確に位置づけ,大学のみならず周囲の関係者も巻き込みながら連携体制の確立を進めたことで,問題意識の共有化と連携強化を図ることができたと考える。 5.B地域での実践から  次に,実行委員協力校のみならず研修会参加をきっかけとして,ネットワーク形成の一員に加えた事例について検討する。 5.1 コミュニティの危機感 B地域には聴覚障害学生が在籍する大学が複数あり,これまでも大学間での交流機会は持ちつつも担当者の変更等により積極的かつ定常的な連携には至らない状況であった。また,各大学に在籍する聴覚障害学生も増加していることから,これまで以上に大学間連携の必要性が求められていた。 5.2 潜在的ポテンシャル 主管校には障害当事者の教員が所属しており,当該教員は聴覚障害学生支の修学・教育環境を支える団体の代表も担っていた。この活動により,同地域内の聴覚障害学生在籍状況が把握できる状態にあった。また,聴覚障害 学生同士の交流機会が積極的に持たれていたこともあり,連携のベースは培われていたものと考えられる。 5.3 危機感の共有化と活動の計画 2大学,1機関にて実行委員会を組織して活動することとなり,合計5回の実行委員会・情報交換を開催した。研修会参加校はB地域以外にも対象を広げ,学生・教職員それぞれの交流・連携の機会としたいとの方針が確認された。 5.4 活動の実施内容 聴覚障害学生を対象とした「エンパワメント研修会」を実施した。研修会当日は11名が実行委員として協力するとともに,同地域で活躍する社会人当事者にも多数協力を得て開催した。参加者は12大学から集まり,このうち9大学はB地域の学生であった。実行委員協力校は少数ではあったが,研修会当日にはB地域5大学,他地域から2大学の参加を得て教職員間の情報交換の機会を持つことができ,連携体制構築に寄与することとなった。 5.5 問題の緩和や課題の解決 これまで,学生同士の繋がりが持たれていた状況の中,本事業を通じてコーディネート担当職員同士が気軽に連絡を取り合うことのできる関係を形成することができた。また,学生を対象とした研修会を教職員も見学するプログラムを取り入れたところ,学生への対応方法にも新たな視点が得られた,との意見も聞かれた。 5.6 新たな課題の発見 大学同士の障害学生支援に関する情報共有の必要性が実感されたことを受け,後に執行部レベルでの連携にも発展している。 5.7 ソーシャル・キャピタルを活性化する上での強み B地域での大学間連携では,障害当事者教員の存在,および聴覚障害学生の修学・教育環境を支える活動を行う団体がこれまで培ってきた人的ネットワーク,学生間のネットワークが土台にあることが強みであったと考えられる。 6.C地域での実践から  以下,大学間連携体制の明確なビジョンを持つ主管校を中心に実施した事例について紹介する。 6.1 コミュニティの危機感 障害学生支援をとりまく法制度の変革を受け,情報共有体制の強化を目的とした各大学組織間での継続可能なネットワーク形成の必要性が求められていた。 6.2 潜在的ポテンシャル 同地域は障害学生支援を積極的に実施している大学が多く,障害学生も各校に複数名在籍している状況であった。すでに障害学生支援担当者間の連携活動は実施されていたが,担当者個人での参加に留まるものとなっていた。そこで管理職と支援担当職員の両者が関わる形での連携事業を実施することとなった。 6.3 危機感の共有化と活動の計画 実行委員会には6大学からの協力が得られ,8回の実行委員会・情報交換を重ねた。この6大学から障害学生支援担当部署の管理職・現場担当者のそれぞれの立場から参加を得る形で実行委員会が形成されたことが特徴的であった。実行委員会の中で,研修会内容について支援コーディネート業務を直接担う職員のみならず,組織の意思決定に関わる立場の教職員など支援業務に携わる様々な立場で参加できるプログラムとしたいとする意向が確認され,内容の具体化を進めていった。 6.4 活動の実施内容 PEPNet-Japanが作成した「障害学生支援コーディネーター養成・研修カリキュラム」(平成23年度公開)[6]をもとにプログラムを構成し,「障害学生支援教職員研修会」を実施した。当日は11名が実行委員として協力した。 6.5 問題の緩和や課題の解決 大学組織間でより密な情報交換ができる関係性の構築を進めることができた。大学組織としてのネットワークとすることで,こうした学外で行われる活動にも業務として参加可能な条件を整えることができた。 6.6 新たな課題の発見 現在も共同で支援学生対象の研修会を定期的に開催するなど継続して活動が行われている。また,副次的効果として有期雇用のコーディネート担当職員の人材交流にも繋がっている。 6.7 ソーシャル・キャピタルを活性化する上での強み 同地域では,実行委員協力校それぞれが支援専門部署を伴う障害学生支援体制を構築しており,実務レベルでの課題が明確にされていた。また,主管校にネットワークのあり方について明確なビジョンを持つ管理職職員が加わっており,他大学への参加要請等を主体的に進められたことも特徴的であった。組織間の連携であれば業務として職員の参加もしやすくなる,という点はネットワークのあり方に示唆を与えるものであった。 7.D地域での実践から  最後に,近隣大学の支援体制充実に伴う新たな課題を見出し,大学間連携に取り組んだ事例について整理する。 7.1 コミュニティの危機感 支援体制構築を進める大学が増える中,先進的な取り組みを行っている大学との定常的な連携機会が得られず,同地域に蓄積されている支援ノウハウの共有が求められていた。また,障害者差別解消法施行に伴い,障害者施策の動向について関心が高まっていた。 7.2 潜在的ポテンシャル D地域では,障害学生支援を先進的に実践している大学が複数校あり,数年前から主管校が主催する形で同地域内での聴覚障害学生支援に特化した交流会の開催が行われていた。 7.3 危機感の共有化と活動の計画 実行委員会には6大学から参加が得られ,6回の実行委員会・情報交換を重ねる中で,大学間の継続的な連携と各大学の支援技術の底上げが求められていることが把握された。様々な課題が抽出される中で,障害学生支援担当教職員を対象とした研修会の開催により関心が高いことが共有され,テーマの決定に至った。 7.4 活動の実施内容 障害者施策の動向を学ぶことと,支援担当者間の情報交換を目的として「障害学生支援担当教職員研修会」を開催し,当日は8名が実行委員として協力した。参加者間の密な情報交換を目的としたプログラムでは,各大学の支援体制に関する深いディスカッションを行う好機となった。また,実行委員協力者の中には障害学生支援経験が短い担当者もおり,支援に関する基礎的な情報収集も必要とされた。そのため,実行委員会とあわせて実施する情報交換では,アメリカの障害学生支援に関するトピックや先進的な取り組みを行っている大学からの情報提供など,特定のテーマを設けた情報交換も実施した。この情報交換のみに参加が得られた大学も3校あり,障害学生支援関係者間の連携の輪を広げる機会となった。 7.5 問題の緩和や課題の解決 同地域内の障害学生支援担当者が顔を合わせる機会を持ち,課題の提供だけでなく実践校からの具体的アドバイスを得ることができたことで,気軽な連携関係の構築を進めることができた。 7.6 新たな課題の発見 実行委員会を重ねる中で,まずは支援担当者間のつながりを持ち続けることが必要ではないかとの課題が確認された。あわせて,経験者が全てを準備した状況でレクチャーを行うだけでなく,支援経験が短い担当者のニーズを吸い上げながら必要な情報提供を行なう方法が現状に合っていることが確認された。そのため,情報交換を目的としたメーリングリストの運用,および実行委員協力校を中心とした各校持ち回りの大学見学会・情報交換会を年数回開催することとなった。毎回の情報交換会は幹事校が会場提供およびテーマ設定を行うことで,負担の少ない形での連携体制が継続されている。 7.7 ソーシャル・キャピタルを活性化する上での強み D地域には精力的に聴覚障害学生支援の発展に取り組んでいる大学が複数あること,関係する教職員が問題意識を持つ中でこれまでも研修会の開催等様々な取り組みがなされる中で,連携の土台が培われていた。また,経験者の知識・経験の共有が求められているという課題が情報交換を重ねる中で明確化されたこと,継続可能な方法として特定の人だけに負担が偏らない形での関係性の構築が実現した。ネットワークの維持・継続には負担の偏りを調整することも必要な事項であることが伺えた。 8.考察 これまで述べた4地域の実践を下記に整理したい。いずれの地域においても,ソーシャル・キャピタル変容の条件で指摘されている課題発見能力・リーダーシップが各主管校に備わっており,コミュニケーションのための公共空間を本事業が提供することで課題の共有・活動に移す機会の後押しがなされたことが考察される。また,コミュニティ機能再生については,いずれの地域も主管校のみならず実行委員協力校と共に課題を共有・抽出し(Plan),研修会の内容検討・開催を進め(Do),その中で今後の新たな課題の発見(See)のプロセスを経ていた(表2)。また,各地域における潜在的ポテンシャルの違いが,活動方法や活動実施等に特色を生み出す要因となっていることが推察された。本事業を活用することで,明確な目標共有とともに,研修会開催という活動実施に向けたディスカッションを重ねる中で相互の信頼関係が形成され,新たな課題を共に見出すプロセスを経たネットワーク形成に至っていたと考えられる。特に潜在的ポテンシャルを活かした形態での連携を進めることが,主管校の意欲を促進するとともに,実現可能な具体性を持ったネットワーク形成の重要な要因になっているのではないだろうか。 表 2 コミュニティ機能再生の視点から 9.まとめ 本稿では,4地域でのネットワーク形成支援事業での実践内容について報告を進めた。各地域の実情により,求められる連携のあり方や活動内容にも違いが見られ,こうした違いを把握した上で課題解決を図ることが大学間のネットワーク形成を進めるための重要な事項であると思われる。改めて4地域での実践内容から,ポイントとなると思われる点について以下に整理する。1)具体的な活動を伴う形でのネットワーク形成が有効である。2)相互の大学情報は早い段階で共有しておくことが有効である。3)職員個々のレベルではなく,大学組織間の連携体制を進めることで,現場担当者間のより密な関係性と持続可能なネットワーク形成に繋がる。4)相互への信頼感の醸成が必要となる。5)各地域の潜在的ポテンシャルを活かしたネットワーク形成が重要である。6)大学同士に限らず,地域のリソースも巻き込んだネットワークのあり方も有効である。本稿では,事業実施の経過をソーシャル・キャピタルの活用という視点を用いて分析を進めたが,今後は各地域のネットワーク活動状況および新たな課題としてどのようなことが見出されているのかなど,現状をふまえた分析により継続可能な要因の検討が求められよう。障害者差別解消法の施行を目前に控え,同じ課題・経験を有する身近な相談相手の存在がより求められてくるものと思われる。PEPNet-Japan連携大学・機関のように支援ノウハウを有する大学が中心となり,近隣大学との橋渡しを 行うリーダーシップを発揮していくことで,今後の大学間ネットワーク形成がさらに促進されることを期待したい。 10.付記 本事業は筑波技術大学「聴覚障害学生支援・大学間コラボレーションスキーム構築事業」の一環として実施した。各地域での主管校ならびに実行委員協力校の皆様にはここに感謝の意を表する。 参照文献 [1] 内閣府.障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律.内閣府ホームページ(cited 2015-8-21), http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65.html. [2] 文部科学省.障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ).文部科学省ホームページ(cited 2015-8-21), http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/12/__icsFiles/afieldfile/2012/12/26/1329295_2_1_1.pdf. [3] 内閣府経済社会総合研究所.コミュニティ機能再生とソーシャル・キャピタルに関する研究調査報告書.内閣府経済社会総合研究所ホームページ(cited 2015-8-21), http://www.esri.go.jp/jp/prj/hou/hou015/hou15.pdf. [4] 内閣府.地域再生基本方針.内閣府地方創生推進室ホームページ(cited 2015-8-21), https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/tiikisaisei/kekka/141227/housin.pdf [5] 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク エンパワメント事業ワーキンググループ.聴覚障害のエンパワメント モデル研修会報告書.日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク,2012. [6] 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワークコーディネーター連携事業.障害学生支援コーディネーター養成・研修カリキュラム.日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワークホームページ(cited 2015-8-21), http://www.a.tsukuba-tech.ac.jp/ce/xoops/modules/tinyd1/index.php?id=181&tmid=284 Case Report University Collaboration Project on Support for Students with Disabilities:An Analysis from the Perspective of Social Capital . ISODA Kyoko1), NAKAJIMA Akiko1), ISHINO Maiko1), HAGIWARA Ayako1), SHIRASAWA Mayumi1), MIYOSHI Shigeki1), IKARASHI Yoriko1) 1)Division of Research on Support for the Hearing and Visually Impaired,Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired,Tsukuba University of Technology Abstract: The Postsecondary Education Programs Network of Japan (PEPNet-Japan) is a national collaborative network system, under which we developed local sub-networks between nearby universities in each region. These local networks are expected to support each other to resolve problems on disability student services especially after the upcoming implementation of the Act on Elimination of Disability Discrimination. In this report, we analyzed four cases of establishment of local networks from the perspective of social capital to reveal the feature of each region. The results of this analysis provided us the key factors to developing strong networks between universities. Keywords: Support for students with disabilities, Local sub-networks between nearby universities, Networking, Social capital