あん摩・マッサージ・指圧外来の試行 成島朋美,周防佐知江,佐々木健 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 要旨:筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センターで平成 27年 4月〜9月に行われたあん摩・マッサージ・指圧外来(以下マッサージ外来)の試行の結果を報告する。週 1回,各 3枠,あん摩マッサージ指圧師の国家資格を有する3名の人員を配置した。施術時間は20分または40分とした。試行期間の患者数は述べ 68名(初診 30名,再診 38名)であった。主訴は初診時および全期間を通して最多が「頸肩背部のこり」次いで「コンディショニング」, 「腰痛」であった。「頸肩背部のこり」に対するVAS評価では初診,再診ともに施術前後で有意にVASの減少がみられた。 「コンディショニング」を希望した患者の特徴として通院可能な ADLを保ちつつも医療機関外でのリラクゼーションマッサージを受療することに不安を感じており,短時間で効果的な施術を望む傾向がみられた。このような患者に対し,本センターにおけるマッサージ外来は有益であると考えられた。キーワード:あん摩マッサージ指圧,外来,VAS,コンディショニング 1.はじめに あん摩マッサージ指圧は術者の徒手を用いて生体に力 学的刺激を与え,生体のもつ恒常性維持機能を反応させることで健康状態の維持 ,増進をはかる刺激療法であり[1],医師以外の者がこれを行う際にはあん摩マッサージ指圧師の国家資格を有することとされている[2]。我が国において ,このあん摩マッサージ指圧と鍼による医療サービスは ,少なくとも300年間を通して視覚障害者教育に基盤を置いて実施されてきた。本学春日キャンパスにある保健学科鍼灸学専攻は ,視覚障害者が築いてきたその歴史の継承と発展を期して設置されたと言える。同キャンパスには,平成4年に ,筑波技術短期大学附属診療所が開所された。現在の東西医学統合医療センターの前身である。当センターには ,現在 ,医師診療部門と鍼灸診療部門の二部門を設置して ,医科学にかかわる教育研究の遂行と東西医学を統合した医療サービスの提供を目的に運営されている[3]。この教育研究と医療サービスの一層の充実を図るために ,平成 27年 10月に新棟(西棟)が新設された。この新棟計画段階において ,本学の鍼灸学専攻と医療センターは ,鍼灸診療部門に「あん摩・マッサージ・指圧外来」(以下 ,マッサージ外来)を加える検討を始めた。その一環としてマッサージ外来の試行運用が計画され実施された。この報告は,平成 27年 4月から9月までの試行運用で施術を担当 した 3名のあん摩マッサージ指圧師によるものである。   2. 試行体制 試行運用時の体制については鍼灸外来に影響しないことを考慮した上で,本格運用に向けた問題点の抽出などを目的に開設日に制限を設けて行った。試行の体制は次のとおりである。 2.1  期間および外来開設日,人員配置 施行期間は平成 27年 4月〜 9月とした。外来開設日は毎週水曜日午後の 13:30,14:30,15:30の 3枠で,1枠につき1時間を確保することとした。人員は鍼灸学専攻より准教授 1名,および同准教授の管理のもと特任研究員2名を配置した。施術者はいずれもあん摩マッサージ指圧師の資格を有している。 2.2 施術内容および時間,料金本試行において提供する術式はあん摩(マッサージ,指圧含む)オイルマッサージ,リンパマッサージとした。施術 時間は20 ,分,40分の 2種類で,各料金は近隣施術所の価格を参考に 3,000円(税抜),5,000円(税抜)と設定した。術式や施術時間は,患者の希望を考慮した上で施術者がその病態に合わせ判断し,患者の同意を得て行うものとした。2.3 診療部門との連携鍼灸受診と同様に,初診時は鍼灸診療部門に先行して 医師診療部門を受診することにより,統合的にリスク管理を行うこととした。鍼灸外来受診中の患者がマッサージ外来の受診を希望し,かつその主訴に変更がない場合は,医師診療部門の受診は不要とした。診療部門より施術依頼が発生した際は診断名を記した医師依頼状,鍼灸受療中の患者がマッサージ外来を受診した場合は施術者からの報告書によって両部門での患者の受療状態の把握を行った。 2.4 カルテ記載事項 カルテは鍼灸カルテと併用することとした。日付印を四角で囲み,「あん摩・マッサージ・指圧」と明記することで鍼灸治療と区別した。記載事項は主訴,経過,所見,施術内容は患者の体勢,施術部位,施術手技,施術時間を記載するものとした。 2.5 治療効果の評価基準 評価時点は治療前後とし,VAS(Visual Analog Scale),NRS(Numerical Rating Scale),関節可動域 ,上肢・下肢周径など,施術効果を数値で表せるような指標をとることを目標とした。ただし,主訴によっては数値による評価が困難な場合もあるため努力目標とした。 3. 試行結果 3.1  患者数と稼働率 2015年 4月15日〜9月30日までの施行期間の患者数は述べ 68名,内初診 30名,再診 38名で試行期間中の平均稼働率は 38%であった(図1)。 図1 患者数と稼働率 図2 初診時主訴 3.2  主訴初診時の主訴は 30名で 41主訴あった。頸肩背部のこりが最多で 13名,次いで 6名がコンディショニング(健康維持・疲労予防)であり,腰痛が 5名であった(図2)。 試行期間中の 68施術における主訴は 95あり,その上位は「頸肩背部のこり」が最多で 30,次いで「コンディショニング」が 14, 「腰痛」が 13と初診と同様の順位であった(表1)。 表1 試行期間中の全施術における主訴 頸肩背部のこり 30 コンディショニング 14 腰痛 13 下肢の浮腫 7 肩関節痛 7 足の冷え 5 膝痛 5 左下肢しびれ 3 右手指痛 3 腰殿部痛 2 右下肢の動かしにくさ 2 その他 4                 計 95 3.3 施術内容 術式は,どちらの施術時間においてもあん摩が最多であり,施術時間は 20分単位が多かった(表2)。 表2 術式と施術時間 20分 40分 合計 リンパマッサージ 7 0 7 オイル 11 2 13 あん摩 22 24 46 あん摩+オイル 2 0 2        合計 42 26 68 3.4 受療経緯 マッサージ外来初診患者 30名中,医師依頼状の発生 があったものは 16名であった。整形外科からの依頼が多くみられた。鍼灸受療患者で依頼状が発生した 3名のうち2名は線維筋痛症,脳梗塞後の後遺症により定期的に医師の診察を受けており,担当医師の紹介で受診に至った。残り1名は過去に当センターで鍼灸を受療しており,マッサージ外来を希望して自主的に医師を受診したものであった(表3)。  マッサージ外来初診患者の残り14名は,鍼灸受療中の患者で鍼灸治療の主訴と変更が無かったため医師の診察を受けることなくマッサージ外来受診となった。 表3 医師依頼状発生患者数 初診患者 鍼灸受療患者 計 整形外科 7 0 7 脳神経外科 2 2 4 漢方・内科・腎臓内科 2 0 2 神経内科 2 0 2 循環器内科 0 1 1 13 3 16 3.5 VASによる施術効果の評価:「頸肩背部のこり」 最多の主訴であった「頸肩背部のこり」について VASによる前後評価を行った 24施術について報告する。患者の内訳は初診 10名,再診 14名であった。初診と再診の 2群を施術前後 VASの平均値で比較した。初診は施術前57.6(±24.7)mm,施術後20.8(±20.9)mmで,平均 36.8(±22.9)mm減少した。再診は施術前 50.9(±33.4)mm,施術後20.6(±25.9)mmで平均30.2(±28.8)mm減少した。両群ともに施術前後で有意に VASの減少が認められたが,群間に有意差はなかった(図3)。 図3 施術前後VASの変化(初診・再診) 3.6 「コンディショニング」について 施術対象として主訴にあがった回数が 2番目に多かったものは,患者本人,もしくはその家族が患者の健康維持や疾病予防を希望したものであった。我々はこれらを総称して「コンディショニング」と分類することとした。6名の患者に対し 14施術行った。6名の患者の医師依頼状の診断名は表 4のとおりであった。在宅で生活可能なレベルのADLを保ちながらも後遺症を有し,不定愁訴を抱えやすい疾患が多い傾向がみられた。 また,施術時間の内訳は 14施術中 20分施術 11回,40分施術 3回と短時間の施術が圧倒的に多かった。これは,前述の「頸肩背部のこり」の施術時間が 24施術中 20分施術 6回,40分施術 16回であることと比較しても特徴的であると言える。 表1 「コンディショニング」希望患者の依頼状診断名 ● 右膝関節症,腰痛 ● 脳梗塞後遺症,パーキンソン症候群 ● 両側視神経萎縮,肝細胞癌 ● 脳梗塞 左片麻痺 ● 便秘・下痢の繰り返し(乳児) ● くも膜下出血後遺症 4.考察 試行期間は人員やベッド数の問題から本センター内の告知に留めたため,外部からマッサージ外来の存在を知ることは難しい。初診 30名中鍼灸受療者以外に 13名の患者があったことは当センター外来患者におけるマッサージの需要をあわらしていると考えられた。 VASによる頸肩背部のこりに対する施術前後評価は初診,再診ともに施術前後で有意に VASの減少がみとめられた。わずかながら初診群に比べ再診群で術前 VASの低下がみられたが,群間での有意差は無かった。今後症例集積を重ね,累積効果について詳細な検討が必要と考えた。 試行により「コンディショニング」という需要があることが明らかとなった。この主訴を有する患者の特徴として一定の ADLを保ちつつも何らかの疾患を抱えながら生活していた。有資格者による訪問マッサージを受けるレベルではないが無資格者のリラクゼーションマッサージを受けるには不安のある患者が少なからず見られた。また,20分という短時間のマッサージを希望する者が多く,リラクゼーションマッサージを受療する者とは異なる状況にあると思われた。短時間で治療効果を出すには有資格者による施術が望ましい。このような患者に対し,診療所に併設されている本センターで有資格者によるマッサージ施術の提供は有意義なものと考えられた。 5.結語 東西医学統合医療センターにおけるマッサージ外来試行の結果,鍼灸受療患者以外の本センター来院者に一定の需要があることが明らかになった。また,頸肩背部のこりに対するVAS評価では初診,再診共に施術前後での有意な VASの減少がみられた。本センターのマッサージ外来の特徴として在宅生活が可能であるがリスクを有する患者に対し,「コンディショニング」として有資格者による通院型の短時間マッサージが提供できることが明らかとなった。 謝辞 本研究は平成 27年度文部科学省特別教育経費「視覚障害学生に特化した大学改革実行プラン実践による医療教育の高度化事業」の一部として実施した。またマッサージ外来試行に際し ,多大なるご協力を頂いた東西医学統合医療センタースタッフの皆様に感謝申し上げます。 参照文献 [1](公社)東洋療法学校協会編.あん摩マッサージ指圧 理論,改訂新版第 18刷.活纉ケの日本社(神奈川), 2006.[2](公社)東洋療法学校協会編.関係法規,第 7版.医歯薬出版梶i東京),2011. [3]津嘉山洋,山下仁,堀紀子,他.筑波技術短期大学附属診療所における5年間の鍼灸外来活動報告.筑波技術短期大学テクノレポート.1998; 5: p.217-221. A Trial of a Massage Outpatient Department NARUSHIMA Tomomi, SUOH Sachie, SASAKI Ken Course of Acupuncture and Moxibustion, Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: We report the result of the trial of the massage outpatient department performed from April 2015 to September 2015 at the Center for Integrative Medicine at Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology. We assigned three therapists with a national qualification for each of the three reservation frames once a week. The operation time was set to 20 or 40 minutes. The number of patients recruited throughout the trial period was 68 (first treatment, n = 30 and re-treatment, n = 38.) As for the main complaint at the time of the first treatment and the entire trial period, the most common was stiff shoulder, followed by conditioning and low back pain. The visual analog scale score for pain of the rest of the shoulder showed a significant decrease post- treatment for both first treatment and re-treatment. The patients who hoped to attain conditioning maintained their activities of daily living, including visiting the hospital, but felt uncomfortable to receive relaxation massage outside of the medical institution. They tended to expect the treatment to take effect within a short time. For these patients, we think that the massage outpatient department at our center was useful. Keywords: Japanese traditional therapy (anma, massage, shiatsu), Ambulatory care, VAS, Conditioning