聴覚障害学生に対するエンパワメントプログラムの検討─ エンパワメント研修会成果報告 ─ 石野麻衣子1),白澤麻弓1),中島亜紀子1),磯田恭子1),萩原彩子1),五十嵐依子1),小林洋子2) 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者支援研究部1)筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者基礎教育研究部2) 要旨:聴覚障害学生にとって,エンパワメントは重要な課題である。しかし我が国では,それを実現す るために必要な研修プログラムはこれまで検討されてこなかった。日本聴覚障害学生高等教育支援ネッ トワーク(PEPNet-Japan)では,2011年にエンパワメントプログラムの検討を行い,これに基づいた研修会を計 3回実施した。その結果,プログラムの柱として@信頼関係A情報保障リテラシーと支援ニーズB障害と支援ニーズの説明経験CロールモデルD将来像の具体化が重要であることが示唆された。また,聴覚障害学生同士で意見交換を行い,指導的役割を担う者(ブラシス),講師に,聴覚障害をもつ社会人の先輩を配置したことが,参加者の視野を広げ,自らの将来像の具体的に寄与したことから,聴覚障害学生へのエンパワメントにおけるピアの役割の重要性が示唆された。キーワード:エンパワメント,聴覚障害学生,障害学生支援,高等教育 1.はじめに 高等教育機関で学ぶ聴覚障害学生の増加に伴い,ノートテイク等の情報保障支援を行ったり支援コーディネートにあたる専門職員を配置したりする教育機関は増加しつつある。障害学生支援に関わる専門委員会を設置する高等教育機関は,2007年度からの 6年間で 57.4%増加しており,組織的な支援体制の整備が全国的に進んでいることがわかる(JASSO,2015)[1]。このような状況は歓迎すべき一方,聴覚障害学生が自ら大学に対して支援の必要性を訴える,また,支援に関する情報を主体的に収集する機会は減少し,周囲に対して環境改善の働きかけをする経験を積まないまま卒業する様子が見られることは課題である。聴覚障害者の就労にあたっては,自ら障害に起因する制約とこれを改善する方策を説明することが重要であり(石原,2011)[2],この力が身につかないまま社会に出ることで,困難を抱えるケースも少なくない。 また,2016年 4月施行の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)では,合理的配慮の提供には本人からの申し出が必須である。しかし実際には,本人の情報保障に関する知識のなさ故に本来必要な合理的配慮が判断できない,自らのニーズを把握しきれていない,把握したとしてもそれを誰に,どのように表明すれば良いのかがわからず,適切な修学環境が整えられないことが考えられる。 このような課題を解決するために重要なのが,聴覚障害学生のエンパワメントである。 エンパワメントとは,「人々が他者との相互作用を通して,自ら最適な状況を主体的に選びとり,その成果に基づくさらなる力量を獲得していくプロセス」である(巴山・星,2003)[3]。日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)は 2011年,聴覚障害学生支援に関わる聴覚障害当事者 8名で「聴覚障害学生のエンパワメント育成」をテーマに座談会を行った。この中では,エンパワメントを実現するための過程として,「自身が受けている抑圧とその解放を自覚する段階,次に自分自身だけでなく周囲と社会が権利を覚醒するために自分がどのように動くかを意識する段階があるのではないか」「自分の障害を,できることとできないことの線引きも含めきちんと把握し,他者に説明できる力が重要」等の意見が見られた [4]。このようなことを意識しながら聴覚障害学生の主体性・社会性を引き出し,育てていくことは,在学中から卒業後までを見据えた,高等教育において必要な教育的支援のひとつであると言える。しかし,我が国における聴覚障害学生のエンパワメントは,これを実現するために必要なプログラムは具体的に検討されてこなかった, PEPNet-Japanでは,2011年度にエンパワメント事業を立ち上げ,聴覚障害学生に対するエンパワメントプログラムを開発し,その後 2012年度,2013年度に聴覚障害学生エンパワメント研修会を開催した。本稿は,これらの成果をまとめ,聴覚障害学生のエンパワメントに有効なプログラムについて報告することを目的とする。 2.聴覚障害学生エンパワメント研修会 概要 聴覚障害学生エンパワメント研修会は,これまでに計 3回開催された。第 1回は,2011年度に PEPNet-Japanで展開したエンパワメント事業で,モデル研修会として筑波技術大学にて実施した。第 2回(2012年度),第 3回(2013年度)は,地域ネットワーク形成支援事業の一環として,東北地区及び北海道地区にて開催した。これらの地域では,地域ネットワークの形成ないし発展が課題となっており,研修会の開催を目的とした実行委員会の組織化及びその活動を通して,課題の解決に努めた。実行委員会での協議の過程で,地域の課題として聴覚障害学生のエンパワメントが挙げられたため,研修会のテーマをエンパワメントに設定した。 以下に各回のエンパワメント研修会の実施内容と成果について報告する。 2.1  2011年度モデル研修会 2.1.1  経過 PEPNet-Japanエンパワメント事業は,障害学生支援を担当する教職員が,聴覚障害学生の主体性を引き出すような研修会等を提供できるよう,モデルとなるエンパワメント研修のプログラム開発を行うことを目的に展開された。この過程で,本プログラムの実効性を検証するため,聴覚障害学生エンパワメント研修会(2011年 9月18日〜20日,於筑波技術大学)を開催した。 事業ワーキンググループ(以下 WG)は,ろう者及び難聴者 6名であり,属性は,大学教員,会社員,大学の障害学生支援コーディネーター,聴覚障害学生支援団体スタッフ各1名,大学院生2名であった。これらのメンバーで計6回の事業会議を開催し,聴覚障害学生のエンパワメントに必要なプログラムを検討した。 2.1.2 プログラム 検討の結果,モデル研修会は2泊 3日の合宿形式で行うこととし,研修会全体の柱として(1)人間関係を築く(2)信頼関係を築く(3)マナーを身につける(4)知らないことに気づく,以上 4つを設定することとなった。 学生プログラムは 3日間で 6つのテーマでの研修し,交流の機会が 2回設けられた。参加者の聴覚障害学生は18名であり,研修中は 4〜 5人のグループに分かれ,各グループには事業 WG委員がブラシス(ブラザー・シスター)として入った。ブラシスは,自らがロールモデルとなり,同時に参加学生をきめ細やかにフォローするために配置された。 また,平行して教職員プログラムを実施し,学生プログラムの見学とディスカッションを行った。以下は学生プログラムの内容である。 【1日目】研修@お互いを知るグループごとに他己紹介や,与えられたテーマの写真を撮りながら学内を回るアクティビティ,グループディスカッション等を通して,親睦を深めた。また,学生のコミュニケーション手段は手話・筆談・口話など多様であるが,研修 @を通してこれを尊重する姿勢を身につけた。研修Aロールモデルに学ぶ(1)若手社会人と参加者とのクロストーク 様々な職種の 20〜 30代の若手社会人ろう者・難聴者 3名を招き,各グループを一人ずつ回って学生たちの疑問に答えるクロストークを行った。学生が自ら意見を表明し,他者の意見を聞く体験を提供し,また働くことに関する具体的なイメージを持てるようにした。 交流@学生交流企画夕食をとりながら学生生活に関する情報交換を行い,学生同士,また研修A講師と交流を深めた。【2日目】研修B支援の活用を学ぶ1テーマ 30分,計 4テーマを,グループごとに受講した。 ・ 手話通訳の活用 手話通訳に対するニーズを自覚し,通訳者に自らのニーズを伝えることで,情報保障環境を整える体験をした。 ・ 支援技術 パソコンノートテイク及び遠隔応報保障支援について学び,主体的に支援を活用するための知識を身につけた。 ・補聴システム 補聴器に関する自らの理解度を確認し,使いこなすために必要な知識を学んだ。 ・ 支援の依頼 大学の授業場面で,字幕のないビデオ教材をもとに試験を実施するという場面を想定し,どのように教員と相談・交渉を進めればよいか,ロールプレイを通して体験した。 研修C就職に備える就職活動及び就労場面で,多くの聴覚障害者が直面する課題について体験的に学んだ。 ・模擬面接 就職活動をイメージしたエントリーシートを事前に提出し,面接官 3名に対して,一人ずつ模擬面接を行った。面接官は,聴覚障害者の就労に詳しい大学教員が務めた。なお,本質的な面接のやりとりを体験するため,情報保障環境は整った状況で実施した。 ・ 職場での困難 同僚がとった電話が自分の顧客からの問い合わせだった場合,どのように対応するかを,ロールプレイを通して考えた。 ・メール報告仕事を遂行する上で重要なビジネスメールのマナーを, 実践練習を通して学んだ。研修Dロールモデルに学ぶ(2)久松氏(全日本ろうあ連名事務局長・民間企業経験者),日下部氏(富士ゼロックス)対談 50〜60代で会社に長く勤務し,管理職も経験しているろう者・難聴者から経験談を聞いた。将来の働く自己イメージを形成し,必要な課題を整理した。 交流会A筆談交流会 参加学生及び教職員プログラムに参加する大学教職員,講師,スタッフで交流した。10分間は「筆談タイム」とし,筆談のみの会話を楽しんだ。 【3日目】研修Eキャリアをデザインする 図1 ビジョン達成シート記入例 ・講演 聴覚障害者の教育・就労問題について再認識するため,全日本ろうあ連盟理事 2名の講演を聞いた。 ・ワーク ビジョン達成シート(図1)を用いて「30歳のわたし」 をイメージし,「ビジョンに向けてのゴール」「ろう・難聴で あるがゆえに必要なゴール」「ゴールに向けたアクション」 「今日から実行できるアクション」を考えた。考える際には,講師やブラシスがコーチングの手法を用いて学生に対して思考を促す質問を投げかけた。 ・発表 一人ずつ前に出て,自らのキャリアデザインを発表し,他学生から質問やアドバイスを受けた。 2.1.3 結果 終了後アンケートを行い,各企画について 5段階での評価を聞いたところ,全ての企画で平均 3.9〜 4.9の高評価を得た。ここでは,学生・教職員の反響が大きかった研修 C模擬面接,研修Eキャリアをデザインするについて,当日様子とアンケート結果をもとに報告し,3日間の総評についても述べたい。 研修C模擬面接は,事前に自分が希望する就職先を想定したエントリーシートを提出し,これをもとに1人5分の模擬面接を行った。自己分析が十分でなく,就職後やりたいことを聞かれて明確に答えられない,話に具体性がなく,詳細に述べられない,採用側の視点が足りない,といった課題が多くの学生に見られた。アンケートでは「心が折れたが自分について考える良い機会になった」「次に同様の機会があった場合どのように伝えるか考えたい」「自分に足りないところ,甘いところを指摘されてよかった」などが挙げられた。 最終日に実施した研修Eキャリアをデザインするでは,ビジョン達成シートを用い,30歳になったときどのような自分になっていたいかを考え,そこに至るまでのプロセスを具体的に検討した。考え込みながら書く学生もいたが,その場合講師・ブラシスがコーチングの手法を用い,「ビジョン達成のためにどのような力が必要か?」「その力は今自分の中で100点中何点か?」「100点に近づけるために,どのようなアクションを起こす必要があるか?」「まず今週からできることにはどのようなことがあるか?」といった具体的な発問を投げかけることで,具体的なプランが描けるようにした。アンケー トでは「自分自身が今後やるべきことやその段取りが見えてきた」「自分の将来について時間をかけて考えることができ良かった」「他の学生のビジョンを聞くことで自分自身の視野が広がり,良い刺激になった」といった記述が見られた。 3日間通しての感想としては「自分から動くことの重要性を感じた」「自身の聴覚障害に対して肯定的にとらえていなかったが,様々な学生やスタッフとの交流の中で,前向きな見方ができるようになった」「今後の目標ができた」「自分の将来像が明確になり,もっと勉強したいと思った」などが挙げられた。 2.2  2012年度研修会 2.2.1  経過 地域ネットワーク形成支援事業の一環として,宮城教育大学を主幹校に研修会が開催された(2012年10月13日〜14日,於宮城教育大学)。実行委員会での協議の中で,東北地区の学生の特徴として,教員,福祉職,公務員といった将来像がある程度固まった状態で入学している学生が多いことが挙げられた。そこで,在学中及び就職後に必要とされる「支援の活用」について研修を行い,さらに「キャリアデザイン」を考えるための企画の中で,東北地区出身の教員など,身近なロールモデルと出会う機会を提供することとなった。 2.2.2 プログラム 研修会は1泊 2日の合宿形式で行われ,聴覚障害学生 21名が参加し,教職員プログラムにも5名の参加があった。参加学生は 5〜 6名のグループに分かれて活動し,各グループにはブラシスとして東北地区の大学を卒業した聴覚障害のある若手社会人が各 1名配置された。 学生プログラムの内容は以下の通りである。 【1日目】 研修@お互いを知る 研修A支援の活用を学ぶ ・ 支援の依頼 ・ 情報保障 研修B聴覚障害のある社会人に学ぶ 交流会 【2日目】研修Cキャリアデザインを描く,発表する 2011年度モデル研修会と内容が重複する研修もあるため,本項では,2012年度の特徴的な研修であった「研修 A支援の活用を学ぶ」「研修B聴覚障害のある社会人に学ぶ」について報告したい。研修A支援の活用を学ぶ ・ 支援の依頼 スライドを多用する授業スタイルのため,ノートテイクの内容とスライドとの対応が難しく授業の理解に支障が出ている場面を設定し,どのようなことを伝えれば教員からの理解・協力を得られるのか,ロールプレイ及びディスカッションを通して考えた。参加学生は自分の状況や希望の伝え方,交渉の進め方を学んだほか,「合理的配慮」の考え方が紹介され,大学職員・教員と話し合いながらより良 い支援を考えていく必要性を学んだ。 ・情報保障 リアルタイムに流れる字幕を追いながらノートテイクを行い,普段とは逆の支援する立場を経験した。また,要約率の異なるノートテイク映像を比較しながら見ることで,自らの情報保障のニーズを捉え直すことができた。研修B聴覚障害のある社会人に学ぶ 実行委員会での検討の中で,東北地区の聴覚障害学生の場合,将来の進路を教員や福祉関係職と明確に描いているケースが多いことがわかったため,「福祉」「教育」「一般企業」の各分野から1名ずつ計 3名の講師を招き,講演及びグループごとの質疑応答(クロストーク)を行った。 2.2.3 結果 研修Aの支援の依頼は,平均 4.4の評価がなされ,「健聴者の聴覚障害者への理解について,私の常識が社会では通用しないことに気付いた」「どのようにすればわかってもらえるのか,どのような依頼の仕方をすればよいのかを考えることができた」等の感想が見られた。研修A情報保障については,「ノートテイカーの大変さを知ることができ,自分のニーズを社会に出た後どのように実現するかを話すことができ良かった」という声が聞かれた。 研修Bについては 4.2の評価を得,「実際に目指している職の方から気になっていたことを聞くことができた」「ろうの社会人1人1人と意見交換することができ,ロールモデルを発見できた」という感想が寄せられた。 2.3  2013年度研修会 2.3.1  経過 2013年度研修会は,地域ネットワーク形成支援事業の一環として,札幌学院大学を主幹校に実施された(2014年 2月14日〜15日,於 NTT北海道セミナーセンタ)。北海道地区では,以前障害学生支援のためのネットワークが存在したものの,その後休止状態にあり,夲研修会開催をきっかけに,より活発な組織を形成したいということであった。 2.3.2 プログラム 2013年度研修会の大きな特徴は,地域の聴覚障害当事者団体の全面的な協力を受け,実行委員会に参加いただき情報交換した他,当日も参加者の活動班に配属されるブラシスとして 4名,講師及び研修の協力者として 5名,計 9名の北海道地区の聴覚障害を持つ先輩社会人から協力を得た点である。これは,北海道地区の教職員から,聴覚障害学生が身近なロールモデルに出会う機会がなく,卒業後の就労も含めた将来像をイメージしにくいという課題 が提示されたためである。 2日間のプログラムは以下の通りである。 【1日目】研修@「一緒に過ごす仲間のことを知ろう!」研修A「支援技術を体験し,活用方法を学ぼう!」研修B「支援の依頼を体験しよう!」研修C「地域のリソースについて学ぼう!」研修D「ロールモデルから学ぼう!」夕食・交流会 【2日目】研修E「アクションプランを作成しよう!」研修F「アクションプランを発表しよう!」 「研修C「地域のリソースについて学ぼう!」は,聴覚障害学生が在学中及び卒業後に活用できる地域のリソースについて学ぶことを目的に,地域の聴覚障害当事者団体理事でろうあ者相談員でもある講師を招き講演を行った。参加者は,自らの課題に応じて,聴覚障害学生団体,ハローワーク,ろうあ者相談員などの地域のリソースに積極的にアクセスする重要性を学ぶことができた。 2.3.3 結果 研修C「地域のリソースについて学ぼう!」については,5段階評価で平均 4.1の評価を得ることができた。また,2日間を通した感想として「社会人として大事にしている事柄を学ぶことができ,自分の考えや意識が変わった」「社会に出てからどのように障害を伝え,(コミュニケーション方法等を)提案していくかを体験し,先輩から話を聞くことで,イメージが沸いた」等の感想が見られた。 3.まとめ PEPNet-Japanでは,聴覚障害学生エンパワメント研修会を計 3回実施した。これらの経験から,参加者やブラシスとの信頼関係を築くためのプログラム(「お互いを知る」),情報保障リテラシーを高め自らのニーズを発見するプログラム(「支援の活用を学ぶ」等),自らの障害を説明しニーズを伝えるプログラム(「支援の依頼」「職場での困難」等),ロールモデルを発見するプログラム(「ロールモデルに学ぶ」等),将来像を具体化するプログラム(「キャリアをデザインする」)を取り入れることで,聴覚障害学生のエンパワメントが図られることが明らかになった。また,聴覚障害学生のエンパワメントにおけるピアの役割とその重要性に関する示唆も得ることができた。参加者の感想に「自身の聴覚障害に対して肯定的にとらえていな かったが,様々な学生やスタッフ(ブラシス)との交流の中で,前向きな見方ができるようになった」「ろうの社会人一人一人と意見交換することができ,ロールモデルを発見できた」等が見られたように,ピアとの関わり合いによって参加者の価値観の転換が起こり,また新たな価値観が生まれたことがうかがわれた。エンパワメントにおけるピアカウンセリングやピアサポートの効果について谷口(1999)は「カウンセラーとクライエントのラポールが円滑に築かれるばかりではなく,クライエントの障害を早期に認知して理解することができるところにある」としており,重要性を指摘している[5]。 聴覚障害学生のエンパワメントにおいては,これに加えて,同じ立場の学生同士で意見交換することによる視野の広がりや,ロールモデルとの交流による自らの将来像の具体化が,大きな意味を持つと考えられる。よって大学においては,聴覚障害学生同士のつながりを作ったり,聴覚障害をもつ卒業生や地域の聴覚障害当事者とネットワーク的につながり,ロールモデルに出会える機会を設けたりすることが重要であると言える。 なお,本成果は,PEPNet-Japanホームページ内に「聴覚障害学生のエンパワメント事例集」としてウェブコンテンツとしてまとまっているため,こちらも参照されたい。 4.事業 WG委員 本事業にご協力頂いた,2011年度から2013年度のメンバーを以下に記す。(敬称略,肩書きは当時)2011年度 (◎は代表) ◎大杉豊 (筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター)日下部隆則(富士ゼロックス株式会社)河野恵美(立教大学 しょうがい学生支援室)長野留美子(関東聴覚障害学生サポートセンター)管野奈津美(筑波大学大学院)児玉英之(慶應義塾大学大学院) 2012年度藤島省太(宮城教育大学 特別支援教育講座)菅井裕行(宮城教育大学 特別支援教育講座)松ア丈(宮城教育大学 特別支援教育講座)前原明日香(宮城教育大学 しょうがい学生支援室)及川麻衣子(宮城教育大学 しょうがい学生支援室)佐藤晴菜(宮城教育大学 しょうがい学生支援室)高橋明美(みやぎDSC)伊藤博子(東北福祉大学 障がい学生支援室)笠岡望(東北福祉大学 障がい学生支援室)加賀谷衿子(宮城教育大学)千葉璃沙(宮城教育大学) 2013年度新國三千代(札幌学院大学 人文学部こども発達学科)藤野友紀(札幌学院大学 人文学部人間科学学科)井上寿枝 (札幌学院大学 教務課学習支援係(学習支援室))松田康子(北海道大学 教育学研究院)竹下欣吾 (北海道大学 学務部学生支援係(学生支援企画担当))加藤喜久子(北海道情報大学 学習支援センター長・医療情報学部)媚山敏文(北海道情報大学 学生サポートセンター 事務室長)木下武徳(北星学園大学 社会福祉学部福祉計画学科) 【協力】金原浩之(公益社団法人北海道ろうあ連盟 事務局長)樋口あやこ (公益社団法人札幌聴覚障害者協会 事務局次長) 5.謝辞 聴覚障害学生のエンパワメントプログラム検討にあたり,多くの聴覚障害当事者,大学教職員の皆様にご協力いただきました。とりわけ,本学の大杉豊先生には中心的な役割を担っていただき,多くのご指導を賜りました。この場を借りて御礼申し上げます。 参照文献・ホームページ [1] 独立行政法人日本学生支援機構.大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査分析報告(対象年度:平成 17年度(2005年度)から平成 25年度(2013年度)).2015,p.39. http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_ shien/documents/bunseki2005_2013.pdf[2] 石原保志.聴覚障害児者のキャリア発達とセルフアドボカシー.ろう教育科学.2011;53(1):p.13-21.[3] 巴山玉蓮,星旦二.エンパワーメントに関する理論と論点.総合都市研究. 2003:81:p.5[4] 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク.エンパワメントの概念 座談会,聴覚障害学生のエンパワメント事集,日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワークホー ムページ,2015. http://www.a.tsukuba-tech.ac.jp/ce/xoops/ modules/tinyd7/index.php?id=5&tmid=355[5] 谷口明広.エンパワメント 実践の理論と技法 :第U部 技法編 第 8章 福祉教育におけるエンパワメントの実践技法,初版,中央法規出版,1999;p.148-149. 参考文献・ホームページ 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク エンパワメン ト事業ワーキンググループ.聴覚障害学生のエンパワメント モデル研修会報告書,筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター,2012.日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク.聴覚障害学生のエンパワメント事例集,日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワークホームページ,2015. http://www. a.tsukuba-tech.ac.jp/ce/xoops/modules/tinyd7/index. php?id=42 Development of Empowerment Program for Deaf or Hard of Hearing Students ISHINO Maiko1), SHIRASAWA Mayumi1), NAKAJIMA Akiko1), ISODA Kyoko1), HAGIWARA Ayako1), IKARASHI Yoriko1), KOBAYASHI Yoko2) 1)Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, Tsukuba University of Technology 2)Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired, Tsukuba University of Technology Abstract: Empowerment is an important issue for Deaf or hard of hearing students. However, there is no empowerment program for Deaf or hard of hearing students in Japan. The Postsecondary Education Program Network of Japan developed an Empowerment Program and conducted three workshops from 2011 to 2013. The following aspects are important for empowerment: 1. Confidential relationship, 2. literacy or awareness of information support, which needs 3. experience of explaining their disability and needs, 4. role models, and vision for the future. In addition, peers are also important for an empowerment program; peers can broaden students’ mind and help such students see a clearer vision for the future. Keywords: Empowerment, Deaf or hard of hearing students, Support for students with disabilities, Post-secondary education