聴覚障害者のための災害情報伝達・災害情報共有に関する研究 若月大輔,倉田成人 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:聴覚障害者,災害弱者,災害情報,情報伝達,SNS(Social Networking Service) 1.背景と目的 大学や商業施設などの限定された場所での災害直後の情報伝達は,放送や拡声器などで音声を利用することが多い。しかし,聴覚に障害がある人々は音声による情報獲得が困難なため,災害時に情報弱者になる可能性が高い。そこで,我々は災害時に聴覚障害者が十分な情報を得ることができるように,防災訓練を対象とした情報配信を行う実験とその評価を重ねてきた。本研究では,これまで継続的に行っている本学天久保キャンパスの避難訓練に参加する本学の聴覚障害学生を対象とした災害情報伝達実験を実施した。また,本学の聴覚障害学生が普段利用することが少ない,視覚障害学生が学ぶ本学春日キャンパスにおける災害情報伝達実験も実施した。 2.災害情報伝達実験 本学天久保キャンパスおよび春日キャンパスの避難訓練において,実験参加者の携帯端末に電子メールとLINEで情報配信をする実験を行った。実験を実施した日付と参加人数を表 1に示す。配信した情報は,避難場所を示した文字情報,構内マップ画像,現場の災害状況である。また,同時に写真やコメントをリアルタイムで投稿できタイムライン形式で閲覧できるシステム [2]を利用し,実験参加者どうしで避難状況を共有できるようにした。 表1 実験実施概要(2018年度) 日付 場所等 参加者数 5/24 天久保学生寄宿舎避難訓練 14名 10/23 春日キャンパス防災避難訓練 23名 10/25 天久保キャンパス防災避難訓練 13名 3.実験実施結果の概要 実験参加者を情報伝達する群としない群とに分けて実験を行った結果,情報を伝達したグループのほうが,情報が与えられたことで安心感が得られ,落ち着いて避難できることが示唆された。リアルタイムにタイムライン形式で投稿を共有できるシステムでは,参加者同士で避難の開始や完了などの避難状況などの情報交換をしている様子が見られた。 また,2018年度実施の商業施設における実験の分析から,一般的な商業施設の建築防災計画上の問題点が明らかになり,聴覚障害者にとって災害直後の携帯端末への情報配信が有効であることを確認できた[2]。 4.まとめ 実験参加者が施設に慣れている本学の天久保,春日の両キャンパスにおける災害情報伝達実験を実施した。不案内な施設において,災害直後の聴覚障害者に対する携帯端末への情報伝達が特に有効であることを確認できた。また,タイムライン形式のシステムで参加者どうしが避難状況を共有する様子が確認できた。 今後は,アクションカメラなどを利用して,避難行動や避難所における実際の行動を分析し,避難行動に与える影響や効果について検討したい。 参照文献 [1] D. Wakatsuki, R. Hiraga, M. Kobayashi, et al., A Study on Information Support for Deaf and Hard-of-Hearing People Using Sports Game Timeline, IEEE SMC2018, pp.2244-2249, Miyazaki, Japan, October 2018. [2]松﨑,若月,倉田,他 4名,聴覚障がい者に対する災害情報伝達に関する研究,日本建築学会大会学術講演梗概集 2018,pp.177-178.