東西医学統合医療センター施術(鍼灸)部門 2014年度患者動態調査およびインシデント・アクシデント分析 福島正也1),櫻庭 陽1),佐久間亨1),松井 康1),平山 暁1),木下裕光1,2) 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター1)筑波技術大学保健科学部保健学科理学療法学専攻2) 要旨:本研究は,2014年度における筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター施術(鍼灸)部門の患者動態および有害事象を調査・分析し,患者特性および臨床活動の実績や課題について考察することを目的とした。調査の結果,施術(鍼灸)部門の患者総数は 8,807人で,内訳は,初診患者 416人,初診扱い患者(前回施術後半年以上が経過した患者)207人,再診患者 8,184人だった。初診患者の特性として,性別は女性 250人(61.0%)が多く,年代は 60歳代 (97人,23.3%)が最多,愁訴では腰痛,下肢痛,肩こりが多くみられた。インシデント・アクシデントの報告総数は 36件で,患者総数に占める発生率(発生総数 /患者総数)は 0.4%だった。インシデント・アクシデントの内訳は,鍼の抜き忘れ(12件,33.3%)が最多だった。キーワード:鍼灸,患者統計,インシデント,アクシデント 1.はじめに 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター(以下,当センター)は,筑波技術短期大学の附属診療所および施術所として 1992年に開設し,2005年 10月からは四年制に移行した筑波技術大学保健科学部附属の医療センターとして臨床・教育・研究活動を行っている。 2014年度の当センター所属の常勤スタッフは 12名で,専任教員 5名(医師 1名,鍼灸師 2名,理学療法士 2名),医療スタッフ5名(看護師 2名,薬剤師 1名,臨床検査技師 1名,診療放射線技師 1名),事務 2名である。その他に契約職員,非常勤職員が在籍している。 当センターは,診療部門と施術(鍼灸)部門から成っている。2014年度の診療部門は,曜日および午前・午後により,循環器内科,精神科,脳神経外科,リハビリテーション科,神経内科,整形外科,漢方内科,腎臓内科,内科,内分泌・代謝内科を開設した。診療は,当センターおよび本学鍼灸学専攻,理学療法学専攻,保健管理センター所属の医師免許を有する教員 7名が担当した。また,リハビリテーション科は,当センター所属の理学療法士 2名と理学療法学専攻の教員 6名,特任研究員 1名が担当曜日ごとに 2〜4名体制で運営した。 施術(鍼灸)部門は,当センター所属の教員 2名と鍼灸学専攻の教員 9名,特任研究員 2名が担当曜日ごとに2〜 4名体制で施術を担当した。施術(鍼灸)部門では,2014年度に 7名の臨床研修生を受け入れており,2年目以降の研修生を合わせた計 12名が各指導教員の元で臨床研修に従事した。この研修制度は 1993年の発足以来,鍼灸学校養成施設を卒業し国家資格を取得した鍼灸師を対象とする卒後臨床研修として,鍼灸臨床に必要な技能および環境維持業務や受付補助業務を通じた施術所運営に必要な技能の習得を目的として運用されている[1]。 当センターは,本学保健科学部の教育・研究に関わる臨床の場として機能するとともに,西洋医学と東洋医学を統合した診療・施術を通じて,地域医療に寄与することを目的に活動している。また,前述の鍼灸師を対象とした卒後臨床研修や日本東洋医学会の研修施設として,人材育成を通じた社会貢献に取り組んでいる。 こういった当センターの活動を維持・向上させていくため,患者動態や有害事象を調査・分析し,臨床活動の実績や課題について考察することは重要な意義をもつ。そこで本研究は,2014年度における当センター施術(鍼灸)部門の患者動態および有害事象を調査・分析し,患者特性および臨床活動実績や課題について考察することを目的とした。 2.方法 2.1 患者動態調査 患者動態の分析は,施術(鍼灸)部門の受付で管理する患者データベースを用いて実施した。分析対象期間は,2014年 4月1日から2015年 3月31 日までとした。 分析項目は,開設日数,総患者数,初診患者数,初診扱い患者(前回施術後半年以上が経過した患者を指す) 数,再診患者数,月および日あたり平均患者数とし,初診患者については,性別,年代,居住地域,主訴についても 分析対象とした。主訴の分析は,治療対象とした愁訴を“愁訴部位”と”愁訴(病態)の種類”の二要因に分類し, 複数の愁訴を有する場合には各々を独立して集計した。 なお,割合の算出において端数処理を行ったため,合計が 100.0%にならない場合がある。 2.2 インシデント・アクシデント分析 有害事象の分析は,施術(鍼灸)部門のスタッフから提出されたインシデントレポートを元に実施した。当センター施術(鍼灸)部門のインシデントレポートは,特定のフォーマットに基づき,発生した全事例の報告を義務付けている事象(鍼の抜き忘れ,熱傷,患者の放置,重要所見の見落とし,感染,一過性の気分不良,血腫,主訴の悪化,刺鍼部の皮膚炎等,施術者自身の傷害)と,著明な事例のみを報告する事象(内出血,出血,疲労感または倦怠感,眠気,刺鍼中の刺鍼部の疼痛,刺鍼後の刺鍼部の疼痛,その他) からなっている。 分析対象は,2014年 4月1日から2015年 3月31日までに発生した事象とした。 分析項目は,報告総数,発生率(患者総数に対する割合),発生事象の分類,発見方法および情報源,対処時の鍼灸師以外の関与,医療費負担の有無とした。また,鍼の抜き忘れについては発生状況も分析の対象とした。 なお,割合の算出において端数処理を行ったため,合計が 100.0%にならない場合がある。 3.結果 3.1 施術(鍼灸)部門の患者動態2014年度の開設日数は252日だった。患者総数は 8,807人で,内訳は,初診患者 416人,初診扱い患者 207人,再診患者 8,184人だった。 一月あたりの平均患者数は734±63人(平均値±標準偏差,以下同様),一日あたりの平均患者数は35±15人だった。月別の再診患者数は 10月(820人)が最多で,次いで 3月(805人)7月(796人)であり,最少は 5月(633人),次いで 4月(642人), ,8月(666人)だった(図1)。 3.2 初診患者動態・特性分析一月あたりの平均初診患者数は34±9人だった。月別の初診者数は 7月(49人)が最多で,次いで 1月(43人),10月(41人)であり,最少は 2月(19人),次いで12月(23人),4月(24人)だった(図1)。性別は女性 250人(60.1%)男性 166人(39.9%)だった。年代別では 60歳代(97人,2,3.3%)が最も多く,次いで 50歳代(77人,18.5%),40歳代(65人,15.6%)だった(表1)。 図1 総患者数と初診患者数の推移 表1 初診患者の年代 年代 患者数 @初診に占める割合 A県内の人口構成* @/A 0-9歳 2人 0.5% 8.2% 0.1 10-19歳 4人 1.0% 9.6% 0.1 20-29歳 30人 7.2% 9.6% 0.7 30-39歳 64人 15.4% 12.3% 1.2 40-49歳 65人 15.6% 14.0% 1.1 50-59歳 77人 18.5% 12.5% 1.5 60-69歳 97人 23.3% 15.2% 1.5 70-79歳 62人 14.9% 11.1% 1.3 80-89歳 15人 3.6% 6.0% 0.6 90-99歳 0人 0.0% 1.3% 0.0 100- 歳 0人 0.0% 0.0% 0.0 合計 416人 100.0% 100.0% *2014年 10月時点。年齢不詳を除く。[2] 居住地域別にみると,つくば市内 50.7%,つくば市外の 茨城県内 44.5%,茨城県外の関東 4.3%,関東以外 0.5% だった。初診時に治療対象とした愁訴の数は,1つが 254例(61.1%),2つが 114例(27.4%),3つが 39例(9.4%),4つが 9例(2.2%)で,平均は 1.5だった。愁訴部位は,腰部が 119例(18.7%)で最多,次いで下肢が 101例(15.9%),頚肩部が 65例(10.2%),上肢が 34例(5.4%)殿部が 33例(5.2%)頚部が 32例(5.0%), 4.1%),背部が 25肩関節が26例( , 例 ,(3.9%),顔面部が 22例(3.6%)膝関節が 20例(3.1%)だった(表2)。愁訴(病態)の 類は,痛みが 383例(60.6%)で最多, 種 , 表2 初診患者の愁訴部位  部位 例数 割合  部位 例数 割合 腰部 119 18.7% 頭部 13 2.0% 下肢 101 15.9% 肘関節 7 1.1% 頚肩部 65 10.2% 股関節 7 1.1% 上肢 34 5.4% 腹部 5 0.8% 殿部 33 5.2% 骨盤部 4 0.6% 頚部 32 5.0% 全身 4 0.6% 肩関節 26 4.1% 足関節 4 0.6% 背部 25 3.9% 手関節 3 0.5% 顔面部 23 3.6% 胸部 2 0.3% 膝関節 20 3.1% 半身 2 0.3% 足部 19 3.0% その他 69 10.9% 手部 19 3.0% 合計 635 100.0% 表3 初診患者の愁訴(病態)の種類  愁訴(病態) 例数 割合  愁訴(病態) 例数 割合 痛み 385 60.6% 呼吸困難 1 0.2% しびれ 61 9.6% 喀痰 1 0.2% こり・張り 50 7.9% 運動障害 1 0.2% だるさ 21 3.3% つわり 1 0.2% 骨盤位 16 2.5% ボーっとする 1 0.2% 違和感 14 2.2% 振戦 1 0.2% 運動麻痺 14 2.2% 不快感 1 0.2% 不妊症 7 1.1% 震え 1 0.2% 不眠 7 1.1% 眠気 1 0.2% 耳鳴り 5 0.8% 生理痛 1 0.2% 難聴 3 0.5% 腫れ 1 0.2% 耳閉感 3 0.5% 多汗症 1 0.2% ふらつき 3 0.5% 花粉症 1 0.2% 運動制限 2 0.3% むくみ 1 0.2% 鼻閉 2 0.3% 腸閉塞予防 1 0.2% 冷え 2 0.3% 感覚障害 1 0.2% 脱力感 2 0.3% 膨満感 1 0.2% 不安感 2 0.3% 動悸 1 0.2% 胃腸の不調 2 0.3% めまい 1 0.2% 異常感覚 2 0.3% 月経不順 1 0.2% 痙攣 2 0.3% 痙性斜頚 1 0.2% 蕁麻疹 2 0.3% 尿意切迫 1 0.2% 発汗 2 0.3% ドライアイ 1 0.2% 食欲不振 2 0.3% 肌荒れ 1 0.2% 合計 635 100.0% 表4 初診患者の主要な愁訴部位と愁訴の種類 部位 愁訴 例数 割合 腰部 痛み 113 95.0% だるさ 2 1.7% 違和感 2 1.7% 脱力感 1 0.8% 不安感 1 0.8% 計 119 100.0% 下肢 痛み 59 58.4% しびれ 24 23.8% だるさ 8 7.9% 違和感 3 3.0% こり・張り 3 3.0% 運動麻痺 2 2.0% 感覚障害 1 1.0% むくみ 1 1.0% 計 101 100.0% 頚肩部 こり・張り 40 61.5% 痛み 22 33.8% だるさ 3 4.6% 計 65 100.0% 上肢 痛み 12 35.3% しびれ 12 35.3% だるさ 4 11.8% 運動麻痺 2 5.9% 違和感 2 5.9% こり・張り 1 2.9% 脱力感 1 2.9% 計 34 100.0% 殿部 痛み 31 93.9% しびれ 2 6.1% 計 33 100.0% 次いでしびれが61例(9.6%),こり・張りが50例(7.9%),だるさが 17例(2.7%),骨盤位(逆子)が 16例(2.5%),違和感が 14例(2.2%),運動麻痺が 14例(2.2%),不妊症が 7例(1.1%),不眠が 7例(1.1%),耳鳴りが 5例(0.8%),難聴,倦怠感,耳閉感,ふらつきが各 3例(各0.5%)だった(表3)。各部位における愁訴は,腰部では痛み(113例,95.0%),下肢では痛み(59例,58.4%),頚肩部ではこり・張り(40例,61.5%),上肢では痛みとしびれ(各 12例,35.3%),殿部では痛み(31例,93.9%)が最多だった(表4)。3.3 インシデント・アクシデント事例インシデント・アクシデントの報告総数は 36件だった。患者総数に占める発生率(発生総数 /患者総数)は 0.4% だった。インシデント・アクシデントの内訳は,鍼の抜き忘れ(12件,33.3%)が最多で,次いで主訴の悪化(7件,19.4%),患者の放置(2件,5.6%),熱傷,一過性の気分不良,血腫,施術者自身の傷害(施術中に未使用のディスポーザブル鍼を手渡された際,留めが外れていたため鍼管から鍼が抜け落ちて施術者の手に刺さった),内出血(各 1件,各 2.8%),その他(10件,27.8%)だった(表5)。その他の内訳は,落下した鍼の発見(3件),施術者に渡す鍼の長さを間違えた,会計票の取り違え,使用済み鍼の不適切な処理,刺鍼部付近の違和感,刺鍼部付近の水腫様膨隆,通電開始時に鍼通電器の出力が高(High)になっていた,鍼通電器の出力を上げていないのに筋収縮が起きた(各 1件)だった。 表5 インシデント・アクシデントの内訳 分類 報告数 割合 鍼の抜き忘れ 12 33.3% 主訴の悪化 7 19.4% 患者の放置 2 5.6% 熱傷 1 2.8% 一過性の気分不良 1 2.8% 血腫 1 2.8% 施術者自身の傷害 1 2.8% 内出血 1 2.8% その他 10 27.8% 合計 36 100.0% インシデント・アクシデントの発見方法は,直接(25件,69.4%)が最多,次いで電話(8件,22.2%),その他(3件,8.3%)だった。情報源は,患者から(20件,55.6%)が最多,次いで施術者本人(8件,22.2%),鍼灸師以外のスタッフ(5件,13.9%),本人以外の鍼灸師(3件,8.3%)だった。対処時に鍼灸師以外の関与があった事例は 1件で,患者背部の刺鍼部付近に認められた水腫の当センター医師による診療だった。なお,本事例は鍼灸治療中に施術者により発見され,鍼治療の関与が疑われたため医師の診察を受けたが,鍼治療に由来する有害事象ではなかった。医療費負担が生じた事例は,上記の医師による診療を受けた 1件で,患者負担によるものだった。鍼の抜き忘れの発生状況では,抜き忘れた本数は 1本(7件,58.3%)が最多で,次いで 2本(4件,33.3%),4本(1件,8.3%)だった。抜き忘れが発生した部位は,頚部(3件,25.0%)が最多,次いで背部,大腿部,下腿部(各 2件,各16.7%),頭部,殿部,前腕部,膝関節部(各 1件,各7.1%) だった。鍼の抜き忘れの発見場所は,施術ブース内(7件,58.3%)が最多,次いで施設内(5件,41.7%)で,患者の自宅など施設外での発見の報告はなかった。施術者と抜鍼者が同一だったのは 6件(50.0%),別だったのは 6件(50.0%)だった。考えられる抜き忘れの発生理由としては,タオルで隠れていた(3件,25.0%)で最多,次いで髪の毛で隠れていた(2件,16.7%),その他(7件,58.3%)だった。その他の内訳は,不明(3件),施術者の位置と反対側の鍼だった(2件),衣服で隠れていた,患者との会話で抜鍼本数が不明確になった(各 1件)だった。 4.考察 4.1 施術部門における患者動態分析 2014年度の施術(鍼灸)部門における患者総数(8,807人)は前年度比で +4.8%(+401人)の増加を示した。 初診および初診扱い患者数(各 416人,207人)は前年度(各 420人,206人)[3]とほぼ同様の水準であったことから,この増加分は再診患者数の増加(+404人)によるもので,在籍する研修生の人数が昨年度に比べ 3名増加したことが主要因と考えられる。 1日あたりの平均患者数は,例年同様に大きな標準偏差の値を示した。これは,曜日により施術者数が変動すること や年度替わりに研修生の入れ替わりがあるという当センターの特性が影響していると考えられる。 月別の患者動態では,再診患者は5月に最小値(633人)を示し,初診患者は 2月に最小値(19人)を示した。これは昨年度と同様の結果(再診患者最小値 582人[5月],初診患者最小値 12人[2月])[3]で,再診患者では大型連休の影響,初診患者では気候の影響が推測されるが,当センターにおける近年の動態 [3-8]においても大きな変動がみられている。 初診患者の特性では,男女比が約 4:6となっており,当センター [3-8]や他大学附属施術所 [9]からの報告とほぼ 一致するものだった。 年代別では,県内の人口構成に比して30〜70代が高く,特に 50〜 60代での利用率が高かった。これは当センター 施術(鍼灸)部門の利用者には,退行変性を基盤とした愁訴を有し,かつ社会活動が比較的活発な年齢層の受診 が多いためと考えられる。 居住地域については,前述の他大学附属施術所の報告 [9]では所在地の同一区内(江東区)が 68%を占めて いるのに対し,当センターでは所在地のつくば市内に加え,つくば市以外の県内からの患者も多くみられた。このことは, 来所時の交通手段における自動車利用率の高さ[10]が影響しているものと考えられる。 初診時に治療対象とした愁訴の数は,1つないし 2つの症例が約 9割を占めた。これは当センター施術(鍼灸)部門では,正確な病態の把握とそれに基づく治療を重視しており,愁訴に優先順位を付けることで,治療対象や目的を絞った施術を推奨しているためと考えられる。 治療対象とした愁訴は,腰部の痛み(腰痛)が最多で,次いで下肢の痛み(下肢痛),頚肩部のこり・張り(いわゆる肩こり)だった。平成 25年度国民生活基礎調査の有訴者率 [11]は,男性では腰痛,次いで肩こり,女性では肩こり,次いで腰痛が多くみられる愁訴となっており,当センターで鍼灸施術の対象となっている愁訴との一致がみられた。また,鍼灸師を対象としたアンケート調査 [12]の結果ともほぼ一致がみられた。一方で,本学教員や研修生が臨床研究の対象としている愁訴や病態(骨盤位[逆子]や頭痛),レアケースに対する鍼灸治療も行われていた。当センターでは,研修生らによる学術活動を推奨しており,学会発表等を通じた,これらの臨床成果の社会還元を図っている。 4.2 インシデント・アクシデント事例 当センターのインシデント・アクシデントレポートは,特定のフォーマットに基づくレポートの提出と共に,当日のスタッフミーティングおよび毎月の月例ミーティングでの報告を行い,有害事象やその対策に関する情報の共有化を図っている。 2014年度のインシデント・アクシデント事例の発生率は,近年の当センターでの報告 [3,5]や他大学附属施術所からの報告 [13]と比較し,やや低い傾向だった。 インシデント・アクシデント事例の内訳では,鍼の抜き忘れが最多であり,当センターにおける近年の報告 [3-8]と同様の結果だった。なお,2014年度は例年に比べ,その他に含まれるインシデント・アクシデント事例の報告が多かった。明確な要因は不明だが,研修プログラムや医療安全講習会などを通じ,インシデント・アクシデント発生・発見時の対応がスタッフ間に浸透し,今までは埋没していたこれらの報告が増加した可能性が考えられる。 身体に鍼を刺入する施術の特性上不可避な事象も存在するが,多くのインシデント・アクシデントは施術スタッフの留意や施術方法の改善により予防が可能である。これらの事象はスタッフの過誤であることが明白なため,施術への不信や不満に直結する可能性が高いといえる。特に,例年インシデント・アクシデントで最多の割合を占める鍼の抜き忘れの発生防止への取り組みが重要な課題である。 参照文献 [1]山下仁,津嘉山洋,丹野恭夫,他.鍼灸師の卒後研修.筑波技術短期大学テクノレポート.1998; 5: p.211-216. / tokei/betsu/jinko/nenrei/index.html[3]福島 正也,櫻庭 陽,近藤 宏,他.東西医学統合医療センター施術(鍼灸)部門 2013年度患者動態調査およびインシデント・アクシデント分析.筑波技術大学テクノレポート.2015;23 (1): p46-50.[4]近藤 宏,櫻庭 陽,佐久間 亨,他.筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2012年度鍼灸部門外来報告.筑波技術大学テクノレポート. 2013;21 (1): p103-107.[5]近藤 宏,櫻庭 陽,萩野谷 泰朗,他.筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2011年度鍼灸部門外来報告.筑波技術大学テクノレポート. 2012;20 (1): p99-103.[6]近藤 宏,櫻庭 陽,平山暁,他.地域医療における統合医療を目指して筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2010年度 鍼灸部門 外来報告.筑波技術大学テクノレポート. 2012; 19 (2): p73-77.[7]近藤 宏,櫻庭 陽,堀 紀子,他.鍼灸臨床における統合医療を模索して筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2009年度鍼灸部門外来報告.筑波技術大学テクノレポート. 2010; 18 (1): p111-115.[8]近藤 宏,津嘉山洋,堀 紀子,他.質の高い鍼灸医療を目指して筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター鍼灸部門外来報告 2008.筑波技術大学テクノレポート. 2009; 17 (1): p73-77. [9]木村友昭,水出靖,菅原正秋,他.東京有明医療大学附属鍼灸センター報告(第1報).東京有明医療大学雑誌. 2012; 4: p.39-43.[10]櫻庭 陽,武笠瑞枝,水木知恵,他.筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター患者の利用状況やサービスに関するアンケート調査 2.筑波技術大学テクノレポート. 2014; 21(2): p73-77.[11]厚生労働省.平成25年国民生活基礎調査の概況.(平成 27年 8月4日取得)http://www.mhlw. go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/[12]小川卓良,形井 秀一,箕輪 政博,他.第 5回現代鍼灸業態アンケート集計結果【詳報】.医道の日本. 2011;70 (12): p201-244.[13]菅原 正秋,高梨 知揚,高山美歩,他.東京有明医療大学附属鍼灸センターにおけるインシデントレポートの集計と考察. Journal of Tokyo Ariake University of Medical and Health Sciences. 2014; 6: p.21-23. [2]茨城県.茨城県の年齢別人口 s(茨城県常住人口調査結果)四半期報(平成 27年 8月4日取得) http://www.pref.ibaraki.jp/kikaku/tokei/fukyu A Statistical Report of Outpatients and Adverse Events at the Department of Acupuncture and Moxibustion in 2014 FUKUSHIMA Masaya1), SAKURABA Hinata1), SAKUMA Tohru1), MATSUI Yasushi1), HIRAYAMA Aki1), KINOSHITA Hiroaki1,2) 1)Center for Integrative Medicine, Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology 2)Course of Physical Therapy, Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: This study was aimed at analyzing the dynamic statistics of outpatients and adverse events at the department of acupuncture and moxibustion in the 2014 fiscal year (April 1, 2014, to March 31, 2015). The total number of outpatients was 8,807 (first time, n = 416; semi-first time, n = 207; and revisits, n = 8,184). The first-time outpatient trends were as follows: 250 women and 166 men, most of whom were aged 60.69 years, with low back pain, leg pain, and stiff shoulder as common complaints. 36 adverse events were reported with an incidence rate of 0.4%. The most reported adverse event was forgotten needles (n = 12). Keywords: Acupuncture, Moxibustion, Integrative medicine, Outpatient, Adverse event