理療科教員の鍼灸マッサージの臨床外来および臨床研修に関する調査 近藤 宏 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 要旨:【目的】本研究では,理療科教員の臨床能力向上に向けた方策を検討するために必要な基礎資料を資することを目的とし,理療科教員が行っている鍼灸マッサージの臨床外来および臨床研修の実態について調査した。【方法】理療の教育課程を有する視覚特別支援学校(盲学校)58校を対象にアンケート調査を行った。調査項目は,校内における教員の臨床外来および臨床研修に関する内容とした。有効回答数は 36件(有効回答率 62.1 %)であった。【結果】教員主体の臨床外来を行っている学校は 38.9%であった。教員1人あたりの年間平均延べ患者数は,50人未満が半数を占めた。何らかの形で教員の学外での臨床研修を認めている学校は,11.1%であった。【考察】教員の臨床外来や学外の臨床研修が認める学校が少ない状況の中で,臨床実習を指導する理療科教員が鍼灸マッサージの臨床の技術を研鑽するためには,休日等に開催される研修会などを利用し,自己研鑽していく他ないであろう。また,限られた時間ではあるが,附属施術室での外来運営に積極 的に参加していくことも検討する必要がある。キーワード:視覚障害,視覚特別支援学校,鍼灸,マッサージ,臨床研修 1.はじめに 急速に発展する医療のなかで鍼灸マッサージ師は,臨床を行う上で,医療の知識の更新や臨床能力の研鑽は必要不可欠である。このことはあん摩マッサージ指圧師,鍼灸 (以下,あはき)師を育成する理療科教員にとっても同様のことである。一方,教員の研修について,文科省はその職責を遂行するために,絶えず努めなければならず,職務及び研修を通じてその資質能力が育成されていくものとし,研修の重要性を訴えている[1]。今後,教員の資質向上に向けた取り組みとしてキャリアパスを推進することが予測される。臨床実習を指導する理療科教員には医療に関する専門知識や幅広い教養を身につけるとともにあはき臨床ができる資質能力が求められる。施設の機能を生かし教員による外来を開設し臨床の研鑽を行っている学校もあるようだが,各校の教員の臨床研修の実態については明らかにされていない。教員の臨床研修の実態を把握することは,理療科教員の臨床能力向上に向けた方策や各校で取り組むべき内容を検討する上で重要となる。 本研究は,理療科教員の臨床能力向上に向けた方策を検討するために必要な基礎資料を資することを目的として各施設における臨床研修の実態についての調査を実施した。 2. 対象と方法 2.1  対象 あん摩マッサージ指圧師養成課程(本科保健理療科;本保),専攻科保健理療科;専保)はり師,きゅう師,あん摩マッサージ指圧師養成課程;専理療科(以下専理)の教育課程を有する視覚特別支援学校(盲学校)58校とした。 対象の学校に調査票を配付し37校から質問票を回収した。回収率は 63.8%であった。有効回答数は 36件(有効回答率 62.1 %)であった。なお,回収した標本のうち,回答欄に記載がない 1件については無効回答とし除外した。 2.2 方法 調査は全数調査で行った。質問票は多肢選択式および自由記述式により作成した。調査票の送付は郵送で行い,回収は,郵送または電子媒体で行った。なお,アンケートは,各校の校長および理療科主任に依頼した。調査期間は平成 26年 10月7日から10月31日とした。 2.3 調査項目調査項目は次の通りである。  属性:設置学科,理療科教職員数,臨床室に携わる教職員数,臨床専任教員数  教員の臨床外来に関する項目:教員の臨床外来の有無,実施理由,患者数,臨床研修の有無 2.4  集計方法 有効回答について単純集計を行い,集計値は平均値と標準偏差あるいは百分率で示した。なお,回収した標本のうち,選択肢にない数値を記入した場合,選択肢が未記入の場合,記載すべき選択肢の数を超えて選択肢を選択している場合は,誤記とみなし無効回答とし除外した。 3. 結果 3.1  設置学科と教職員数設置学科は本科保健理療科 29件,専攻科保健理療科 27件,専攻科理療科 35件,研修科 2件であった。 理療科の教員数は11.6±4.5人,実習助手数 2.9±1.5人であった。臨床室に携わっている教員数は7.0±3.4人,実習助手数では2.5±1.1人であった(表1)。また,附属治療室に臨床専任教員がいる施設は 5施設(13.9%)で,教員数は1.8±1.0人であった。 表1 理療科教書職員数 mean S.D. 理療科教職員数 教員 11.6 4.5   実習助手 2.9 1.5 臨床室従事者数 教員 7 3.4 実習助手 2.5 1.1 3.2  教員の臨床外来に関する項目 3.2.1  教員主体の臨床外来の実施状況 教員主体の臨床外来を行っている学校は14件(38.9%),行ってない学校は 22件(61.1%)であった(図1)。 図1 教員主体の臨床外来の実施状況 教員主体の臨床外来を行っている学校 14件についてみると,実施方法は,生徒の臨床実習とは別に行っている9件 (64.3%),生徒の臨床実習と同時並行して行っている8件 (57.1%),勤務時間外に行っている4件(28.6%)であった。 3.2.2 教員主体の臨床外来の実施理由 教員主体の臨床外来の実施理由(複数回答有り)は,患者確保のため 10件(71.4%),教員の技術研鑽のため10件(71.4%)臨床実習がない期間の実習患者フォローアップ 7件(50.0%) , 地域医療への貢献のため 6件(42.9%)であった(図2)。 図2 教員の臨床外来の実施理由 3.2.3  患者数 教員1人あたりの年間平均延べ患者数は,50人未満7件(50.0%),100. 150人未満 2人(14.3%),50.100人未満 1人(7.1%)250. 300人未満 1人(7.1%),300人以上 1人(7.1%)で , あった。 3.2.4  教員の臨床研修 何らかの形で教員の学外での臨床研修を認めている学校は4件(11.1%)で,認めてない学校は 31件(86.1%),不明 1件(2.8%)であった(図3)。 図3 教員の学外臨床研修の公認有無 4. 考察 本研究では各施設における理療科教員の臨床研修の実態について調査し,教員主体の臨床外来の実施状況を明らかにした。 4.1 教員主体の臨床外来 教員主体の臨床外来を行っている学校は 38.9%であった。水出ら[2]が行った2003年の調査では24.6%であったことから,約 11年間で 14.3%増加したことになる。行っている理由は「教員の技術研鑽のため」が,臨床実習のための「患者確保」と並び最も多いことが明らかになった。現在の医療は,急速な発展を遂げ,進歩し続けている。そのため医療の一端を担うあはき師は,臨床を行う上で,医療の知識の更新や臨床能力の研鑽は必要不可欠である。このことはあはき師を育成する理療科教員においても同様であり,臨床能力の研鑽は教員研修の本幹と言えるであろう。 一方で,「地域医療への貢献」も4割程度みられた。地域医療は,医師や医療従事者が地域の住民に働きかけて,疾病の予防や健康の維持,増進のための活動を行うことである[3]。現在,地域医療連携の必要性が高まっており,保健,医療,福祉を結ぶことのできる知識と高い人間性を持った人材が求められている[4]。そのような背景から,各視覚特別支援学校 (盲学校 )における施術臨床室は,1930年代以前から開始している学校が多い[5]。そのため地域住民の健康保持増進に寄与している側面もあり,地域医療への貢献度は高い。今後さらに臨床室の地域医療に対する役割は大きくなると推測する。 教員主体の臨床外来の実施方法は,生徒の臨床実習とは別に行っているタイプと生徒の臨床実習と同時並行して行っているタイプが半数以上を占めた。通常,理療科の臨床実習では,教員の指導を受けながら生徒が主体的にあん摩マッサージ指圧あるいは鍼灸施術の実習を行っている。生徒の臨床実習と同時並行して行っているタイプでは,教員主体で患者に治療することにより,教員の医療面接,検査,施術などの方法を生徒に見学させて,学ばせる効果も狙っているのではないかと考える。 4.2 教員の臨床研修 1割の学校では,学外での臨床研修を認められていたが,ほとんどの学校では学外での臨床研修は認められていない。このような状況の中で,あはき臨床の技術を研鑽するためには,学外臨床が認められている学校では,その制度を多いに活用することが肝要である。一方で認められていない学校では,学内での臨床活動を充実していくことが急務であると考える。 特に臨床においては患者を診ることにより技術研鑽する意味合いは大きいと考えられる。このような中で臨床実習を指導する理療科教員は,休日等に開催される研修会などを利用し,自己研鑽していく他ないであろう。また,限られた時間ではあるが,附属施術室での外来運営に積極的に参加していくことも検討する必要がある。 5.結語 理療科教員の臨床能力向上に向けた方策を検討するために必要な基礎資料を資することを目的として各施設における臨床研修の実態についての調査した結果,@教員主体の臨床外来を行っている学校は 38.9%であった。A教員1人あたりの年間平均延べ患者数は,50人未満が半数を占めた。B何らかの形で教員の学外での臨床研修を認めている学校は 11.1%であった。 参考文献 acsess)[2]水出靖,大石由貴,緒方昭広,他.理療科教員の校内での臨床研修に関する実態調査.理療教育研究. 2008;30(1): 85-100.[3]日本医師会学校保健委員会.学校保健委員会答申. [1]文部科学省.十年経験者研修関係法令. http:// . www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kenshu/1244832 html. (2015.2.25 _6 http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20120322 acsess)[4]舩木悦子.いま保健・医療・福祉に求められる人材 .pdf. (2015.2.25- 地域医療連携の経験から-.青森保健大雑誌. 2008; 9(1):41-44.[5]箕輪政博,形井秀一.あん摩マッサージ指圧師,はり師 ,きゅう師教育の附属臨床施設と臨床実習に関する実態調査 視覚障害者教育と晴眼者の専門学校教育の実情に着目して.全日本鍼灸学会雑誌. 2004;54(5): 756 - 767. A Survey on the Clinical Practice and Training of Acupuncture Massage Teachers KONDO Hiroshi Acupuncture and Moxibustion Course, Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: The study purpose is to examine the clinical ability development of acupuncture and massage teachers. We investigated the realities of the clinical practice and training of acupuncture and massage teachers using 58 Schools for the Blind that had acupuncture and massage training courses. The response rate was 62.1%. In 38.9% of the schools, clinical acupuncture and massage was undertaken; in about 50% of the schools, the average number of patients seen in one year per teacher was less than 50. In 11.1% of the schools, the clinical training of the teachers occurred off-campus. In this study, we ascertained that the schools seldom have clinical practice on-campus or training off-campus. To improve the clinical skills and abilities of acupuncture and massage teachers, the following are necessary: 1) acupuncture and massage students should participate in clinical study groups, and 2) acupuncture and massage teachers should actively participate in the management of the treatment room. Keywords: Visual impairment, School for the Blind, Acupuncture, Massage, Teacher training