ガイドヘルプ技術研修の研究 関田 巖 1),村上琢磨 2) 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 1) NPO法人 視覚障がい者支援しろがめ 2) キーワード:視覚障害,ガイドヘルプ,誘導,研修,アイマスク 成果の概要  視覚障害の方に付き添って誘導する(ガイドヘルプする)ための技術研修を,NPO法人視覚障がい者支援しろがめ(以下NPO法人しろがめ)から講師を招き,本学で各年度1回で10年間おこなってきた。本稿では,本学でおこなわれたガイドヘルプ技術研修の概要とその有効性について報告する。 背景   視覚に障害があるとしばしば移動が困難になる。このため,晴眼者が視覚障害の方に付き添って移動を支援(ガイドヘルプ)する方法がある。本学でも,視覚障害学生や視覚障害の来賓に対してガイドヘルプすることがしばしばおこなわれている。 問題   善意でおこなうガイドヘルプでも,その最中にヒヤッとしたりハッとしたりするヒヤリハット事例が生じる。このため,視覚障害の方により安心してガイドヘルプを受けてもらえるためには,ガイドする人が,ガイドヘルプの方法について知識と技術を持っていることが重要である。ガイドヘルプの方法について,その知識をテキスト等から得ることには意義があるが,演習を伴わないため,その方法を体得して実践できるようになることは難しい。 解法   2006年度より,毎年2日間,本学の教職員を対象にガイドヘルプ技術研修をおこなっている。研修講師として,東京都や宮城県で同行援護従業者(いわゆるガイドヘルパー)養成研修を毎年実施して,受講者から高い評価が得られているNPO法人しろがめに依頼した。NPO法人しろがめの教えているガイドヘルプの基本技術[1]には,以下の3つの特徴がある。 (1)ガイドヘルプの受け方について事前知識のない視覚障害の方にも,安心してガイドヘルプを受けてもらえる。 (2)ガイドヘルプのしやすさよりも,ガイドヘルプを受けたときの負担を軽減することが優先されている。 (3)誘導時の手などに誘導手・自由手などの名称を付け,更に,ガイドヘルプの基本技術を基本姿勢と7つの要素技術に分類するなど,ガイドヘルプの方法が,詳細に定義されていると共に,その習得が要素技術の積み上げ式にできるようになっている。 研修プログラムは,学内での誘導場面を想定し,以下の通り,主に演習で構成されている。 1日目(9時~17時) ・ 講義:視覚障害の理解(2時間) ・ 誘導の基本(その1):やってはいけない誘導方法,基本姿勢 ・ 食事支援(その1) ・ 誘導の基本(その2):基本の動き ・ イスへの誘導 ・ 狭所での誘導 ・ 段差での誘導 ・ 階段での誘導(その1) ・映像チェックによる復習 2日目(9時~17時) ・1日目の復習 ・ 階段での誘導(その2) ・ドアの誘導 ・ 食事支援(その2) ・乗用車 ・マイクロバス利用時の誘導 ・ 雨の日の誘導 ・トイレでの誘導 ・ 長距離歩行での誘導 ・映像チェックによる復習 結果   年度ごとの研修への参加者数を,以下に示す。(表があります)  研修の様子を,過去の年度の写真も取り入れながら以下,紹介する。ただし,具体的な研修環境は,年度ごとに異なることがある。 受講者からの感想として,2015年度の受講者の感想を抜粋・要約して以下に示す。 受講者A/  ガイド側の体験をすることに加え,視覚障害者側の体験もできたことで,基本動作・基本姿勢の大切さや,どのように接すると相手は気分よく動けるのか理解できた。特に,誘導腕を緩めないことの重要度の高さは,ガイド側を体験するだけでは掴めなかったと感じる。 誘導腕を固定して,相手の動くスペースも考えてガイドすれば,体の動きだけで声かけを細かくする必要がないことがわかった。声のかけ過ぎはかえって煩わしく感じることがわかった。ガイド側が良かれと思ってやっていることがガイドヘルプを行う上で理に適っていなかったり,視覚障害者にとっては不快な場合があるということを強く意識するきっかけになった。相手の立場に立っても,ガイドの仕方で混乱することもあった。特に食事介助は,メニュー選びから食事中に,どこまで声をかければいいか等,もっと模索する必要があると感じた。心理的な気遣いも含め考え出された誘導動作が多く,ガイドヘルプの難しさと深さを体験できた。 受講者B/  アイマスクを使用しての視覚障害役を体験することにより,とてもわかりやすく覚えることができた。食事支援では,食品アレルギーの有無についての確認は生死に関わるので,普段から意識することが大切であると痛感した。イスはいろいろな方向から座るので,覚えたことが行動に移せず苦心した。狭所では,視覚障害の方の手を導くことの重要性を学んだ。段差や階段では,映像をすぐにリプレイして確認できたので,修正しやすかった。ドアの開閉では,ドアを支える手に気をつけることを学んだ。車の乗降については,シートベルト着脱,座席への案内など,復習的な内容で,大変ためになった。長距離移動では,やり遂げられて安堵した。 受講者C/  ガイドには基本となる姿勢や動作があること,これが一番肝心であると気づいた。基本姿勢と基本動作ができれば,相手に合わせて動くことができ,声による説明に頼らずに状況を伝え,スムーズに移動できることがわかった。気を付けているつもりでも,歩くペースが合わなかったり,出入り口でドア枠に当てそうになったのは,基本姿勢や基本動作ができていないためであることを理解できた。研修ではパートナーを変えての練習や,iPad録画によるチェックにより,自分で注意すべき点を客観的に理解することができた。また,アイマスクを着けてガイドを受けることで,より納得することができた。ガイドするには,自らの気力・体力・体幹力が万全でなくてはならないとしみじみ感じた。 受講者D/  誘導の技術のみでなく,相手の気持ちを思いやるという内面に関しての話が,特に勉強になった。 視覚障害の人を誘導することは,ある意味では相手の命を預かることであるという責任の重さを学んだことも大変勉強になった。2日間の内容が濃すぎていて,できないまま終わってしまったので,街中で視覚障害の方へ声かけすることが怖くなった。今後,学んだことの復習や練習を繰り返していかなければならない。本講座への要望として,声がけのできない盲ろう学生への誘導方法について,お話を少しでもいただけるとありがたい。 受講者E/  誘導時には,今まで想像していた以上に,配慮して行動しなければならないことがわかった。食事支援では,アイマスクをして食事支援を受けた経験は新鮮だった。支援する際には,伝えるべき情報が漏れてしまい,支援を受けるときの気持ちになって考えて声かけしなければならないという経験ができ,大変貴重だった。誘導は容易ではなく,誘導場面のうち,特にいす,狭所,ドアがスムーズにできなかった。実際の現場では公共交通機関の利用もあるので,スムーズに誘導できるようになるために,反復練習を相当しなければならないと実感した。見えることのありがたさを実感した。今後は,ガイドヘルプのみならず,点字なども通じて,視覚障害について「知る」,「理解する」ための勉強をしていきたい。 受講者F/  障害支援について全く予備知識のないまま,気持ちだけで誘導や案内をしたときには,狭いところでぶつかったこともあった。今回の研修では,時間不足ですべての場面で体がとっさに動くほどには至らなかったが,ガイドする側とされる側の位置関係や,手の導き方,ガイドする側の動きを伝えるために誘導腕を固定する必要があることなど,基本的な理解はできた。受講者自身もアイマスクをして視覚情報を遮り,受講者同士でガイドを実践し合うことにより,一つ一つの動作の意味を体感できた。今後の誘導時に,ここで体感したことを基に教わったことを実践したい。ペアを固定化せずにあらゆる組み合わせで行ったことにより,コミュニケーションの重要性がよくわかった。やってほしいこと・やられて少し嫌なことは,個人差があるので,コミュニケーションを図りながら,お互いに心地のよいガイドの方法を探る必要があると感じた。アイマスクをしての食事や,通り慣れているはずの校内の移動なども大変新鮮で,普段視覚情報に頼っていることを実感した。コンビニエンスストア内では,密封されているはずのパンの香りの強さに驚いた。 考察と今後の課題   以上の感想を通して,研修の有効性をまとめると以下のようになる。(1)演習を通して,基本姿勢(誘導腕を固定すること等),基本動作(手の導き方,手での支えかた,声のかけ方等)の重要性がわかる。(2)アイマスクをして視覚障害役を体験することをすべてのペアでおこなうことで,基本姿勢や基本動作の意味や重要性を理解しやすくなる。(3)自分のガイドヘルプの様子をビデオですぐに見られることで,注意すべき点を客観的に理解できる。(4)よかれと思っておこなった行為(声のかけ過ぎ等)が,逆の作用をもたらしたりそれだけでは不十分であったりすることがわかる。(5)誘導技術のみならず視覚障害側の気持ちを思いやることの必要性がわかる。(6)視覚障害の方のニーズに応じたガイドヘルプをするために,コミュニケーションの重要性がわかる。(7)ガイドヘルプするためには,気力・体力・体幹力が重要であることがわかる。 一方,感想から得られた今後の課題として以下がある。(1)2日間で,十分に実践できるようになるまでには至らない。(2)街中でガイドヘルプをするときの不安の増加(3)声がけのできない盲ろう者へのガイドヘルプ方法が不明。 上記課題(1)のためには,期間を延ばすことや,内容をよりシンプルにすることが考えられるが,満足レベルは個人に依存するのと,本人が感じているほど修得できなかったわけではないため,研修後の実践を増やすことでガイドヘルプ技術の向上を図ることが重要と考える。上記の意味でも,課題(2)の気持ちは謙虚になるための礎とするだけでよく,街中でガイドヘルプを実践して経験を増やすことが重要と考える。これについては,研修の中で触れていきたい。課題(3)については,NPO法人しろがめでは,実験として,何も知らされていない被験者にアイマスクをしてもらい,全く説明せず,また,声をかけせずに,停車してドアの開いているバスまで誘導してバスの乗降を行うことができている。また,実際に盲ろう者へガイドヘルプをおこなった経験もあるため,今後,その一部でも紹介することを検討したい。 おわりに 毎年,受講者より有意義であるという一定の評価が得られているため,今後とも研修事業の継続が望まれる。 参考文献 [1] 村上琢磨,関田巖:ガイドヘルプの基本(第2版),文光堂(2009)。