卒業生の就職企業での安全確保と情報保障の調査及びマニュアル作成 嶋村幸仁 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 キーワード:視覚障害者,就職,安全確保,情報保障 1.はじめに  視覚障害者の就職先における安全確保や情報保障に対する調査については,卒業生から個別に聞いている教員は多いが,まとまったものは存在していない。その内容を大別すると通勤に関するものと職場環境,特に社内イントラネットでの情報保障に関するものが多い。このため,障害に合った安全の確保と情報保障が必要となっているが,そのためのマニュアルなどが整備されていない状況にあることが大きな原因と考えられる。もちろん就職先の会社内のシステムに本学教員が入って社内システムを改良することなどはできないので,ソフト面からの補助が必要と考えられた。就職先における視覚障害者のインシデントや困りごとを収集・解析・共有化することによって,身体保全の教育支援,情報保障の設備対応向上を図り,視覚障害者の活動を支援することにより,事故発生の防止や情報保障を確保し,もって視覚障害者の安全と就業に資することを目的として研究した。 2.成果の概要  本研究では,ハインリッヒの法則[1]「1件の重大労災事故が発生する背景に,29件の軽傷事故と300件のヒヤリ,ハッとする体験がある」を援用し,就職先におけるインシデントや視覚障害者が日ごろ危険や情報不足として困りごとと感じている状況を調査し,解析する研究を行い,得られた知見と改善方法を知見化する。このことによって,視覚障害者を雇用している又は今後雇用する企業の支援を図り,潜在事故の顕在化を防止することによって,事故の発生の抑止や情報保障の確立により,視覚障害者が社内で活躍できる環境の提案を行うことであり,学術的意義は大きい。 ① 他研究との比較 村上琢磨,関田巌著書の「ガイドヘルプの基本」文光堂[2]で,ヒヤリハットの状況と対策を掲載しているが,その事例は7例と少なく,視覚障害者に対するヒヤリハットの他 の研究は見当たらない。視覚障害者の就職先における改善事例集としては,独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構が作成した「平成16年度障害者雇用職場改善好事例(視覚障害者)入賞事例集」[3]があるが,職場内のバリアフリー化によるものが大部分であると共に,ハード面の改良提案が多くを占めていた。 ② インシデントでの特徴 視覚障害者における安全確保については,従来からも点字ブロックなどにより,各機関において実施してきているが,近年,鉄道駅において視覚障害者が線路内に転落し,死亡するなど大事故が発生している。さらに側溝に落ちるなどの小さい事故をピックアップしていけば事故は無数に多発しており,その防止に向けた取り組みについて社会的要請が高まりつつある。そこで,嶋村ら[4]が本学学生から事故やトラブルについてアンケート調査とヒアリング調査を実施したところ「ぶつかる」「落ちる」といった事故が全体の4分の3(77%)を占めていた。以上などを基に,他の補助金・助成金等への応募や各種学会への発表投稿を行う予定である。 参考文献 [1] H.W.Heinrich(1959),Industrial accident prevention : a scientific approach(4th ed.). McGraw-Hill. [2] 村上琢磨,関田巌「ガイドヘルプの基本」文光.2009, pp121-125. [3] 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構,「平成16年度障害者雇用職場改善好事例(視覚障害者)入賞事例集」, 2005, pp2-91 [4] 嶋村幸仁,片山博,山口通智リスク概念と視覚障害者のハザード要因に関する研究.安全工学.2014;Vol.53,NO.2.pp.108-114