伸張粘度の新たな計測手法に関する研究 下笠賢二 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:伸張粘度,ずり粘度,嚥下障害,精密測定 1.はじめに 現在,高齢者を中心に,嚥下機能が低下した嚥下障害者,及び嚥下困難者や咀嚼機能が低下した咀嚼困難者が増加している。誤嚥は窒息の危険性を伴う上,誤嚥性肺炎の原因と考えられており,高齢者の死亡原因の肺炎の中で潜在的に多く含まれる深刻な問題である。気管への誤嚥を防ぐために粘度を調整(増粘)した液状介護食が利用されており様々な研究が行われている一方で,唾液の効果や粘性特性についての研究報告は少ない。唾液のような高分子溶融液は伸張により分子配向が生じ,伸張流動に対する高い抵抗を示すため,ずり粘度だけではなく伸張流動に対する伸張粘度の研究が重要である。低粘度溶液の伸張粘度測定の研究が遅れている原因は,計測に適した伸張流の生成が困難であることに加え,測定力のオーダが非常に小さいことにある。現在,伸張流は上下の丸棒断面間にはさんだ液柱を引っ張ることで,表面張力により細くなっていく時の流れを利用しているが,低粘度の液体は液柱が容易に破断してしまうため計測は非常に困難である。そこで本研究では,微細直径変化の測定を行うための実験装置の製作と低粘度溶液の伸張粘度計測の測定条件の検討を目的とした。 2.方法 ずり粘度との粘性特性の比較を行うために,ずり粘度の計測には Fig.1に示す円錐平板回転粘度計(HAAKE,RS600,Thermo Fisher Scientific)を使用した。円錐の直径は60mmで,隙間の角度は1degとした。測定試料には唾液相当の粘度となるように調整し,ニュートン流体として2種類の濃度のグリセリン水溶液(濃度20%,30%)と水溶性高分子PEO27(濃度0.05%,0.1%)を使用した。 3.結果と考察 伸張粘度計測を行うために製作した実験装置を Fig.1に示す。測定にはリニアモータ駆動装置(SERVOPACK,SGDV-R90F15A,YASKAWA)を使用し,その制御はPCのプログラムから行う。プログラムの作成,及び制御ソフト(MPE720 lite Ver.6,YASKAWA)を使用した。表面張力により細くなる液柱直径の測定には,高精度かつ高速にデータ取得を行うために CCDマイクロメータ(LS7010,KEYENCE)を取り付け,そのデータは液柱初期変化をトリガとしてデータロガ(MEMORY HiCORDER,8807,HIOKI)に保存される。さらに,液柱直径変化の画像を取得するために,一眼レフカメラ(D3100,Nikon Corp)を設置した。伸張粘度計測の実験条件は試料によって異なるため,同一条件で計測を行うことはできなかった。異なる条件で測定を行ったデータの整合性や補正法を確立することが今後の課題である。 Fig.1 Cone and plate rheometer for shear viscometer Fig.2 Experimental apparatus for capillary thinning extensional viscometer