視覚障害学生に対する喀痰吸引モデル使用による呼吸理学療法の指導の研究 三浦美佐1),松下昌之助1),石塚和重1),伊藤 修2),上月正博2)筑波技術大学 保健科学部1)東北大学大学院医学系研究科2)キーワード:喀痰吸引モデル,呼吸理学療法,視覚障害学生 1.背景 近年高齢化社会を迎えて呼吸不全患者が増加し,呼吸理学療法の必要性が高まっている。疾病管理のため安静臥床が長期化すると,本来持っている筋力・運動能が低下し, 疾病が改善しても,寝たきりとなってしまい喀痰吸引が必要な状況となる。そのため,喀痰吸引は看護師や患者家族のみならず,理学療法士の臨床業務として認識されつつある。しかし,本学においては,口腔内の視診が困難な視覚障害学生が対象であり,吸引手技の習得には消極的であった。また晴眼者を対象に作成された,喀痰吸引モデル使用しての視覚障害学生への指導の効果は不明である。 2.目的 そこで本研究の目的を,視覚障害学生に対し喀痰吸引モデルを使用した理学療法教育の,現状と今後の課題を明確にすることを目的とした。 3.対象と方法 内部障害理学療法学実習を,履修希望した視覚障害のある学生11名(男性7名女性4名)で,学内の運動療法室において,講義と実技指導後,喀痰吸引モデルおよび電動式喀痰吸引器(図1-1,2)を用いて呼吸理学療法を実習指導し,これらの指導の有効性を学生へのアンケート調査から比較検討した。なお本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究で筑波技術大学倫理委員会の許可を得て,対象者全員(表1)に対し本研究の説明を行い,文書で同意を得たのちに実施した。 4.結果 学生の視覚障害の状況,および履修前の解剖学など基礎医学科目の学業成績とは相関関係がなく,学生たちは呼吸理学療法実習が理解できた(図2)。また,卒後呼吸理学療法分野に進みたいという学生も2割ほどでた。 図1-1 喀痰吸引モデル 図1-2 電動式喀痰吸引器 表1 対象の属性 図2 学生のアンケート結果 5.成果の今後における教育研究上の活用及び予想さ  れる効果 喀痰吸引モデル使用しての実習は,晴眼学生のみならず,視覚障害学生にとっても有効であることが示唆された。今後は,臨床現場におけるリスク面の評価も検討して,視覚障害学生の新たな可能性と職域を模索していきたい。 6.謝辞 本研究を実施するにあたり,全面的に協力いただきました皆様に深く感謝申し上げます。 7.引用文献 [1] 石丸彰宏. リハビリテーションスタッフのための喀痰吸引シミュレーション訓練の効果. Journal of Japanese Association of Simulation for Medical Education. 5巻 P 55, 2012-07 8. 成果報告 ・2016日本ロービジョン学会や2016年度茨城県理学療法士学術集会等,国内外の学会において発表予定。