スポーツ領域での鍼療法に関する文献的検討 近藤 宏1),櫻庭 陽2)筑波技術大学 保健科学部 保健学科1)保健科学部附属東西医学統合医療センター2) キーワード:スポーツ,鍼,レビュー,文献調査 1.成果の概要 1.1 研究の背景近年,スポーツに対する国民的関心が高まっており,スポーツを楽しむ国民は増加傾向にある[1]。スポーツ人口の増加は,スポーツ外傷・障害の増加につながる。特に,スポーツ障害は,慢性の経過をたどることがあり,スポーツ活動ばかりでなく日常生活活動にも大きな影響を与える。これまで,日本において鍼はスポーツ選手の障害の治療やケアに深く関わってきた[2]。スポーツ領域において選手を中心とした医科学的支援体制の強化がうたわれる中で,スポーツ領域に携わる鍼灸師は,スポーツ医学的な知識や競技特性等を熟知し,スポーツ関連職種に鍼について科学的な根拠に基づいて説明することが求められるであろう。しかし,これらを系統的かつ網羅的に調査し,評価・分析・統合を行った報告はみられない。そのためスポーツ領域における鍼療法の有効性や安全性についてまとめ,スポーツ選手や選手を支援する関係者をはじめ国民にむけて発信する必要がある。なお,本研究では,鍼療法と関連の深い灸療法,マッサージ療法についても合わせて文献的検討を行うこととした。本研究の目的は,スポーツ分野における鍼灸マッサージに関する文献を網羅的に収集・吟味し,統合することにより,スポーツ分野における鍼灸マッサージの有効性や安全性を確認することである。なお,本研究は,公益財団法人 東洋療法研修試験財団 平成27年度鍼灸等研究事業に申請し,委託研究(奨学寄付金)を受けているが,文献や情報収集等に係る費用を求めて本学競争的経費を申請した。 1.2 研究方法次の選択基準を満たした論文についてレビューを行った。①鍼灸マッサージに関する臨床試験である,②対象がスポーツ選手または症状がスポーツや運動に起因または関連している。③研究デザインがランダム化比較試 験(randomized controlled trial: RCT),準ランダム化比較試験(quasi-randomized controlled trial: quasi-RCT),クロスオーバー比較試験である。④英語または日本語で報告されている臨床研究である。論文の検索には,PubMedと医学中央雑誌Web版の 2つのデータベースを用いた。スクリーニングは,データベースによる検索後,検索担当者によって,各データベース間の重複論文を削除し,タイトルやアブストラクトから明らかに選択基準を満たさないものは除外した。その後,構造化抄録作成の過程で選択された対象論文を吟味し,最終的な選択,除外を決定した。 1.3 研究結果検索の結果,対象論文として5,039編がヒットしたが,検索条件に適合した論文は331編であった。2回のスクリーニングを行った結果,最終的に65編の論文を抽出し,レビューを行った。RCTの研究のうち,介入方法が鍼による研究が67.3%,マッサージによる研究が29.1%で,鍼の研究の方が多いことが明らかとなった。対象者の合計は,1,734人であった。スポーツ選手を対象とした論文は24編であった。スポーツ競技種目は,トライアスロン7編が最も多かった。対象者のスポーツ外傷,障害に関する症状または疾患は,疲労5編が最も多かった。介入方法は,円皮鍼(20編)が最も多く,次いでマッサージ(15編)と続いた。アウトカムでは,血液成分(26編)を指標としている研究が最も多かった。 2.成果の今度における教育研究上の活用および予測される効果 スポーツに対する国民の関心が高まっているなかで,選手のケアに対する鍼灸の期待は大きい。2020年にはスポーツ界最大のイベント「オリンピック・パラリンピック」が日本で開催される。そのため今後,国内のみならず海外でも日本のスポーツ選手に対する支援体制が注目されることは推測できる。鍼灸マッサージがより理解されるために,スポーツ分野における鍼灸マッサージの有効性や安全性の検証は,重要なミッションであると考える。得られた結果を基盤に,スポーツ分野における鍼灸マッサージの有効性や安全性について,国内外のスポーツ選手,選手を支援する関係者のみならず国民にむけて発信することができ,スポーツ分野での鍼灸マッサージのさらなる普及が期待できる。また,これらの基礎資料は鍼灸マッサージ師養成の教育分野への効果にも寄与できると考える。 3.成果の学会発表 第66回全日本鍼灸学会学術大会(平成29年6月・東京開催)にて発表予定。 4.文献 [1] 文部科学省.成人の週1回以上のスポーツ実施率の推移. http://www.mext.go.jp/ a_menu/sports/jisshi/__icsFiles/afieldfile/2014/03/17/1294610_1.pdf (2014.3.1アクセス) [2] 長沼 健,黒田善雄 編.平成2年度 日本体育協会 スポーツ医 ・科 学研究報告集(VOL.1)報告書No.I国体選手の健康管理に関する研究― 第1報―, 財団法人 日本体育協会,東 京,(1991),21.