聴覚障害学生に対する食事指導効果と性格との関連に関する研究 横田千津子 筑波技術大学 保健管理センター キーワード:食育,食習慣,食事記録,性格 【背景】 若年者の痩せと肥満が問題となっている。1986年にBarker等は,胎児期の低栄養が将来,肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧等になりやすく,心血管障害による死亡率を上昇させるとする疫学調査を報告し,現在では,the thrifty phenotype hypothesis,the fetal origins of adult disease,或いは,Barker仮説,として広く知られている。思春期までの栄養障害は,将来的な骨粗鬆症発症の大きな要因であることが指摘されている。更に,痩せ女性が妊娠した場合,妊娠中の体重増加不良で,低出生体重児の出生率が高い。一方,子供の肥満は大人の肥満に移行する率が非常に高く,18~25歳BMIの相関は0.5~0.6と報告されており,思春期肥満の約70%は成人肥満に移行し,将来的に生活習慣病発症を促進する可能性が高い。特に肥満男子の予後は悪い。よって,成人期の健康の確保の為にも,大学在学中に正しいボディー・イメージ教育と食事指導が必要と考えられる。 【目的】 2012年度~2015年度に本学産業技術学部新入生の1)BMI(body mass index)・収縮期血圧(SBP)・血色素量(Hb) に相関があるか,2)入学時に正常体重群(18.5≦BMI<25.0)とそれ以外の群で,上記3項目の経年的な変化率が異なるか,更に,3)食事指導を行っていない2012・2013年度新入生と比し,新入生全員に食事指導を行った2014年度新入生とでは上記3項目の変化率に差があるか,について検討した。 【対象及び方法】 1)2012年度~2015年度に本学産業技術学部に入学し,毎年健康診断を受診し,年次推移を観察し得た大学生(但し,大学院生・研究生等は除く)の健康診断結果を用いて解析した。2)2014年度新入生には,3日間の食事記録を提出していただき,その結果と生活活動強度別エネルギー所要量に基づき,食事指導を行った。 【結果】 2015年度は食事調査を1度実施し,食事調査は3名(女 1名)のみより回答を得た。自己成長エゴグラムは48名より回答を得た。3名の食事記録を解析すると,女1名のみがバランスの取れた良好な食事をしていた。カロリー摂取量も推定量で1700~1900kcal/日であり,カロリー摂取の日間動揺も少なく,炭水化物・蛋白質・脂質の配分もほぼ理想通りであった。18~29歳女子の推定エネルギー必要量は1950kcal/日であるが[2],これは,158cmを標準として求めたエネルギー量であることを考えると,本学生は153cmと小柄であることより,十分なカロリーを摂取していると考えられる。他の男子2名は,3食ラーメンを食べており,塩分過多で,炭水化物と脂質に偏った食生活であると言える。一方,自己成長エゴグラムでの性格特性では,48名のうち,CPが2名,NPが5名,Aが2名,FCが23名,ACが16名であった。食事記録結果と自己成長エゴグラムとの関連だが,女1名はAであり,男はそれぞれFCとACであった。 【結果の考察】 食事記録の回答者が3名であることより,食事内容と性格を関連づけて検討する事はできなかった。又,食事調査を単回しか行えなかったので,食事指導効果と性格の関連も検討できなかった。単回の食事調査の結果から,事実の認識や分析が得意である大人的性質を持つAの女子は,食生活も充実していることがわかった。一方,自分の気持ちを優先させやすい自由な子供的性質のFCと周りに流されやすい従順な子供的基質を持つACが食事を共にしているかは不明であるが,健康維持・増進に及ぼす栄養の重要性の理解がなされていないことは明らかとなった。 【成果の今後における教育研究上の活用及び予想される効果】 自己成長エゴグラムを用いての性格分析を行うことはできたので,性格特性と本年5月の学生健康診断での1年間の体重・血圧・血色素量等の変化率との関係を検討する。食事調査に協力していただけなかった学生達は,食事記録が面倒なのか,食事というプライバシーを除かれるのが嫌なのか,食事記録はしたが,単に提出するのを忘れたのか,提出場所を間違えてしまった為に,調査をできなかったのか,等々,協力しなかった理由を調査し,今後は,協力し易い食事調査を行うように,調査方法を改善することを検討したいと考える。 【成果の学会発表】 2015年9月に開催された第53回(平成27年度)全国大学保健管理研究集会にて発表した。 【文献】 [1] 横田千津子,下地めぐみ,湯浅香織他.;2型糖尿病患者の栄養指導効果に及ぼす性格特性。(第17回日本病態栄養学会学術集会).日本病態栄養学会誌.2013;17(Suppl):S-171.[2] 日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要,http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf