長寿社会の健康を支えるあん摩・マッサージの検討 殿山 希 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 キーワード:あん摩療法,婦人科がんサバイバー,心身の健康,交感神経抑制 1.成果の概要 1.1 今年度の研究実施状況 平成27年度競争的教育研究プロジェクトの申請(150万円)において,以下の2つの研究目標を設定していた。研究1.昨年度に終了した婦人科がんサバイバーに対する継続的あん摩療法のランダム化比較試験の結果の総括を行い,学会発表・論文発表を行う。研究2.マッサージで健康寿命延伸の可能性を探る:ランダム化比較試験の準備として,既に行った予備研究のデータクリーニングと再解析お行い,ランダム化比較試験に向けてプロトコルを作成する。しかし,研究費支給が予定の約3分の1であったため,研究1のみの実施に留まった。 1.2 行った学会発表とその内容 平成26年度に終了した婦人科がんサバイバーに対する継続的あん摩療法の効果について,以下の内容をそれぞれの学会で発表した。論文投稿中であるため,本稿には結果の詳細の記述を避けるが,それぞれの学会発表抄録を参照していただきたい。 1.2.1 身体に対する効果 Primary endpointは,身体の自覚的症状をVisual analogue scale(VAS)で測定した。年齢および施術前値を共変量とした共分散分析の結果,あん摩継続群では,あん摩最終回の施術前値は初回の施術前値より-21.5低減した(95%信頼区間: -30.1 to -12.8, 施術前値50, 年齢50歳における最小2乗平均)。一方,経過観察群では,試験終了日の値は試験開始日の値より0.8増加した(95%信頼区間: -7.7 to 9.2)。上記の変化量に対する仮説検定の結果,両群間に統計的有意性が認められた(F値=13.8, p=0.0007)。よって,毎週1回40分間のあん摩施術を7回継続することは婦人科がんサバイバーの身体的愁訴の軽減に有効であることが検証された。 発表:殿山希,佐藤豊実,濱野鉄太郎,大越教夫.がんサバイバーの身体的愁訴に対する継続的あん摩療法の効果:ランダム化比較試験.第81回日本温泉気候物理医学会総会.2015年6月20日 軽井沢市. 1.2.2 心理・気分に対する効果 日本語版Hospital Anxiety Depression Scale (HADS), Profile of Mood States(POMS), Measure of Adjustment to Cancer(MAC)で測定した結果を発表した。発表:殿山希,佐藤豊実,濱野鉄太郎,大越教夫.がんサバイバーに対するマッサージ療法の心身への効果:ランダム化比較試験.第28回日本サイコオンコロジー学会2015年9月18日 広島市 1.2.3 唾液中クロモグラニンA・尿中カテコラミンの変化からみた身体刺激(あん摩療法)と脳への刺激(対照群:半構造化自己開示法≪カウンセリング≫)の相違 身体刺激であるあん摩施術の後,尿中アドレナリンが有意に低下することから交感神経系の抑制が示唆された。一方,半構造化自己開示法で介入した対照群では,唾液中クロモグラニンAが有意に低減し,その効果は8週後まで持続した。よって,どちらの介入でも交感神経系が抑制されることが示唆されたが,脳への刺激による変化は効果が持続することが考察された。 発表:殿山希.がんサバイバーの心身に対する効果:半構造化自己開示法 VS マッサージ.第21回日本精神保健社会学会学術大会 2015年11月23日 東京 1.2.4 以上の研究の概要・ハイライトをあん摩マッサージ指圧師が多く集まる学会において紹介した。 発表:殿山希.がんサバイバーに対するあん摩療法とカウンセリングの心身への効果の相違:ランダム化比較試験の結果から. 第41回日本東洋医学系物理療法学会学術大会, 2016年3月13日,東京. 1.3 論文執筆上記の結果を英文誌に投稿中である。 1.4 Primary endpointである身体的自覚症状の内容について,さらに,症状別に分析を進めて,第81回日本温泉気候物理医学会(2016年5月15日渋川市)で発表予定・抄録の提出を行った。 2.成果の今後における教育研究上の活用及び予想される効果 今回,検証されたあん摩療法の効果を医学会発表や学術雑誌への投稿を通して広く知らしめることにより,医療関係者があん摩療法の治療的価値を認識し,正しい理解が促進されることが予想される。それにより,本学で教育しているあん摩療法の学術面での発展と,東西医学統合医療センター内あん摩マッサージ外来における高度施術の確立と社会的ニーズへの貢献につながると考える。ひいては,学生の進路開拓にも貢献できることが予想される。本研究の成果は,従来は患者やユーザーの意思のみで選択されてきたあん摩療法にエビデンスを持って選択可能となる情報を与えるものとなることが特に意義深い。将来的に,医療ガイドラインへの反映が期待される。次年度は,今年度行うことができなかった研究2について進めて行く予定である。