あはき施術所数と医業類似行為事業所数の電話帳比較調査 藤井亮輔 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 キーワード:施術所,カイロプラクティック,整体,リラクゼーション,NTTタウンページ 1.はじめに あん摩マッサージ指圧,はり,きゅう(以下,三療と略記)及び柔道整復を提供する施術所・接骨院の数は衛生行政業務報告例の隔年報で公表されているが,カイロプラクティック,整体,リフレクソロジー等の医業類似行為を提供する店舗数に関する統計は存在しないし,信頼に足る報告もない。しかしながら,徒手等によるこれら三療類似の行為は,正統な免許業者の経営を圧迫する主な要因とされており,その実態のみならず取締行政の観点からも,店舗数等の市場の把握が課題となっている。そこで本研究では,NTTタウンページでカテゴライズされている業種の中から法定の業と医業類似行為業を10業種抽出し,2014年6月の件数と2015年6月の件数を比較検討することを目的に実施した。 2.方法 まず,NTTタウンページ(株)より法定業種4業種(①「あん摩マッサージ」,②「あん摩・鍼灸」,③「接骨・柔道整復」,④「鍼・灸」)と医業類似行為業6業種(⑤「カイロプラクティック」,⑥「整体」,⑦「リフレクソロジー」,⑧「アロマテラピー」,⑨「気功」,⑩「電気・電子療法」)の2014年6月末時点と2015年6月末時点のデータを購入し各業種の事業所数のデータベースを都道府県別に作成した。これを基に,各業者数の推移を比較検討した。本論では,業種.⑤~⑧の手技による医業類似行為のうち,⑤と⑥を「療術業」,⑦と⑧を「慰安業=リラクゼーション業」に区分し集計した。 3.結果 NTTタウンページに掲載された上記10業種2015年6月の総業者数(以下,2015年値)は,2014年6月の総業者数(以下,2014年値)より4,750件,率で5.3%少ない84,187件で10業種すべてで減少していた(表1)。 これを法定業と医業類似行為業に分けて見てみると,前者は4,253件(4.8%)少ない61,168件,後者は1,721(6.8%)少ない23,559件だったので,医業類似行為業の減少幅が2ポイント高かった。これを反映して総業者数に占める法定業者数の2015年値の割合は2014年値の71.8%より0.4ポイント高い72.2%だった。また,業種ごとの減少率が最も高かったのは「あん摩・はり・きゅう業」(業種①~③)の21.9%で,「リラクゼーション業」(同⑦と⑧)の18.5%「療術業」,(同⑤と⑥)と「電気・光線業」の各13.0%が続き,「柔道整復業」は2.9%の減少にとどまった。一方,2015年値の総業者数に占める10業種ごとの構成割合は,「柔道整復」が38.2%で最も高く,「整体」の15.4%,「鍼灸」の14.2%,「あん摩・鍼灸業」の12.8%などであった。 4.考察 (1)医業類似行為の比率についてあはき業を自営する業者を対象に実施した藤井らの報告1)によれば,経営にマイナスの影響を与えている要因で,晴眼業者の54.4%,視覚障害業者の72.9%が「無免許業者が多い」を理由に上げた。今回の調査で総業者数に占める医業類似行為業者の割合が約3割であることが判明した。NTTタウンページの掲載業者に限った結果ではあったが,上記の知見に一つの裏付けを与えた意義は大きい。(2)タウンページの掲載業者数について2014年6月現在のNTTタウンページに掲載された三療関係の業者数は31,146件だったが,この件数はデータ集計日の直近の政府統計(平成26年度衛生行政85,260件の36.5%にすぎなかった。これに対し,柔道整復業の掲載率は72.6%と高かった(表2)。あはき業を自営する業者を対象に実施した藤井らの報告1)によれば,三療施術所1件当たりの2013年分の年収(税込みベース)は,柔道整復師の免許所持者が800万円(中央値)だったのに対し,同免許を所持していない業者は350万円(同)で2極化していた。広告料の支出を伴うタウンページへの掲載は一定の経済力が必要であり,年収の低い業者が多いことが三療業者の掲載率を押し下げた主な要因と考えられた。一方,2015年6月の10業種の掲載業者数は1年前の同期比で5.3%減少していた。三療業の21.9%減が主な要因だったが,三療の中でも視覚障害者の多くが集中している,あん摩単独の施術所の減少率が10.1%と大きかった。前掲の藤井らの報告によると,視覚障害業者の年収は180万円(中央値)であり,その6割(60.2%)が今の経営を「苦しい」と感じていたことから。三療業者の掲載率の大幅な落ち込みは,そうした経営状況が反映していたものと思われる。「リラクゼーション業」と「療術業」の掲載率も大幅に減少したが,業者数の増加による過当競争と長引く不景気が背景に関与している可能性が高いが,その詳細は今後の追跡調査にゆだねたい。柔道整復業の掲載率の下げ幅は3%弱で10業種中,最も低かったが経営的に良好な業者が多いことを示唆している。 (3)本研究の意義2012年8月,消費生活相談センターは健康維持・症状改善等を目的に受けた手技により発生したとみられる危害件数が5年間で825件に及んだこと,その多くが国家免許を持たない医業類似行為によるものであった可能性のあること等を公表した。これを機に,カイロプラクティック・整体業等,医業類似行為の問題性が医療行政上の深刻な課題として活発に議論されるようになったが,規制法のない当該業では議論のベースになる事業所数等の統計はなかった。こうした中,本研究において,NTTタウンページを用いる独創的な手法により,医業類似行為業の営業実態の一端を明らかにできたことの意義は大きいと考える。 おわりに タウンページへの掲載は一定額の広告料の支出を伴う営業活動であることから,今回収集されたデータは経済的にゆとりのある業者に偏っていた可能性が高い。本調査設計の限界であるが,タウンページのデータは毎月更新されるため定点調査による動態の把握が可能である点で優位性があり,今後,一定の間隔で同様の調査研究を続けていきたい。 参考文献 [1] 高橋実編.視覚障害者就労実態調査報告書2014(社.福)視覚障害者支援総合センター(東京).2014 ; 総206ページ.(共著) 藤井亮輔.あはき施術所調査.p.5-100を分担執筆.