鍼灸・手技刺激の自律神経を介する効果とメカニズムの研究─ 体幹部灸刺激が起こす胃内圧減少反応とその神経性機序 ─ 野口栄太郎1),成島朋美2),水出 靖3) 筑波技術大学大学院 技術科学研究科鍼灸学コース1)筑波技術大学保健科学部 保健学科鍼灸学専攻2)東京有明医療大学 保健医療部鍼灸学科3) キーワード:熱刺激,灸治療,自律神経,ラット 本研究グループは,開学以来生理学教室の伝統を引き継ぎ,「体性−自律神経反射」に基づく鍼灸・手技療法の効果発現の神経機序をテーマとして,各種器官における反応について実験的研究を継続的に行っている。現在行われている主な研究は,テーマ1.腹部マッサージ様刺激および灸刺激で起きる胃内圧減少反応と発現機序の解明テーマ2.温熱療法及び鍼灸治療による関節血流の変化とその神経性機序の解明。本報告では,「体幹部灸刺激が起こす胃内圧減少反応とその神経性機序」について概説する。 1.はじめに 灸療法は古来より民間療法の一種として親しまれてきた療法である。灸の効果について血圧や末梢循環,白血球や血液凝固系などの変化を確認した報告は多く成されている。しかし,胃運動に対する体性感覚刺激の影響は鍼療法でメカニズムや刺激強度の検討がなされているが,灸療法では同様の報告はない。また,「胃の六つ灸」という療法があるように古来より灸療法が胃腸症状に多用されてきた背景を考えると灸刺激が胃運動に及ぼす影響を検討することは必要と考えられた。そこで,今回は麻酔下ラットで体幹部への灸刺激が胃運動に与える影響を検討する目的で実験を行った。 2.対象と方法 2.1 対象対象は,ウイスター系雄性ラット(体重:230~370g)26匹を用い,吸入麻酔後ウレタンの腹腔内投与により人工呼吸下,体温を一定に保った状態で実験を行いました。(承認番号:26-1)。 2.実験方法と結果 胃運動の測定は,右側腹部を切開し,幽門より約3cm遠位の十二指腸側よりバルーンカテーテル(直径10~15mm)を幽門部に挿入して行った。バルーンには加温した生理的食塩水を注入し加圧した状態でトランスデューサーにより内圧の変化を測定,ADInstrument社製のPowerLabを介して血圧派と同時に記録した。刺激部位はラットの体幹部を上肢・下肢を結んだラインで腹側・背側に分け,それぞれを正中線と平行に2分割,剣状突起,第13肋骨,腸骨稜を指標に3分割し,12部位に分けて検討した。各刺激部位はpと数字で表記した。(図1)また,艾炷を皮膚に密着させる目的であらかじめ刺激部位の体毛をバリカンで切除した後に除毛剤を用いて完全に除去した。灸刺激は,「点灸用もぐさ」10mgを底面直径約5mmに成形し,1刺激につき1壮を燃焼させた。刺激時間の算定は,皮下温にて侵害刺激とされる43℃以上を維持した時間とした。5刺激の皮下温を計測した平均値で43℃以上の持続時間は,点火19秒後から40(±4)秒間だったので,胃運動は,刺激前30秒,刺激中40秒,刺激後30秒の平均内圧を計測し刺激前値と比較した。 図1 灸刺激部位 また神経性機序を検討する目的で,第2,3胸椎間にて脊髄切断および第3胸髄以下の脊髄を破壊して検討を行った。 3.結果 腹側のp1~12の結果です。各部位ごとに棒グラフで示します。グラフの配置は図1左右で示した刺激部位の配置にあわせて表記しています。青のカラムが刺激中40秒間,あかのカラムが刺激後30秒間の刺激前値に対する変化率の平均値を示す。(図2)腹側では胃運動が抑制される傾向が認められましたが,統計学的に有意に抑制されたのはp3でp値0.05%以下の有意な抑制反応が認められました。また腹部正中,中央に位置するp2でもp3.に比較すると反応は小さいもが抑制反応が認められました。背側のp7から12の結果は,平均変化率は10%未満と小さく,胃運動の抑制および亢進の両方の反応を示す部位例が認められ一定の傾向を示しませんでした。さらに,神経性機序を検討する目的で第2・3胸椎間にて脊髄切断を,さらに第3胸椎以下の脊髄を破壊し,有意に抑制反応のでたp3部位への刺激で胃運動の変化を確認した。左が脊髄切断,右が破壊の結果です。青で示されたグラフが刺激中,赤が刺激後の刺激前値に対する変化率を表します。脊髄切断では刺激中に平均10.7(±3.3)%の有意な抑制反応は認められました。脊髄破壊では刺激中,刺激後ともに抑制反応は認められませんでした。 図2 灸刺激前値と比較した胃運動の変化率 図3 脊髄切断および破壊後の胃運動の変化 4.結語 1.麻酔ラット体幹部への灸刺激は下腹部(p3.)で胃運動を有意に抑制した。 2.この反応は脊髄分節性の反射性反応であると考えられた。 5.研究成果の今後発表の予定 第68回日本自律神経学会に報告した,成島朋美等の「麻酔ラット体幹部灸刺激による胃運動抑制反応の神経性機序」が推薦論文と成っているので本報告に内容を含め投稿準備を行っている。