視覚障害者の新たな職域開拓に挑む科学的評価法を用いた伝統的手技療法のエビデンス構築 ─ あん摩術の呼吸器障害に及ぼす基礎的研究 緒方昭広 筑波技術大学 保健科学部 保健学科 キーワード:あん摩,呼吸機能,努力肺活量,1秒率 はじめに あん摩・マッサージ・指圧などの手技療法が広く国民に時代を超えて必要とされていることを鑑みると,医学的に充分な効果があると確信している。しかし,「あん摩術」については本学を始め,特別支援学校(盲学校),あはきの専門学校で使用されている教科書にそのエビデンスの記載を見ることはほとんどない。今回あん摩術の効果を呼吸機能について分析した。慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者は,日本で喫煙者が多いことから約500万人いる。また他の呼吸器障害や愁訴に苦しむ患者も多く存在する。あん摩施術により,呼吸筋を中心とした胸郭周囲の筋緊張を緩和することで,呼吸機能の正常化が図れるものと考えられる。臨床的応用を目指し,その基礎的実験を実施することは,あん摩マッサージ指圧のエビデンス構築に大きく寄与すると考えられる。 【対象および方法】 本学の倫理審査会の了承を得た上で,研究に同意した健常ボランティア10名を対象とし,ランダムに振り分けた。10分間のあん摩施術を行った「あん摩施術群」と施術を行わない場合の「対照群」の2群に分けクロスオーバー法を用い,実験を行った。施術群と対照群の測定日は3日以上あけて測定した。施術後は10分後まで経過を観察した。各パラメータの測定は,FUKUDA DENNSHIの電子式診断用スパイロメータ(SP-370COPD肺Per)を用い,肺活量,努力肺活量,1秒率などを測定した。(結果)1.肺活量(VC)の変化対照群における肺活量は施術直後(無刺激)およびその10分後の測定では減少し,あん摩群では施術後増加し,10分後は施術前に戻る傾向がみられた。 図1 施術前後の肺活量の変化 2. 1秒率(FEV1.0)の変化肺活量(VC)と同様,対照群は安静により減少を示したが,あん摩施術群では施術直後に増加し,施術後10分後は施術前値に回復した。 図2 1秒率(FEV1.0)の変化 【考察とまとめ】 10分間の肩背部および頸部のあん摩施術は,呼吸にかかわる筋群の筋トーヌスを減少(弛緩)させ,その結果肺活量(VC)および1秒率(FEV1.0)を増加させたことが示唆された。このことは,慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺活量,1秒率の低下する呼吸器疾患にあん摩施術が有効である可能性を示唆したものと考えられる。今後は 部位差の検討としては,①頸部,②胸部,③背部に分けてそれぞれその有効性を検討し,最も改善率の高い部位を同定する。