視覚障害学生の英語自主学習支援e-learningシステムの開発3 太田智加子 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター キーワード:視覚障害学生の英語自主学習支援,e-learning 成果の概要 (本文,図表,参照文献等,成果の今後における教育研究上の活用及び予想される効果,成果の学会発表等を含む) 本学保健科学部の視覚障害学生は,視覚障害のために,市販の書籍や学習ソフトをそのままでは利用できないことが多い。いかに良質な墨字教材があっても,テキストデータ化・点訳を待つ間に学習の時宜を逸してしまうことも多い。そのうえ,既存の点字教材は通常文字の教材に比べ,圧倒的に数が少ない。さらに,高等教育段階の視覚障害者向け拡大教材やデジタル教材は,市販のものはない。保健科学部学生は,視覚障害発症に応じて入学してくるため,英語学習歴に大きなばらつきがあり,大学レベルの英語教育を成立させるには,学生の自主学習は欠かせない。申請者は,視覚障害があっても学習機会は晴眼者と同等に担保されるべきという考えにもとづき,大学生として必要な英語力を確実なものにするべく,必要な時に学習の意欲とタイムラグなく学習できる,PCを用いた音声・点字出力が可能なe-learning教材開発をめざしてきた。こうした背景のもと,これまで,視覚障害学生の英語自主学習支援e-learningシステムの開発を行ってきた。これまでの受講登録者数は360名を超えている。今までに,中学・高校文法演習・TOEIC対策・単語集,の3教材を開発することが出来ている。しかし,この種のプログラム開発には多額の予算がかかるため,未だこれら3つの教材開発のみにとどまっている。 本事業は,視覚障害学生の均等な学習機会の担保を目標とし,大学生として必要な英語力を確実なものにするべく,必要な時に学習の意欲とタイムラグなく学習できる,PCを用いた音声・点字出力が可能なe-learning教材開発を目標とした。 平成27年度は,全般的な英語力伸長,英検・TOEIC等の資格試験対策に欠かせない,語彙力増強のための単語集をコンテンツ化した。晴眼者対象のe-learningコンテンツをただ音声ソフトで読むのではなく,全盲学生に実際に学習してもらい,どのような点が使いやすく,どのような点に改善が必要か,意見聴取をし,コンテンツ自体の内容を視覚障害者対応の仕様にカスタマイズした。一般に,語学学習を音声のみで行うには限界があり,身についたつもりでも一通り学習した後にはほとんどを忘却しているという事態の回避を勘案し,単語40個ごとに小テストを挟む内容とした。単語の配列も,レベル1~レベル4まで,重要度の高い順に学習できるようにしたため,英語の苦手な学生や,英検・TOEIC等においてまずは手の届きやすい級・点数を目指す学生は,レベル1から地道に着手していけば良い内容となっている。 サピエ図書館には単語増強用教材はなく,単語集1冊を点訳依頼すると半年程度かかるため,資格試験や就職試験を控えた学生には利用しやすかったと考える。また,通常の単語集を,ルーペ・拡大読書器等を用いて読むことができる学生にとっても,長時間の読書は眼精疲労・身体疲労を伴う。したがって,文字のサイズやレイアウトを自分の見やすい環境に変更し,音声出力も併用できる,PCを用いた本教材開発事業は,非常に有用であったと考える。国内では初めての試みである。  本事業の成果は,今後開発予定の教材とともに,学会発表等で広く公開することによって,日本全国の高等教育機関で学ぶ視覚障害学生が自主的に英語学習を行っていける可能性を拓くきわめて有意義なものであると考える。 参考文献 [1] NISHIYA Koji, The 1500 Core Vocabulary for the TOEIC Test: WORD BOOK, SEIBIDO, 2008. [2] 井上博樹・奥村晴彦・中田平 共著,『Moodle入門:オープンソースで構築するeラーニングシステム』,2006,海文堂.