ワイドダイナミックレンジ電荷情報読み出し電子回路の試作と評価 稲葉 基 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:高エネルギー物理学実験,カロリーメータ,信号読み出し電子回路,ワイドダイナミックレンジ 近年,高エネルギー物理学実験において衝突で生成された粒子のエネルギーを調べる測定器として,大型の半導体検出器を用いたカロリーメータが増えてきた。また,加速器が巨大化するにつれて,観測対象の粒子のエネルギー範囲も広がってきている。質の良い物理実験データを得るためには,十分なエネルギー分解能に加えて,電磁シャワーのピーク値でも測定器本体とその信号読み出し電子回路がいずれも飽和しないことすなわちワイドダイナミックレンジが必要である。 本研究では,MIP(最小イオン化粒子)からそのおよそ5千倍までのエネルギー範囲で93mm角の半導体検出器の特性を調べることを目的に,図1のワイドダイナミックレンジ電荷情報読み出し電子回路の試作と評価をおこなった。プリント基板上に,前段アナログ信号処理回路,入力保護回路,トリガー信号処理回路,アナログ -ディジタル変換回路(ADC)プログラマブル論理デバイス(FPGA),高速差動信号出力,ポート,コンフィギュレーションデバイス,JTAGポート,USBインターフェイス,LED,安定化電源回路等を実装し,半導体検出器の出力信号波形を25ナノ秒ごとにサンプリングして22ビット相当の分解能でディジタル化することができる。 前段アナログ信号処理回路は,数十ピコファラドの容量を持つ半導体検出器に直接接続できて微少電荷量の読み出しが可能な電荷感応型増幅回路と,信号の分配・複製が容易な電流感応型増幅回路を切り替えられるようになっている。また,トリガー信号処理回路は,外部トリガーとセルフトリガーの両方に対応しており,しきい値はUSBインターフェイス経由で変更可能である。読み出したデータには,自動的にそれぞれのトリガー情報等が付加されるようになっている。 FPGAのプログラムは,ハードウェア記述言語で記述し,コンパイルして,JTAGポート経由でコンフィギュレーションデバイスに格納した。 まずは,ファンクション・ジェネレータで発生させたテスト信号を試作回路に印加し,設計通りのダイナミックレンジが得られていることを確認した。 そして,データ収集用パソコンのためのデータ収集・保存・解析プログラムを用意し,実際に宇宙線テストベンチの半導体検出器からの信号を読み出して,外付けハードディスクドライブならびに光学ドライブへのデータ保存と信号波形の再構成をおこなえることを確認した。 今後は,試作回路を用いて高強度レーザ光源による93mm角の半導体検出器の光応答を調べ,すでに得られているビームテストのデータと照合し,結果を日本物理学会年次大会等で報告する予定である。 図1 試作したワイドダイナミックレンジ 電荷情報読み出し電子回路 謝辞 本研究は,国立大学法人筑波技術大学平成 30年度「学長のリーダーシップによる教育研究等高度化推進事業 競争的教育研究プロジェクト事業 産業技術に関する研究」の助成を受けたものである。