タンデム電源方式による多角形微細軸・微細穴同時加工法の開発 谷 貴幸,後藤啓光 筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 キーワード:EDM, Mask plate, Polygonal Microhole 1.諸言 多数穴の同時放電加工法としてマスクプレートを用いた亜鉛合金電極による放電加工法[1]が南らによって提案されている。この加工法は亜鉛合金電極の消耗が非常に大きいことに着目した方法であり,マスクの形状に対応した任意の形状の微細加工が可能である。しかしながら,この方法でより微細な加工を実現するためには,微細形状に対応したマスクの製作が必要となる。そこで本研究では,上述した亜鉛合金の特徴を活用し,亜鉛合金を電極材料として使用する場合の微細軸成形法として図1に示す成形プレート(微細軸成形用銅板)による微細軸の縮小成形法を提案する。図1に示す手法では成形プレートに対し,あらかじめ丸や四角,六角などの目的とする形状加工を施し,このプレートを揺動させながら微細軸成形を行う。この手法では成形プレートを独立して制御するため,微細軸を成形するための成形用銅板を比較的大きく作製することができる。そのため,容易に多角の微細軸を作製することができ,さらに揺動幅を制御することで,任意の軸径の微細電極を作製することが可能となる。これに加え,同図に示したようなタンデム電源方式[2]を用いることで微細軸・微細穴同時加工による連続加工へと拡張できる。本稿では,亜鉛合金電極による加工特性,タンデム電源方式の適用について検討した。 図1 亜鉛合金による異形形状連続穴放電加工法 2.亜鉛合金の加工特性 本方法が実用的に成り立つためには,成形プレートがなるべく消耗しない条件下において,成形される電極の表面粗さが小さく,しかも実用的な加工速度を得る必要がある。亜鉛合金と銅との組み合わせにおける加工特性を把握するために,パルス幅と消耗特性の関係を調査した。図2は送り量を2mmに設定し,φ3mmの突き当て加工を行った場合の銅および亜鉛合金のそれぞれの消耗長さを示している。なお,パルス幅0.2μsはコンデンサ放電(C=4700pF,R=0.5kΩ)により実施し,他の条件はトランジスタ回路(ie=1.2A, D.F.=20%)により行った。亜鉛合金の極性はマイナスとした。この結果から,パルス幅の長い領域においては,銅がほとんど消耗しない結果となった。成形プレートを消耗させないためには,長いパルス幅が適しているが,数十μsに及ぶパルス幅の領域は微細な軸の成形には向かない。このことから,短パルス条件で本方法にとって適切な条件を見出すことを目的として,両極性におけるコンデンサ回路とトランジスタ回路での放電加工特性の比較を行った。これらの放電回路は電気条件で比較することは困難であるため,予備実験によりコンデンサ回路と同程度の加工速度となるようにトランジスタ回路の電流値を調整した。この条件で加工特性を比較した結果を図3に示す。なお,ZAPRECの加工速度は「電極成形速度」とし,成形プレート(Cu)の消耗率は「成形プレート消耗率」とした。コンデンサでは,ZAPRECを+とした方が電極成形速度は速く,逆にトランジスタではZAPRECを-とした場合に速度が速くなる傾向を示した。両条件とも成形プレート消耗率は数%程度であるが,表面粗さはトランジスタ回路の方が良好であった。この結果から,本実験条件の範囲内においては,トランジスタ放電が電極製作に適していると考えられる。一方,コンデンサ放電において,ZAPRECを-とした場合にCuの消耗が大きい。ZAPRECを電極として穴加工を実施する場合には,この条件が適しているといえる。 図2 パルス幅と消耗特性の関係 図3 電気条件による加工特性の比較 3.成形プレートの製作および縮小成形例 図1は縮小成形法を模式的に示したものであり,実際に成形プレートに対してコーナーRの極めて小さな四角,六角形の穴加工は容易ではない。そこで,本研究では,揺動運動を付与することを前提として,四角形状の電極を成形するために図4に示すような成形プレートを作成した。ワイヤカット放電加工を用いれば,比較的厚いプレートに対しても,この形状を容易に製作できる。また,同図には成形プレートを円揺動させたときのプレートの軌跡を示す。円揺動によって,四角形状がそのまま縮小されていることが分かる。このことから,揺動運動を前提として成形プレートを設計すれば,比較的容易な方法によって製作が可能となる。また,円揺動によって多角形の縮小が可能であり,揺動半径のみで縮小量を決定することができる。2節で得られた条件(トランジスタ回路,ie=0.8A, te=2μs,to=8μs,ZAPREC:-)において成形プレートに対して円揺動を付与し,φ3mm電極から□500μm程度の形状に成形した例を図5に示す。また,図6には成形する電極サイズの目標値に対する誤差を示す。電極の大きさに関わらず,数μm程度の誤差が生じた。このため,電極サイズが小さくなると相対誤差は大きくなると考えられる。よって,より小さいサイズの電極の製作に対応するためには,電極成形速度,プレートの消耗を考慮して所望する電極サイズに応じた電気条件を検討する必要がある。 図4 円揺動による縮小成形 図5 500μm角に縮小成形した亜鉛合金電極 4.亜鉛合金による微細加工特性 2節において,コンデンサ放電においては,ZAPRECを-とした場合にCuの消耗がかなり大きくなることを示した。この条件下でZAPRECを電極として,コンデンサ容量が加工速度および消耗特性に及ぼす影響を検討した。図7に各コンデンサ容量における加工速度および電極消耗長さを示す。電極サイズは□500μmであり,被加工物はタングステン(t=0.2mm)である。また,同図には,比較として電極に銅を用いた場合も併せて示した(C=9400pF)。加工速度はコンデンサ容量が小さくなるに伴って低下し,電極消耗長さは大きくなる傾向を示した。コンデンサ容量9400pFの条件では,0.2mmのタングステンを貫通するために要した電極長さは,2mm程度であった。この条件はコンデンサ放電としては荒加工に相当するが,ある程度容量を大きくすることで消耗を抑制できることが明らかとなった。一方,銅電極との比較では,消耗はかなり大きいが,加工速度は速い。銅電極およびZAPREC電極での加工時の放電波形を図8に示す。ZAPREC電極を用いた場合に放電頻度が高くなっており,これによって加工速度が向上したと考えられる。一般的に微細加工では,放電面積が小さいために放電頻度が低くなりやすい。ZAPREC電極は, 消耗が大きいため,極間に加工屑が滞留し,これが放電の起点となって頻度が向上したと考えられる。図9に電極面積と消耗長さの関係を示す。電極面積が比較的大きい場合には,一定の消耗量であるが,電極面積が小さくなると消耗量が急激に大きくなる。面積が小さくなったために,熱抵抗が大きくなったことが原因と考えられる。この結果は,軸が微細になると,より長い突き出しが必要となることを示している。微細な軸の成形では,コンデンサ容量を小さくするなどの対応が必要であるが,電極成形速度も低下する。微細化に向けては,電極材料の選択も含めた検討が必要となる。 図6 成形電極サイズの目標値に対する誤差 図7 コンデンサ容量が加工速度と電極消耗長さに及ぼす影響 図8 放電波形の比較 (a)Cu電極による加工 (b)ZAPREC電極による加工 図9 電極面積を消耗長さの関係 5.亜鉛合金による微細加工特性 これまで得られた条件から,図10に示したタンデム電源を構成し,微細軸・微細穴同時加工を実施した。図11にタングステンプレート(t=0.2mm)に対して六角形状の穴加工を行った結果を示す。この結果から,タンデム電源方式で微細な多角形形状の穴加工が可能であることが確認された。この場合の電極消耗長さは1.3mmで,加工時間 は135秒であった。六角形状であっても四角形状と同様に円揺動によって電極の縮小成形は可能であり,この方式によって多角形形状の加工に適応できることが示された。このシステム構成により連続加工を実施した。貫通加工の終了は,加工物の下部に設置したダミーワークへの加工電流の検出によって判断した。なお,加工物とダミーワークの間隔は2mmとした。図12に四角形状を連続的穴加工した結果を示す。図に示すように,□300μm程度の四角形状を連続的に加工することが可能であった。 図10 タンデム型微細加工の電源構成 図11 タンデム電源による六角形状加工 (a)成形プレート (b)六角形形状穴加工例 図12 タンデム電源方式による四角形状穴連続加工 6.結言 揺動プレートによる微細軸の縮小成形法を提案し,その適用の可能性について検討した。電極の成形およびZAPREC電極による加工に適した条件が存在し,これに対応したタンデム電源方式により,微細軸・微細穴同時加工が可能であることが確認された。また,連続的な加工に拡張できることも明らかとなった。 参考文献[1] 南,増井,塚原,萩野,第5回生産加工・工作機械部門講演会論文集(2004)297.[2] 許,増沢,藤野:電気加工学会誌,Vol.35,No.80, (2001), pp.21-29.