重度視覚障害者自身による描画作業の電子化 小林 真 筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 キーワード:重度視覚障害者,描画作業,ドローイングキット,立体コピー 1.はじめに 運動や数学など様々な学習の場面において,図を用いた説明や理解は欠かせない。触知能力の差こそあれ,重度視覚障害者にとって触図は概念の理解の手助けになっている。そして彼らが自ら描画するには,特殊な紙にボールペンなどを用いて引っ掻き傷のような盛り上がりを生成する「レーズライタ」を用いることが一般的である。しかし,レーズライタは一旦描いてしまうと消せないため,描きなおしが不可能である。そこでこの問題を解決するため,著者は共同研究者とともに点図ディスプレイとペンデバイスを組み合わせた「電子レーズライタ」を開発した経験がある[1]。一方で近年,手軽な視覚障害者向けの描画ツール,Lensen Drawing Kitがタイ王国の企業により販売されている[2]。これは巻き取られた毛糸を繰り出すペン状の機器と,毛糸が程よく定着するマジックテープのようなシートとで構成される描画教材である。シートの面は黒色であり,毛糸は黄色やピンクといった明るい色を用いることで弱視ユーザにも見やすい線画を描くことができる。またペン先には刃がついているため毛糸を任意の長さで切ることができる。そして,毛糸をはがすことで容易に描きなおしが可能となっている。しかし,このドローイングキットは視覚障害者自身が線画を描くことは出来るが,アナログデバイスなため,当然ながら作成した図を保存したり複製したりすることは出来ない。そこで,作成した図をカメラで撮影して電子データとして保存し,画像処理を施した後に立体コピーで生成するシステムを構築し,重度視覚障害者自身による描画結果の保存と複製が可能な環境の構築を試みた。 2.システム構成 システムは,前述のLensen Drawing Kitと,ウェブカメラ,アームと三脚,コンピュータから構成される。図1にLensen Drawing Kitを撮影するウェブカメラとアーム・三脚の外観を示す。ソフトウェアはOpenCVを用いて作成した。処理としてはまずキャプチャされた画像を256階調のグレー画像にした後に閾値200で二値化し,反転する。そしてmorphologyEx関数を用いて縮小処理,拡大処理,縮小処理を行い,ノイズ状の毛糸部分を削除しつつ,細目の線に仕上げる。その画像を立体コピー用紙に印刷し,熱処理を加えて膨らませる。 図1 ウェブカメラとアーム・三脚の外観 3.結果例 図2に結果例を示す。順に(a)Lensen Drawing Kitによる描画,(b)画像処理結果,(c)立体コピー,である。この図はX軸とY軸の部分を用意したうえで,ご自身が重度の視覚障害をお持ちである日本大学短期大学部の山口雄仁教授に描いて頂いた「正弦波」である。 4.まとめ 重度視覚障害者自身による描画作業の作品の電子化を目的として,システムを試作した。単純な処理故に現状では利点が明確ではないが,今後各種画像処理手法を組み込み,綺麗な直線に変換したり,色情報をもとに点線に変換したりする機能を実現することで,実用的なシステムへと発展できると考えている。 図2 結果例.(a)lensen drawing kitによる描画,(b)画像処理結果,(c)立体コピーで生成された図 (a) (b) (c) 謝辞 Lensen Drawing Kitによる描画を快く引き受けて下さった山口雄仁教授に感謝いたします。また,本研究は筑波技術大学競争的教育研究プロジェクト事業として実施しました。 参考文献 [1] 渡辺哲也,小林真.視覚障害者用電子レーズライタの試作.日本バーチャルリアリティ学会論文誌,2002; 7(1), p.87-94. [2] Lensen – KlongDinsor. http://www.klongdinsor.com/lensen/ (cited in 2016-4-1)