パソコン再生プロジェクト まだ使えませんか? 村上佳久 筑波技術大学 障害者高等教育研究支援センター 障害者基礎教育研究部 要旨:廃棄処分される教育用情報機器は,部品の再生と部品の追加,新しいOSの導入などにより,再生することが可能である。リサイクル・リユースと言った概念から,業務別に再生することを目的として,パソコン再生プロジェクトを実施した。その結果,6年前のパソコンでは,部品交換により最新のパソコンと同等の性能を確保でき,10年前のパソコンでもある程度の性能を確保することが可能で,教育用情報機器として十分活用することが可能であった。このことから,長期間運用を前提とした情報機器導入を検討すれば,安価な対費用効果の高いシステムが運用できることが指摘された。 キーワード:パソコン再生,リサイクル,リユース,総所有コスト 1.はじめに 筑波技術大学の春日地区では,平成28年の6月下旬の廃棄物を搬出する日に,各部門から多数の廃棄物が出されるが,その中でもパソコン類は多い部類に達する。通常,5年程度利用したパソコン類は,更新されるのが一般的であるが,中には,廃棄するにはもったいないと思うような状態の美品もある。そこで,パソコン再生プロジェクトと題して,廃棄されたパソコンを現在の最新のOSであるWindows 10を導入したパソコンに再生する試みをおこなったので報告する。 2.パソコンの寿命 パソコンの寿命とは何であろうか。ここでは,ハードウェアやソフトウェアの寿命について検討する。 2.1 ハードウェアのチェックパソコンのハードウェアの各部の状況を精査する。 2.1.1 HDDのチェックHDDにはSMART情報と呼ばれる,チェック機能がある。HDDの健康状態を知る上で重要な情報で,HDDの制御IC等のデータを参照するものである。SMART情報を利用すると,HDDがどのような状態で稼働していたかの推定を行うことが可能で,ひいてはパソコンの稼働状況が推察できる。[1] 2.1.2 メモリのチェックWindows Vistaや7には,標準で搭載されたメモリ診断機能がある。また,Windows Xpには,Microsoft オンライン クラッシュ ダンプ解析サービスソフトが公開されている。これらの機能やソフトウェアを利用して,メインメモリの診断を行い,不良品を選別する事が可能である。 2.1.3 電源のチェック最も不良が出やすいのが電源部分である。電源不良を引き起こす最大の要因は,使用環境温度である。常に高温の状態で動作していると,コンデンサなどの経時劣化する部品が真っ先に不良となる。温度状態や使用環境温度は,HDDのSMART情報から推察できるので,電源部分では,コンデンサなどの膨張などを目視チェックし,負荷テストを実施して,所定の性能を確認する。 2.1.4 光学ディスクCD-ROMやDVDドライブなどの光学ドライブの寿命はどうであろうか。実際に読み書きができれば問題ないので,読み書きするためのピックアップのゴミやほこりが,最大の要因である。エアーブラシなどで,きれいにほこりを取り除き,動作確認を行うことで不良品を選別する。 2.1.5 CPU(Central Processing Unit)パソコンの心臓部分ともいえるCPUは,サーバのように24時間連続稼働させていない限り,壊れることはまずない。問題は,CPUを冷却するCPUクーラーの不良である。マザーボードに取り付けられているCPUを一旦取り外し,クーラーとCPUの間のシリコングリスをきれいに清掃後,再度塗布し組み立て直した後に動作確認を行う。 2.1.6 GPU(Graphic Processing Unit)画面表示機能を担当するGPUであるが,一般事務用のパソコンにおいて,GPUであるグラフィックボードが導入されている場合はほとんどない。これは,チップセットやCPU内蔵のグラフィック機能を利用する場合が多いからである。最新のOSであるWindows10を導入する場合は,最低限度の解像度が必要であり,見合ったGPUに交換する必要がある。特に数年前の低速なCPUであっても,GPUによって補うことがある程度可能である。 2.1.7 ディスプレイ近年のディスプレイの多くが,バックライト方式の液晶ディスプレイである。この方式のディスプレイの故障の多くが,バックライト蛍光灯の不良である。一部の高級品には,色調を変更できる機種もあるが,ビジネスや文教向けには,安価な両サイドに蛍光灯やLEDを縦に入れ,拡散パネルでバックライトとするものである。このような機種の場合,画面が映らない原因のほとんどが,この部品の寿命か不良である。バックライト故障の場合は,光を当てて液晶自体の変化を見れば判別できる。場合により,交換する。 2.2 ソフトウェアのチェックソフトウェアの寿命とは何であろうか。よく,WindowsやMacintosh OSの導入されたパソコンなどでは,OSのサポート停止と言うことで,買い換えを喚起することが多い。例えば,WindowsのOSであった,"Windows Xp"は,2001年10月にリリースされ,2014年の4月にサポートが終了したとされている。しかし,今現在でもWindows Xpパソコンは購入可能である。Windows XP Embeddedやその後継であるWindows Embedded Standard 2009は,基本的にWindows Xp SP3なので,2019年までサポートされる。これらは基本的に機器組み込み型なのでハードウェアとソフトウェア合わせて販売されるため,一般オフィス向けではないが,業務用ソフトウェアなど,特定のOSしか動かないようなビジネスユース向けである。このような特殊な例以外は,基本的にOSのサポート停止を寿命と見なす。しかし,これらは,インターネットなどの環境に接続しての場合であり,ネットに接続しないのであれば,ハードウェアが壊れるまで使い続けることは可能である。パソコンを購入する際に様々なソフトウェアをアシュアランス契約(SA)しておけば,OSを延長して使用することやバージョンアップなどが可能である。[2]しかし,OSやOfficeソフトウェアを本学でもSA契約することは,ほとんどない。したがって,パソコンの寿命と共に,その都度OSを変更する対応となる。 3.パソコンの寿命を延ばすには 3.1 ハードウェアの整備基本となるハードウェアを整備する。2-1を基にして各部の部品をチェックし,場合によっては部品交換を行う。部品交換の対象となるのは次の4つである。(1):メモリ増設(2):グラフィックボード(3):HDD → SSD(4):ディスプレイ(1)→(4)の順に重要度を示す。 例えば,2001年10月にリリースされたWindows Xpは,視覚障害者が安定的に画面読み合成音声ソフトを利用して運用するためには,経験的に,メモリ1GBが必要であったが,現在最新のWindows 10では,4GBのメモリが必要である。したがって,パソコン本体で,4GBのメモリ構成できるかどうかが,パソコン再生の第一歩である。次に重要なのが,グラフィックボードである。Windows Xp発売時には,800×600のSVGA規格の画面解像度が求められたが,2016年現在,パソコン用グラフィックスは,DirectX 9.0以降がサポートされるため,15年以上前のグラフィック機能が現在の規格に対して合致しないため,必然的に新しいグラフィックボードを導入することとなる。HDDは,必ずしも交換する必要はないが,SSDのほうが高速なので,パソコンが低速と感じる場合は,HDDからSSDへ交換するのもよい。対応させる業務内容により,変更を考慮するとよい。ディスプレイは,不良でない限り使い続けても問題はない。但し,グラフィックボードが新規導入されるため,画面解像度も大きくなるので場合によって,ディスプレイを交換することも検討する。 3.2 実際の整備6月末の廃棄処分の日に数台のパソコンを回収して精査し,10数台中から何台かを再生して実際に運用することと 図1 廃棄されたパソコン類 した。廃棄されているパソコンの様子を図1に示す。回収したパソコンは数種類あるが,#1として,10年前に図書館の電子図書閲覧室に導入されていた,DELL Optiplex GX620を2台と,#2として,6年前まで図書館で利用されていた,DELL Studio Slim D540Sを2台再生することとした。それぞれのスペックを表1に示す。 表1 回収パソコンのスペック 項目CPU RAMGPUHDDOS#1 GX620Pentium D9303GHz 2Core1GB(DDR2)945 Chipset120GBWindows Xp#2 Studio Slim 540sCore2 Quad Q83002.5GHz 4Core4GB(DDR3)Radeon HD4350500GBWindows Vista/7 #1のパソコンは10年前のパソコンであり,パソコン本体から各部品を取り出し,それぞれのパーツに分けて利用可能かどうかの性能チェックを行った。(1)清掃全パーツを取出し,エアーブラシで埃などを吹き飛ばし,清掃する。(2)コネクタチェック各部のコネクタが正常かどうかのチェックを行う。(3)各部品のチェックメモリやHDD,CPUや電源などの寿命や性能チェックについて,信頼性試験も含めて実施。(4)再生の部品CPUの性能が非常に低いため,SSDやGPUを導入しても十分なパフォーマンスが得られないことが予想されるため,ワープロや点訳作業などあまり負荷の大きくない業務向けに利用することとし,HDDはそのまま利用し,グラフィックス担当の945 Chipsetでは,Windows 10に対応できないため,GPUのみ新規導入することとした。メモリは4枚利用可能なので,廃棄されたパソコン数台からメモリを調達し,チェックの上,4枚を確保。HDDはチェックの結果,利用可能なのでそのまま利用。このパソコンではビジネス向けのため電源容量が大きくない。従って,GPUも低消費電力型のnDIVIA GT710を新規購入。再生の様子を図2に示す。#2のパソコンは,6年前のものであり,CPUの能力も比較的高いため,一般的な業務にも利用できると判断し,HDDをSSDに交換し,GPUも交換して対応することとした。GPUは,これも電源容量の問題から,nDIVIA GT710とした。メモリは4枚内蔵可能のため,4GB分を新規購入し,追加することでパフォーマンスを確保することとした。再生中の様子を図3に示す。 図2 再生中の様子(GT710に交換) 図3 メモリ増設の様子 3.3 再生後の性能再生後のスペックを表2に,比較のため最新部品の自作パソコンのスペックを表3に示す。 表2 再生したパソコンのスペック 項目CPU GPURAMHDDOS#1 再生後Pentium D9303GHz 2CorenDIVIA GT7104GB(DDR2)120GBWindows 10#2 再生後Core2 Quad Q83002.5GHz 4CorenDIVIA GT7108GB(DDR3)120GB SSDWindows 10 表2 最新部品の自作パソコンのスペック 項目CPU GPURAMHDDOS#3 最新自作Core i3-6100T3.2GHz 2CoreIntel HD53016GB(DDR4)120GB SSDWindows 10#4 最新自作Core i5-65003.6GHz 4CoreIntel HD53016GB(DDR4)120GB SSDWindows 10 これらの性能をチェックするため,Windows システム評価ツール(WinSAT)で比較・検証を行った。このツールは,CPUやGPUの性能,ディスクのパフォーマンスなどを数値化するツールで,Windowsに標準搭載されている。再生前と再生後の数値と最新部品の自作の数値を表4に示す。 表4 回収パソコンのスペック ScoreMemCPUGPUsDisk← #2再生7.2(DDR3)7.24.9(GT710)7.1(SSD)Core2 Quad7.2(DDR3)7.23.5(HD4350)5.9(HDD)← #1再生5.3(DDR2)5.25.1(GT710)5.7(HDD)PentiumD9305.3(DDR2)5.23.1(945 CS)5.7(HDD) 表5 最新部品による自作パソコンのスペック ScoreMemCPUGPUsDiskCore i5-65008.1(DDR4)86.8(Intel 530)8(SSD)Core i3-6100T7.6(DDR4)7.64.6(Intel 530)8.1(SSD) 表4と5から,再生した#2のパソコンが,最新のIntel Core i3-6100Tを搭載したパソコンに匹敵する性能が得られていることがわかる。実際に利用しても,ストレスなく運用でき,Blu-Ray Videoのような非常に負荷の大きなものでも問題なく低負荷で再生する。一方で,CPUの性能が著しく劣る#1のパソコンでは,HDDをSSDに交換するとある程度の性能向上は得られるが,CPUの基本的性能が低いため,ワープロや点訳作業の校正用などの実務作業用として運用することとした。しかしGPUを交換したことにより,DVD Videoの再生も問題なく行えるので,事務作業以外に本学学生の利用にも事実上問題はない。メモリが4GBでも動作する,Windows10 OSの利便性と実用性を実証したものとなった。 3.4 再生にかかるコスト今回の事例で,掛ったコストを算出する。GPUである,nDIVIA GT710は,秋葉原のパソコン店で購入したが,平均購入価格が,¥5,000(税込み)であり,SSDも¥5,040(税込み),メモリ(DDR3)4GBが,¥4,060(税込み)であった。従って,#1の再生コストは,GPUの¥5,000であり,#2の再生コストは,¥14,100であった。なお,#2のOS代は,内蔵していたHDDから直接Windows 10にアップデートしてから,SSDにメディア変換したもので,無償アップデートである。#1のOS代は,筆者のMicrosoft社のライセンス契約によるアカウントを利用した。2.2でも述べたが,OSに関して,SA契約を行っておくと,契約中はOSの変更が可能である。8年程度の運用を考慮すると,OSは1~2回の変更があるため,SA契約は不可避と思われる。また,パソコンを新規購入する際には,メモリの増設やGPUの増設などを見越して,機種を選択する必要がある事は,指摘するまでもない。この様な発想に基づいた新たなパソコン運用を検討すると,パソコン導入2回分のコストを1.4回分程度で賄うことが可能となり,総保有コスト(TCO :Total Cost Ownership)の削減に寄与する。 4.再生から見えてきたパソコンの運用 この再生プロジェクトから見えてきたものは,パソコンの新しい運用の方法である。従来は,4~5年の運用で,陳腐化という名目により機器更新を行ってきたが,今回の事例を見てわかるように,7~8年の運用も可能である。その場合,4年を経過した段階で,各部品のチェックを行い,場合によってはメモリの増設やGPUの交換を行って,最新のOSに変更することである。この様な改良を行うと,一部ソフトウェアが利用できなくなる可能性がある。例えば,視覚障害補償に欠かせない画面読み合成音声ソフトや画面拡大ソフト等である。しかしながら,OSの変更に伴い対応できないソフトウェアは,バージョンアップで対応することにより,新規購入よりも安価でソフトウェアを導入することが可能となる。その都度,新しいソフトウェアを購入するよりかは,バージョンアップしていくほうが,TCO削減にもつながる。最大の問題は,作業にかかるコストである。今回は筆者が全て行ったが,バージョンアップの作業時間とソフトウェアやハードウェアの様々な技術的問題点の検証と解決方法などである。この時間的問題と技術的問題をクリアできれば,様々なノウハウが得られ,視覚障害向けの補償機器の運用管理に不可欠な知識が得られる。全て業者任せにすると,PCを活用した視覚障害補償に対する十分な知見が得られないばかりか,他大学や盲学校等からの視覚障害補償に関する技術的相談にも対応できなくなる。[3][4] 5.おわりに 今回の廃棄された場所をよく見ると,まだ活用できると思われるパソコンや拡大読書器などが多数廃棄されていた。今回の検証で回収したパソコン以外に,学生が回収したパソコンも多数あり,今回の検証方法を適応して,数台が再生され,学生の元に渡った。中には,古いOSやOfficeソフトなども廃棄されていたので,流用したものもある。例えば,Windows 8.1にOffice Xpの組み合わせもあった。これら廃棄されていたパソコン類の実際の稼働時間をSMARTにより検証したが,稼働時間はあまり長くなく,4~5年と言う年数や陳腐化という名目だけで廃棄されるのは,あまりにも無駄が多いように感じさせられる。本来,学生の教育用そして運用されてきた教育用パソコンは,学習のための重要なシステムである。このような視覚障害を補償する機器の保守・管理・運用はきわめて重要であり,運用管理者の管理能力が問われるが,本学では,誰が責任を持って運用しているのかと言うことが不明確なシステムも数多く,そのことが,短時間で廃棄される機器の増加を招いているのでは,ないだろうか。 参照文献[1] 村上佳久.教育用情報機器のリサイクル・リユース.筑波技術大学テクノレポート.2012; 19(2): p.49-54.[2] 村上佳久.学習支援システムにおけるコストダウンの試み.筑波技術大学テクノレポート.2007; 14(2): p.269-274.[3] 村上佳久.視覚障害者の学習環境に関するアンケート調査.筑波技術大学テクノレポート.2008; 15(2): p.49-55.[4] 村上佳久.新しいOSに対する視覚障害補償 その2.筑波技術大学テクノレポート.2008; 15(2): p.43-47. Computer Restoration Project: The Computer Still Cannot be Used MURAKAMI Yoshihisa Research and Support Center on Higher Education for the Hearing and Visually Impaired,General Education Practice Section for the Visually Impaired, Tsukuba University of Technology Abstract: A disposed computer was revived through the introduction of selecting components and adding a new OS. The PC was purchased six years ago, and with latest performance, it ensured replacement parts. In addition, the PC was purchased a decade ago for use as educational equipment. Furthermore, a low-cost, cost-effective system could be useful in the long run if sufficiently considered during the planning stage for an education information appliance. Keywords: Recycle, Reuse, Cost-effectiveness