WFAS Tokyo/Tsukuba 2016 “Tsukuba University of Technology,Center for Integrative Medicine Tour”の報告 櫻庭 陽 1),福島正也 1),近藤 宏 2),笹岡知子 2),佐々木健 2),形井秀一 2) 筑波技術大学 保健科学部 附属東西医学統合医療センター 1)筑波技術大学 保健科学部 保健学科 鍼灸学専攻 2) 要旨:2016年11月5日(土),6日(日),鍼灸の国際学会であるWFAS Tokyo/Tsukuba 2016がつくば国際会議場で開催された。大会のオプショナルツアーとして,筑波技術大学東西医学統合医療センターの見学ツアーを実施した。ツアーの目的は,視覚障がい者の高等教育機関である本学と東西の医学を統合した統合医療を実践している本センター,そして日本鍼灸の啓蒙である。はじめに,本学と本センターの概要を説明した後,施設の見学を実施した。次に,神経や筋を対象とした低周波鍼通電療法のデモンストレーションを行い,最後に管鍼法と半米粒大の灸を体験した。中国やシンガポールのアジア圏をはじめ,フランスやアメリカ,カナダなどから33名が参加し,本学及び本センターと日本鍼灸に対する理解を深めた。 キーワード:WFAS Tokyo / Tsukuba 2016,東西医学統合医療センター,オプショナルツアー 1.はじめに The World Federation of Acupuncture - Moxibustion Societies(世界鍼灸学会連合会,以下WFAS)は1987年に設立された世界の鍼灸関係の学術団体が加盟している国際的な組織である。WFASには,世界の53の国と地域から178団体が加盟し,日本からは公益社団法人全日本鍼灸学会,日本伝統鍼灸学会などが加盟している。主な目的は,鍼灸の国際的な学術交流を深め,世界各地の鍼灸団体間の理解と協力を促進することであり,毎年実施している学術大会には多数の国から多くの参加者があり,鍼灸関連の世界大会としては最もグローバルな学会の一つである。平成28年度のWFAS学術大会は「WFAS Tokyo/Tsukuba 2016」として23年ぶりに日本で開催され,つくば国際会議場がメイン会場となった。開催に伴い,本学施設を世界へ向けて発信するため,大会のオプショナルツアーとして東西医学統合医療センターの見学ツアーを実施したので報告する。 2.WFAS Tokyo / Tsukuba 2016の概要 ・会 期:11月5日(土),6日(日) ・会 場:つくば国際会議場(茨城県つくば市) ・主 催:全日本鍼灸学会,日本伝統鍼灸学会 ・参加者:32の国と地域,1733名 3.ツアーの概要 ・名 称:WFAS Tokyo/Tsukuba 2016 optional tour, Tsukuba University Of Technology, Center for Integrative Medicine Tour ・テーマ:日本鍼灸の臨床と教育を感じる・概 要:ツアーでは見学と体験を通して,日本鍼灸の実際や視覚障がい者への鍼灸教育,日本における東西の医学を統合した医療(東西統合医療)に触れる。 ・日 時:2016年11月6日(日)    1回目 11:00~12:30,2回目 13:00~14:30    ※同一内容で2回実施。 ・定 員:各30名    ※当初,定員は各20名としていたが,多数の応募があったため10名増員した。 ・申 込:事前申し込みは電子メール,大会期間中は会場内に設置した受付ブースで行った。先着順として,予定数に達したら終了とした。 ・費 用:無料     ※国際会議場と本学間の移動は,シャトルバス を用意した。 ・企画担当者: 形井秀一(大会筆頭副会頭,保健学科鍼灸学専攻       教授) 櫻庭 陽(東西医学統合医療センター 准教授) 福島正也(東西医学統合医療センター 助教) 近藤 宏(保健学科鍼灸学専攻 助教) 笹岡知子(保健学科鍼灸学専攻 助教)・運営スタッフ: 松下昌之助(東西医学統合医療センター長,教授) 櫻庭 陽(東西医学統合医療センター 准教授) 福島正也(東西医学統合医療センター 助教) 木村典子(施術部門 受付) 上杉 大(大会ボランティア,本学学生) 秋永陽香(大会ボランティア,本センター研修生) 飯田 藍(大会ボランティア,本センター研修生) 栗本尚徳(大会ボランティア,本センター研修生) 白石一博(大会ボランティア,本センター研修生) 田中英男(大会ボランティア,本センター研修生) 根本美咲(大会ボランティア,本センター研修生) 福岡彩音(大会ボランティア,本センター研修生) 堀田直哉(大会ボランティア,本センター研修生) 黛 隆文(大会ボランティア,本センター研修生) 渡部みなみ(大会ボランティア,本センター研修生) ・スケジュール:下表1に示す。 表 1 一日のスケジュール 10:45 1回目 国際会議場 発 11:00 本学東西医学統合医療センター 着 11:05 ツアー 開始 12:20 ツアー 終了 12:25 本学東西医学統合医療センター 発 12:40 国際会議場 着 12:45 2回目 国際会議場 発 13:00 本学東西医学統合医療センター 着 13:05 ツアー 開始 14:20 ツアー 終了 14:25 本学東西医学統合医療センター 発 14:40 国際会議場 着 4.実施結果 (1)参加者数および参加国と地域 ・エントリー数:計45名 1回目:25名,2回目:20名・参加者数:計33名 1回目:16名,2回目:17名・参加国と地域  中国,フランス,ブラジル,アメリカ,カナダ, シンガポール,台湾,日本など※申込時に国籍や居住国は聴取していないため,当日 の会話のなかで把握できた分を示す。 (2)内容 ツアーの具体的な内容を表2に示す。また,ツアーは同様の内容を2回実施した。 表 2 ツアーの内容 1回目 2回目  内容 所要時間(分) 11:05 13:05 到着 11:10 13:10 センター長の挨拶 5 11:15 13:15 ツアー・本学・本センターの概要説明 10 11:25 13:25 本センター 施設見学 10 11:45 13:45 神経・筋パルス デモンストレーション 20 12:05 14:05 実技体験(管針法,半米粒灸) 15 12:20 14:20 終了 ① 挨拶ツアー開催にあたり,松下昌之助 東西医学統合医療センター長が歓迎の挨拶を行った。 ② ツアーの概要説明 ③ 筑波技術大学の概要説明大学概要を参照しながら,本学が聴覚,視覚障がい者のための高等教育機関(大学)であること,春日キャンパスには鍼灸学専攻,理学療法学専攻,情報システム学科があり,視覚障がい者が学んでいることを中心に,本学の概要を説明した。 ④ 東西医学統合医療センターの概要説明今回のツアーを実施するにあたり,本センターを世界へ向けて発信するため,英語版のパンフレットを作成した(図1-1, 1-2)。これらを参照しながら,当センターの役割(教育,研究,地域医療への貢献)や東西医学を統合した医療の具体的なシステム,および患者の状況などを説明した。 図1-1 パンフレット(左;表紙,右;裏表紙) 図1-2 パンフレット(見開き) ⑤ 東西医学統合医療センターの施設見学セキュリティーの観点から,診察室や薬局,検査室等に入室できないため,事前に室内の様子や検査機器等を撮影,印刷した写真を入口に掲示した。これらの写真に簡単な説明を加えながら施設見学を実施した。また,鍼灸あん摩マッサージ指圧を行う施術室は,実際に入室してもらい,器具や患者の流れなどを説明した。 図2 施設見学の様子 ・神経パルス,筋パルス デモンストレーション日本で広く普及していて,当センターの鍼治療でよく利用されている神経・筋に対する低周波鍼通電療法(神経・筋パルス)のデモンストレーションを行った[1,2]。この方法は海外ではあまり広まっていないことから,参加者は興味深く見学していた。このとき,視覚障がい者への鍼灸教育を紹介するという観点から,本学卒業生で研修生でもある栗本尚徳さんに施術を行ってもらい,教員の福島正也助教がそれを指示,指導するかたちで補いながらデモンストレーションを実施した。・実技体験日本における鍼治療は,鍼管というガイドチューブを用いて鍼を刺入する管鍼法が中心である。また,使用する鍼は中国等で利用されているものより,はるかに細い。この方法は,視覚障がい者が,細い鍼を用いて施術を行う際に,安全・簡単にできる点で優れており,日本独自の方法である。また,灸治療はヨモギを原料としたもぐさを半米粒サイズ(米粒の半分の大きさ)にひねり,それを経穴等へ数回繰り返して施灸する。この方法もまた,他国ではほとんどみられない方法である。本ツアーは日本鍼灸を実際に体験してもらうことを目的の一つとしていることから,これらを参加者にやってもらった。鍼は日本製のディスポーサブル鍼を用い,片手挿管法でタオルへ刺入してもらった。参加者の多くは片手挿管が初めてだったようで,慣れない手つきで真剣に取り組んでいた。また,半米粒大の灸もまた,ほとんどの参加者が未経験であった。自身でもぐさを半米粒のサイズにひねるのだが,やはり経験が無かったためかサイズが大きくなってしまった。さらに,線香を用いて自身で着火してもらうことで,刺激の感覚を経験してもらった。怖がる者もいたが,実際にやってみると思ったより弱い刺激であったようで,初めての経験に感激していた。お灸は大きさのみならず,ひねりの強さや円錐の形状などが刺激の強弱や感じ方を左右することを伝えると,その奥深さに感嘆していた。 図3 デモンストレーションの様子 図4 参加者との記念撮影 5.最後に 本ツアーを通して,参加者の本学や東西医学統合医療センターに対する理解がすすんだと考える。今後,このような機会を設けて,国内外へ向けて積極的にアピールすることはとても重要なことだと考える。さらに,研修生が参加できたことも教育上,有益な効果をもたらしたと考えている。他国の同業の方々とのコミュニケーションを通じて,世界の鍼灸の状況を肌で感じると共に,日本と世界の違いに気づけることは,当センターの日常の研修だけでは学べないことである。鍼灸あん摩マッサージ指圧の卒後研修施設として,世界を視野に入れた取り組みは今後必要となるだろう。問題点としては,言語によるコミュニケーションにあると考えている。鍼灸という共通の知識があるため,簡単なコミュニケーションでは大きな問題とならないが,物事の詳細を伝える際には,やはりある程度の語学力が必要であると感じた。研修生を含め,大学として語学が学べる環境作りが必要だと思う。さらに,見学に際してどのような立場の人たちで,具体的にどのようなことに興味・関心があるかをあらかじめ確認しておくことで,円滑で効果的なプログラムや対応方法を検討しやすいと感じた。 参照文献 [1] 矢野忠.鍼灸療法技術ガイドⅠ, 第1版.文光堂(東京), 2012. [2] 山口眞二郎.鍼通電療法テクニック,第4版.医道の日本(神奈川),2016. Report on a Tour of Center for Integrative Medicine, Tsukuba University of Technology as Part of WFAS Tokyo/Tsukuba 2016 SAKURABA Hinata1), FUKUSHIMA Masaya1), KONDO Hiroshi2), SASAOKA Tomoko2), SASAKI Ken2), KATAI Syuuichi2) 1)Center for Integrative Medicine, Department of Health, Faculty of Health Sciences,Tsukuba University of Technology 2)Acupuncture and Moxibustion Course, Department of Health, Faculty of Health Sciences, Tsukuba University of Technology Abstract: The WFAS Tokyo/Tsukuba 2016 international symposium was held at Tsukuba International Congress Center on November 5 and 6, 2016. As part of the event, we gave visitors the option of taking a tour of the Center for Integrative Medicine in Tsukuba University of Technology. The aim of the tour was to introduce our university, which is an institution of higher education for visually impaired students, and the Center for Integrative Medicine, in which research on integrative medicine that incorporates Western and Oriental medicine is conducted. First, after giving an outline of our university and this center, we conducted a tour of the facilities. We subsequently performed a demonstration of electro-acupuncture therapy on the nerves and muscles and finally demonstrated Kanshin-ho (acupuncture with a guide tube) and direct moxibustion using a half-size rice grain of moxa floss. A total of 33 participants from Asia (e.g., China and Singapore), France, the United States, and elsewhere participated in improving their understanding of the university, the center, and of Japanese acupuncture and moxibustion. Keywords: WFAS Tokyo/Tsukuba 2016, Center for Integrative Medicine, Optional tour