音声インタフェースと関連デバイスによる視覚障害者の可能性の拡大 鶴見 昌代1),河原 正治1),宮城 愛美2),小林 ゆきの2) 筑波技術大学保健科学部情報システム学科1) 障害者高等教育研究支援センター2) キーワード:音声ユーザインタフェース(VUI),スマートスピーカー,視覚障害者 1.はじめに  近年の情報技術の急速な発達により,社会環境は大きく変わり,最新のテクノロジーにより視覚障害による障壁が減少し,音声による新しいインタフェースであるVUI(Voice User Interface;音声ユーザインタフェース)も登場した。視覚障害者は,日常的に,視覚情報の不足を音声情報で補うことが多く,音声によるコミュニケーションの機会が多い。このようなことから,音声ユーザインタフェースは,視覚障害者にとって非常に使いやすいものであり,非常に意義の大きいものであると考えられる。  我々は,[1]でも公表しているとおり,これまでにもこのプロジェクトに関して多くの取り組みを実施している。  研究代表者自身がプロの開発者が参加するハッカソンにおいて,複数回入賞しただけでなく,研究協力者である視覚障害のある学生が一般のプロの開発者が参加するイベントにて入賞し,視覚障害者自身がスマートスピーカーのアプリケーション(スキル)開発において活躍できる可能性を実証している。また,JAWS DAYS2019では,一般のプロの開発者の中で講演が採択され,視覚障害者がプログラミングすることの可能性についてアピールすることができた。  視覚障害者のためのイベントであるサイトワールドにおいては,2018年と2019年に視覚障害者によるスマートスピーカー活用の可能性について,参加型のデモンストレーションを行った。視覚障害のある中高生にもデモンストレーションに参加していただき,本学の魅力をアピールすることができた。2020年度には,Amazon社からの協力を得て,視覚障害者のためのイベントであるサイトワールドにおいて,スマートスピーカーとスマートホームデバイスに関するデモンストレーションを実施することを計画していたが,サイトワールドが中止になったため,デモンストレーションを実施することができなかった。  2019年に音声ユーザインタフェースに関して視覚障害者の可能性について茨木テックプラングランプリで発表したところ,最優秀賞と常陽銀行賞を獲得できた。このことから,茨城県のIT企業に2020年度より毎年5名の学生を1週間インターン受け入れしていただくことができている。さらに2022年4月にはこの企業に学生が就職する機会を得た。  Amazon社より,これまでの取り組みを評価され,スマートスピーカーEcho Spotを150台以上寄贈いただくことができた[2]。このため,希望する保健科学部学生にEcho Spotを無償で配布した。このことで,本学に所属する価値を高めることに貢献できた可能性がある。希望者がいれば,設定方法に関する説明会を開催する予定であったが,ほとんどの学生が自力で設定でき,特に設定方法に関する説明会を必要としないと回答したため,説明会は実施しないこととした。スマートスピーカーについて,「今まで知らなかったが,すぐに使いこなせるようになった」と回答する学生が多く,このことからも今回無償配布した意義があったと考えられる  スマートスピーカー・スマートホームデバイスに関する利活用に関する調査分析を公表し[3],その後,この論文が認められ,IBM賞を受賞した[4]。さらに,国内の学術会議において研究成果を公表した[5]だけでなく,特別支援に関する著名な国際会議であるICCHP[6]やCSUN[7]でも講演が採択され,論文の公表や講演を行うことで,この研究プロジェクトを世界的にもアピールすることができている。  2019年に本学保健科学部情報システム学科の体験入学としてオープンキャンパスでスマートスピーカーのアプリ開発に関するデモンストレーションを実施した結果,この体験入学に参加して,魅力を感じた学生が何人も大学に入学した。その学生たちを中心に,2021年にも本学保健科学部情報システム学科の体験入学としてオープンキャンパスでスマートスピーカーのアプリ開発に関するデモンストレーションを実施した。デモンストレーションを担当した学生たちから,この経験をしたことで本学に入学してよかったという感想をもらうことができた。  2021年は,文部科学省職員の視察や,つくばエクスプレスとの連携協定に関係する職員の視察などの際にも,本研究プロジェクトが協力することができた。本学情報システム学科の学生有志とともに,「筑波技術大学スマートスピーカーアプリ開発チーム」としてスマートスピーカーのアプリをこれまでも複数開発し,本学の名前をアピールしているが,現在も,体験授業に担当者として参加した学生たちを中心に新たなアプリ開発に取り組んでいる。現在は音声認識の調整中であるが,近日一般公開できる見込みである。アプリが一般にリリースされれば,本学をさらにアピールできるだけでなく,開発した学生の実績となり,就職活動にも有利になると考えられる。プログラミングに関心のある学生たちが集まり,一つのアプリを作り上げるという過程を経験すること自体も,今後の彼らの未来にとっても意義深いと考えられ,本学の魅力を高めることができたと確信している。視覚障害者のリーダーとなるような学生を育てるという意味においても,重要な取り組みになった。  2020年に指導する学生が埼玉県立特別支援学校塙保己一学園および茨城県立盲学校において体験授業を実施し[8,9,10],このことにより,盲学校に対しても本学の取り組みをアピールすると同時に,盲学校生徒の生活の質を高め,彼らに進路の多様性の気づきを与えることができている。さらにこの指導学生は奨励賞を受賞しており[11],このことでも学外に対して,研究プロジェクトのみならず,本学の存在意義をアピールできる機会となった。また,高大連携という意味でも,意義の大きい取り組みとなった。2021年には茨城県立盲学校のオンライン大学見学に繋がった。さらに,在学生がこのような取り組みに参加することで,受験生獲得に貢献するだけでなく,在学生の教育にも役立つと考えられるため,このような取り組みを今後も行っていきたいと考えている。  来年度はこの研究プロジェクトを継続・拡大し,さらに本学の価値を高めていくことに寄与したい。 参照文献 [1] スマートスピーカー(AIスピーカー)アプリ(スキル)開発教育・研究プロジェクト,http://www.cs.k.tsukuba-tech.ac.jp/labo/tsurumi/SmartSpeaker/ [2] Amazon様よりスマートスピーカーEcho Spotをご寄贈いただきました,https://www.tsukuba-tech.ac.jp/news/news_2020/vi_2020111901.html [3] 鶴見 昌代,宮城 愛美,新美 知枝子,視覚障害者のスマートスピーカー・スマートホームデバイスの利用状況に関する調査分析, 情報処理学会研究報告2020-AAC-13,2020.8.29 [4] 鶴見 昌代,宮城 愛美,新美 知枝子, 情報処理学会アクセシビリティ研究会第5回IBM賞,2021.3.30 https://www.tsukuba-tech.ac.jp/activity/vi_2021042001.html [5] 鶴見 昌代,宮城 愛美, 音声ユーザインタフェース設計における視覚障害者の可能性, 第30回ライフサポート学会フロンティア講演会2021.3.10 [6] Masayo Tsurumi, Manabi Miyagi, and Yoshihiro Tamura, Survey on Use of Smart Speakers and Smart Home Devices by Visually Impaired People in Japan, A. Petz and K. Miesenberger(eds.), ICCHP Open Accessb Compendium–Future Perspectives of AT, eAccessibility and eInclusion–, pp.55-62, (2020) ISBN: 978-3-9504630-2-6 [7] Masayo Tsurumi, Manabi Miyagi, Possibilities for people with Visual Impairments in Designing Voice User Interface, 36th CSUN Assistive Technology Conference , 2021.3 [8] 中村 友海,鶴見 昌代,宮城 愛美, スマートスピーカー・スマートホームデバイス活用に関する体験授業,埼玉県立特別支援学校塙保己一学園体験授業,2020.11.9, 12, 13 https://www.tsukuba-tech.ac.jp/activity/activity_2020/vi_2020012201.html [9] 中村 友海,鶴見 昌代,宮城 愛美, スマートスピーカー・スマートホームデバイス活用に関する体験授業,茨城県立盲学校体験授業,2020.12.9 https://www.tsukuba-tech.ac.jp/activity/activity_2020/vi_2021012601.html 茨城県立盲学校公式ブログ:https://ibamou.blogspot.com/2020/12/blogpost25.html [10] 中村 友海,鶴見 昌代,宮城 愛美, 盲学校におけるスマートスピーカー活用の可能性,第30回ライフサポート学会フロンティア講演会,2021.3.9 [11] 中村 友海,盲学校におけるスマートスピーカー活用の可能性,第30回ライフサポート学会フロンティア講演会奨励賞,2021.3.9 https://www.tsukuba-tech.ac.jp/activity/activity_2020/vi_2021031201.html